外から見えない障害、どんな風に大変ですか?~ADHD、説明の仕方に悩む

発達障害 その他の障害・病気

出典:Afif Ramdhasuma on unsplash

外見から障害があるとすぐには分からない、内部疾患、精神障害、知的障害、発達障害。最初から障害があることをオープンにしているのであれば話は違いますが、あるときから障害者であることを打ち明けた場合「その障害って、どんな風に大変なの?」と質問されることがあります。

友人からそのような質問を受けた私は、障害特性について説明しようとしたところ、予想外の反応が返ってきたことに戸惑ってしまいました。

プロローグ 「健常者」に見える「障害者」

口コミで広まったWEB漫画『初恋、ざらり』。私は連載の途中から、リアルタイムで追いかけていました。

この漫画の作者は、自らも発達障害の診断を受けている「ざく ざくろ」さんです。

軽度知的障害があることを隠し、フリーターとして生きる有紗(ありさ)が物語の主人公です。有紗はあるバイト先で、上司である優しい岡村さんと、初めての恋に落ちます。有紗は交際してすぐ、障害があることを打ち明けます。

岡村さんは有紗とつきあうなかで、娘の世話に疲れきった彼女の両親や、同じく軽度知的障害を持つ有紗の友人の激しい癇癪を知るようになります。そしてあらためて、知的障害者とつき合う難しさを実感するようになります。

一方の有紗も、しだいに岡村さんの自分に対する苦悩に気づきはじめ「普通になりたい」と願うようになってしまうのです。

連載中は、有紗と岡村さんを応援する意見がほとんどでした。しかし、書籍化されたときには「有紗みたいな子、現実にいたら近寄りたくない」「家の中の事を全て、岡村さんがずっとしなければいけないのはキツイ」と批判的、懐疑的な感想も見かけました。

個人的には「障害を隠して苦しんでいる人が、世の中にはもっといるかもしれないと気付いた」という感想にホッとしましたが。

内部疾患、精神障害、知的障害、発達障害など「外見からは障害がわからない」障害者はたくさんいます。その中でも、有紗のように「障害を隠す障害者」は相当数いると思われます。

以前は私もそうでした。障害を隠したのは、極めて単純です。精神障害者だと分かると、友人や職場から偏見の目で見られたり、差別を受けるのではないかと恐れたからです。

実際、発達障害をカムアウトしたところ、相手から「障害は自分で克服するもの」「ただのわがまま」といわれた方も、残念ながらいらっしゃるようです。

しかし私は、障害特性による職場への不適合から転職を繰り返し、障害を伏せ続けることに限界を感じ、障害をオープンにすることに決めました。最初は職場に対してのみ開示しましたが、自分と同じように精神疾患に悩む友人や、心を許した親友、ピアノの先生にも打ち明けました。

カムアウトして1年以上が経過しましたが、打ち明けても離れていく人がいなかったのは幸いでした。障害開示に何の抵抗もなくなった私は先日、同じピアノ教室の友人2人にも、双極性障害でありADHDであることを話すことにしたのです。

私も同じなんだけど

カムアウトしたときの2人の反応は「そう(=障害者に)見えない」でした。

実は、カムアウトした方ほぼ全員から最初にこういわれています。いわれるたび「私は健常者に見られている、みんなが嫌いな『面倒なメンヘラ女』には見えてない」とさえ感じていました。

話を元に戻します。「そう見えない」といった後、うち1人が「最近よく聞くけど、ADHDってどんな障害?」と私に質問しました。そんな質問を今までされたことがなかったので、とても驚きましたが同時に嬉しく思いました。ADHDに興味を持ってもらえたのかと思ったのです。

そこで「注意優勢型のADHDあるあるなんだけど、仕事のケアレスミスが多い」と説明してみました。2人の表情を観察してみると、2人とも何か考え込んでいるようです。(私のいい方が「ミスは障害のせいなんだから、仕方ない」と開き直ってるように聞こえたのかな?)とうろたえていたのですが、友人たちの返事は、予想とは違いました。

