双極性障害の方向け就労移行支援~双極はたらくチャレンジ東京の松浦秀俊さんにインタビュー
仕事 暮らし
「気分の波と付き合いながら、一般雇用へ」をスローガンに、主に双極性障害の方を対象とした就労移行支援事業所「双極はたらくチャレンジ東京」が東京・日本橋でスタートしました。リワーク支援の「リヴァトレ」や宿泊型転地療養サービス「ムラカラ」といった事業所を展開する株式会社リヴァの、新たな取り組みです。
これまで気分障害全般に焦点を当ててきた株式会社リヴァ。躁鬱の繰り返し、すなわち「気分の波」に重点を置いたのは、支援者にとっては十分な対応が難しく、当事者にとっては自分に合う支援に繋がりにくい“噛み合わなさ”があったからです。
事業所の特徴や気分の波に対する4つの取り組みについて、双極はたらくチャレンジ東京を企画した松浦秀俊さんにインタビューしました。気分の波に対する取り組み
──利用者の状況に応じた復帰プランはどのように作成されますか?
担当者との相談を通じて、一人ひとりの状況や目標に合わせた復帰プランを作成します。無理のないステップで復帰をサポートできるよう、個別に調整を行っています。
──集団プログラムではどのような取り組みが行われますか?
「近い悩みを持つ方と一緒にプログラムを受講し、悩みや不安を共有しながら学ぶことができます。共感を得ることで『自分だけではない』という安心感を持てるほか、自分では気づかなかった視点やヒントを得られるのが特徴です。特に、躁状態についてのエピソードや対処方法をオープンに扱える点が、当施設の大きな強みです。」
──気分や体調の変化をどのように管理していますか?
「毎日午後のプログラム終わりの10分間を使って気分や体調の変化を記録します。この記録を活用することで自己理解を深め、より良いセルフマネジメントができるようになります。ウェアラブル端末を活用することで、より細かいデータ取得が可能となるため、希望者にはFitbitという端末を貸与しています。」
──一般雇用を目指すためのサポートにはどのようなものがありますか?
「ビジネススキル向上のためのトレーニングや職場実習、就職活動支援など、一般雇用に必要なスキルを習得できる実践的なサポートを提供しています。仕事に必要なスキルを身につけるだけでなく、実際の職場環境での経験を積むことで、自信を持って就職活動に取り組めるよう支援しています。また、キャリアデザインワークというプログラムを通じて、働き方や生き方も再検討いただいています。」
サビ管は臨床心理士、集団プログラムの強みも活かす
──事業所の特徴や強みについて教えてください
「双極性障害に有効とされている対人関係社会リズム療法というものがあるのですが、心理療法としての裏付けも踏まえて作成したフォーマットに則ってモニタリングしています。臨床心理士もサービス管理責任者として勤務しています。現在、インターン先はまだ限られていますが、今後徐々に増やし、一般雇用にチャレンジできる事業所を目指しているところですね。」
──基本的にはリヴァトレ(リヴァが2011年から提供する復職・再就職支援サービス)のプログラムがベースになっているのですか?
「支援の共通スタンスとしてリヴァトレがあり、双極性障害に必要なプログラムを強化しています。リヴァトレには自分の取扱説明書を作る プログラムがありますが、双極性障害の特性を考えると不十分な部分もあるため、躁状態とうつ状態の両方を扱えるプログラムに改変しています。双極性障害の就労継続に何が必要かを研究するプロジェクトを琉球大学とリヴァの共同で計画しており、双極はたらくチャレンジでのデータ提供も兼ねて、利用者にスマートウォッチを貸し出しています。」
──集団プログラムのメリットについて教えてください
「プログラムの中では毎回振り返りの時間があります。自身の気づきを紙に書くだけでなく、話すことで自分の考えに気づくことがあり、周囲もまた気づきを得られます。何より、他者の意見や体験が参考になり、それが自信につながったり、取り組みを促進したりします。一人だとモチベーションが続かなくても、集団なら『自分も頑張ろう』『しっかり取り組もう』と良い刺激を受けることができます。私たちのプログラムはほぼ全て、集団で協力してシェアする形になっているので、支援者としては場の提供と安全を担保することに集中していますね。」
日本で唯一の取り組み
──当事者からの反応はどうですか?
「体験や見学などで、2人に1人は前向きな反応をされています。比較対象がないのもあるでしょうが、入所を前提に話をされる方もいらっしゃいますね」
──双極性障害以外の疾患でも利用できますか?
「他の精神疾患がある方も利用できます。都の指定でも精神障害が対象となっています。コンセプトとして『気分の波にお困りの方へ』と掲げており、その特性に最も当てはまるのが双極性障害ではないかと考えていますが、特定の疾患に限定しているわけではありません。」
──将来の目標や構想などはありますか?
「開始当初から琉球大学と共同研究を進めているのは、双極性障害に特化した支援が他では確立されておらず、人材の確保も難しいと考えているためです。研究によって得られた知見を社会に発信し、支援の質を高めるとともに、実践的なノウハウとして広く共有できる部分を見出していきたいと考えています。」
──他に双極性障害に特化した事業所はありますか?
「私の知る限り、双極性障害に特化した就労支援の事業所はありません。復職支援に関する大学の研究も、多くはさまざまな精神疾患の中から双極性障害のデータを抽出したものばかりで、最初から双極性障害だけを対象とした就労分野での研究は見当たりません。」
──最後に伝えたいことはありますか?
「双極性障害の支援ができる事業所はまだ少なく、『紹介したい』『つなぎたい』といったお声が多いです。精神疾患は多様で対応が難しい部分もありますが、双極性障害への支援について悩んでいる方がいれば、一度相談に来ていただければと思います。」
双極はたらくチャレンジ東京のHP
https://bipolar-work.com/hatachalle
双極性障害(躁うつ病)