告げ口って悪いことなの? ~空気読めない、暗黙のルールがわからない子ども時代を振り返る

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小学校に入る前の記憶は、ほとんどありません。自分が親に抱かれた記憶も、3歳で妹が生まれて寂しいと感じた記憶さえも。ただ幼稚園で教わった十数曲の歌だけは、今でも歌えるほど鮮明に覚えています。少し変わった子だったのかもしれません。

「ささいなことで告げ口する癖があり、困っています」

わたしは目立たない、おとなしい子どもだったと思います。クラスみんなで行うドッヂボールが好きでしたが、図書室で休み時間を過ごすことも少なくありませんでした。 ある日、母親に厳しくとがめられます。通知表に書かれた先生のコメントは、わたしにとって青天のへきれきでした。 「ささいなことで告げ口する癖があり、困っています。注意しても治りません」 「告げ口」という言葉を、わたしはまだ知りませんでした。母に説明してもらいましたが、そのことで先生に注意された記憶が全くありません。 おぼろげな記憶をたどってみます。休み時間や掃除時間、石を投げてくる男子がいて先生に助けを求めたのでした。当たったら痛いだろう、怖い、助けて。そんな単純な恐怖心から助けを求めることが、「告げ口」と呼ばれ忌み嫌われる行為であったことを初めて知りました。

「ぼくがもらってあげる」

クラスが変わるといじめが始まります。その時は、原因がわかりませんでした。ちょっとしたきっかけで数人、もしかしたらそれ以上の男子に囲まれて殴られたり蹴られたり。呼びとめられて振り向きざまにお腹を蹴られたこともありました。 終わりの会が始まって日直が「静かにして」と言っても、おしゃべりをやめないクラスメートたち。見兼ねて「静かにしよう!」と大きな声を張り上げたことが何度かありました。ふだん目立つ存在ではないわたしの大声は周囲にどう映ったのか。自分で気づいていること、いないこと、さまざまなことが積もり積もっていじめにつながったのでしょう。 クリスマスにクラス全員で手作りのプレゼントを交換することになりました。母と相談して、粉ミルクの空き缶にパッチワーク風の布を貼って小物入れを作ります。自分が欲しくなるぐらい素敵な小物入れと交換に回ってきたプレゼントは、割りばしと紙コップで作ったけん玉。心底がっかりしたわたしは「こんなのいらない」と周りを気にせず言い放ってしまいます。 「けん玉、面白いと思うけど。気に入らないなら、ぼくがもらってあげる」 入退院を繰り返していた男子がけん玉を引き受けてくれました。意地悪を言わず乱暴をしない彼に、わたしは好意を持ちはじめますが、間もなく彼は学校に来なくなりました。 その後、転校という形でわたしはいじめから解放されました。小学校卒業の直前に彼が白血病で亡くなったと、友達の手紙で知りました。

「お母さんがどんなに恥ずかしかったか、わかる!?」

近所に住む友達の家に大きな本棚があり、人形遊びの合間に本を読ませてもらうのが何よりの楽しみでした。ついつい熱中してしまい、友達が声を荒げることもたびたびありました。 ふたたび母にとがめられました。クラス懇談会で、友達のお母さんが先生に抗議したそうです。自分の子どもはいくら本を与えても全く読まないのに、わたしばかり夢中で読みふけっていて、悔しくて悔しくてはらわたが煮えくり返るようだと。 「お母さんがどんなに恥ずかしかったか、わかる!?」と怒鳴られました。なぜ本が好きでたくさん読んで母に責められるのか、当時のわたしにはよくわかりませんでした。 この頃から、追いかけられる夢をしばしば見るようになります。青や緑の宇宙人、ヤスデのような小さな赤い虫、とくに家族に追われて命からがら逃げる夢は、十代の後半まで見ることがありました。

「こんなに心配してるのにわからんのか!」

中学生になり、お弁当を囲む数人の友達を作ることができました。比較的おだやかな女友達とのトークで、人並みにお弁当時間を楽しむことができました。 しかし、信じがたい事件が起こります。週に何度か特別支援学級に通うひとりの男子を、わたし以外のお弁当仲間たちが罵っているところを目撃したのです。少し迷ったあと、先生に相談しました。 後日、母を交えて三者面談がありました。「気になったことは、ちゃんと報告してくれるもんねー」先生は笑顔でわたしに目配せします。母の表情がこわばりました。帰宅後、母に問い詰められて経過を伝えると、ひどく叱られました。手をあげられたかどうかは覚えていませんが、その言葉は心に深く突き刺さりました。 「あんたがまたいじめられないか、こんなに心配してるのにわからんのか!」 その後、お弁当仲間の態度が変わることはありませんでした。大事にならないよう先生が対処してくださったことには今も感謝しています。 しかし、彼へのいじめに先生がなんらかの手を差し伸べてくださったのかどうか、今となっては確かめるすべもありませんが気になってしまいます。 告げ口って悪いことでしょうか。ひきょうなことでしょうか。 相手より優位に立つため、貶めるための告げ口ばかりでなく、自分自身や他の誰かに対する「悪意」が心底恐ろしくて助けを求めることもあります。そんな心のSOSまでひきょうもの呼ばわりされる学校や社会でありませんように。そう心から祈っています。

おさんぽ

おさんぽ

適応障害、うつ病を経て、2019年に双極性障害と自閉症スペクトラム障害(アスペルガータイプ)の診断を受ける。ライターとウェブサイト校閲の経験があり、文章を書くこと、原生林を歩くこと、南の島で泳ぐことが好き。

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