「私も、よく仕事でミスをするんだけど……」

「事務職のケアレスミスって、あるあるだよ」

あれ?ケアレスミスが多いのは、ありがちなの?と私は戸惑いました。では別の特性を説明しようと思い「マルチタスクが全然できない。納期調整や出荷手配などの処理漏れが多く、毎日叱責された」と話してみました。

これなら伝わるかな?という期待をよそに、友人からの反応は「私もマルチタスクが苦手。職場の同僚にもマルチタスクができない人がいる」という先ほどと同じようなものでした。

では、これをいうしかない!と私は開き直り、特性の中でもっとも辛いと思うものを打ち明けました。

「実は片付けが全然できないんだ。小さいときからできなくて。部屋の中とか、いつも散らかる」

これでどうだ!と思った私でしたが、

「私も部屋散らかってる、忙しいと散らかりがち」

と2人声を揃えて帰ってきた答えに、思わず絶句してしまいました。

てっきり「それは大変だね」と反応が返ってくると思っていた私は戸惑いました。「ケアレスミスが多い」「マルチタスクが苦手」「片付けが苦手」これは不注意優勢型ADHDの特性のはずなのに、2人とも「私も同じ」といっています。かといって、2人ともADHDとは思えません。いや、友人からすれば私もADHDに見えないのでしょうけど。

はっきりと、いわれたわけではありませんが、2人の表情からは「ADHDの何がそんなに大変なのか」という戸惑いが伝わってきたように感じていました。

自分は発達障害の事を大袈裟にとらえすぎなのか、とも考えました。

ぐるぐると考えが頭の中をかけめぐります。「過去の失敗を、もっと具体的に話せばいいのかな?それとも診断書を見せる?でも、そんなの持ち歩いてないし……」

結局、私は「ミスを起こして会社に何回も迷惑をかけたし、自分も職場も毎日大変だった。仕事や生活に支障が出てしまうのは、障害だと思う」としか説明できませんでした。案の定、友人は2人とも不可解そうな表情でした。

友人と別れた後、私は電車の中で「どう説明すれば良かったのかな」と落ち込んでいました。

自分達と同じ「健常者」と思っていたのに、突然障害者だと打ち明けられ、どれほど大変かと思えば、自分達に共通する悩みでしかない。「それ、本当に障害?」と疑われたのではないか、と悪い想像が止まりません。

グループホームに帰っても、まだ考えていた私は「やはりあの時、もっと強烈なミスについて話せばよかったのかも」と思いつきました。どのエピソードがよいのか考えているうちに、深刻なミスを起こし激しく叱責されたつらい記憶を、いくつも思い出してしまいました。その結果、ひどく気持ちが落ち込んでしまい、数日間体調が悪くなりました。

障害特性の大変さを、どう説明しますか?

やがて体調が元に戻った私は「この経験が誰かの役に立つかも。この出来事をコラムにしてしまおう」と考えました。

しかし「外から見えない障害の大変さを、うまく説明できず落ちこんた」というだけでは、ただの自分の感想でしかありません。それなら解決方法も調べようと考え、先日主治医に診察を受けた際、相談することにしました。

主治医は少し考えた後「発達障害や精神疾患は、以前よりは世間に知られるようになりました。しかし、発達障害であれば障害特性がどのようなものか、実態をよくわっていない方が多い。病名だけがひとり歩きしている状態です」

私は「確かに」とうなづきました

主治医は「発達障害は、誰もが持つ特性が、定型発達の方の何倍も極端に現れる障害なのです」「例えばケアレスミスだと、定型発達の方にどの程度ミスをしているのか確認すると、せいぜい週に1度のミスを『ミスがとても多い』とおっしゃるのです」「ミスの頻度や内容など、困りごとを明確にしてお話するのは、いいと思います」といわれました。

また、もう1つアドバイスを下さいました。

「障害特性をお話するときに『この人にすべて理解してもらおう』と意気込む必要はないですし、伝わらなくても落ちこまないで下さい」「発達障害や精神疾患の実態について知らない方は多く、興味はあっても、正しく理解したいと思う方は多くないのです」「障害を持っていることを打ち明け、特性について自分の言葉で説明できた自分を、褒めてあげてください。その後ほかに何か質問があれば、具体的に答えてあげて下さい。それ以上聞いてこられない場合は、もう説明しなくてもいいと思います」

このアドバイスを聞いて、私はあることに気がついたのです。

実は私は友人に「自分には発達障害とそれにともなう2次障害があり、今後も2次障害の影響で体調が悪化するかも知れないが、過度に心配しないでほしい」と伝えたかったのです。ところが、友人からの質問があったにせよ、いつの間にか「何とかこの辛さを、2人に理解してもらわなくては!」と、話の目的がそれてしまっていました。

決めつけていませんか?

「病名だけがひとり歩きしている」という主治医の話には、思い当たることがありました。

例えば、趣味のサークル内にちぐはぐな受け答えをしたり、会話に無理にわりこんだり、会話中ずっと自分のことばかり話す人がいます。その人のことを「あの人アスペだよね」と噂しているのを、何度か耳にしたことがあります。

他には、うつ病を公表して仕事している友人が、同僚に「君はいつもはきはきして明るいけど、本当にうつ病なのか?診断書を見せてみろ」と絡まれ、とても落ち込んでいたことも知っています。

障害の知識のない人が、ネットで仕入れた知識の断片だけで、そこにあてはまる人に対して「発達障害」と自己判断。その逆に、やはり断片的な知識しかないのに、そこにあてはまらない精神病者に対し「嘘っぽい。『自称』精神病患者かも?」と嘘だと自己判断。

自分から見えている他人の一部分だけを見て「この人は発達障害だ」「この人はうつ病じゃない」と決めつけてしまう傾向は、特にSNS上に多いと感じます。

まとめ

今回のケースについては、自分の言葉で説明できたことで、よしとしたいと思います。そして、今後「外からは見えない障害・疾患」の開示を検討されている方のために、主治医からの以下の3項目に意見をまとめました。

1、特性については、何にどれくらい困っているか、具体的に話してみましょう。私の特性で例をあげますと「ケアレスミスは、定型発達の人の数倍の頻度で発生する」などです。今回のケースのように「私もよくミスをする」という反応のときは、その方にミスの頻度などを確認してみましょう。それから具体的に自分のエピソードを説明すると、違いが伝わりやすいかも知れません。

2、相手が納得していない様子でも、それ以上質問をしてこない場合はそこで一旦引き、打ち明けられた自分をいたわりましょう。

3、最初から「私の大変さを理解してもらおう」と意気込むことはありません。特に知的障害、精神疾患、発達障害、内部疾患などの「目に見えない障害」については、実態をよく知らない人はたくさんいます。頑張り過ぎは禁物です。

もっとも、説明方法については、必ずしもこれが正解というものは無いと私は考えていますし、病名だけがひとり歩きしてしまっている現在の状況は、誰にとってもよいとは思えません。実態が具体的に紹介されるような、啓発や問題提起がもっと必要なのかもしれませんね。


【発達障がい者の障がいカミングアウトに関する調査(親・恋人・親友・知人編)】
http://www.gp-sri.jp

【初恋、ざらり(1) (コルクスタジオ) Kindle版】
https://www.amazon.co.jp/ref=nav_logo

オランプ

オランプ

長年にわたってうつ病で苦しみながらも病気を隠して働き続け、40歳になる前にやっと病気をオープンにして就労したものの生きることのしんどさや職場でのトラブルは軽減されず。実はうつ病の裏に隠れていたものはADHDであり、更に気が付けばうつ病も病名が双極性障害に変化。これだけ色々発覚したので、そろそろ一周回って面白い才能の1つでも発見されないかなーと思っているお気楽なアラフォー。
実は自分自身をモデルにして小説を書いてみたいけど勇気がない。

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