「アンパンマン点字ブロック問題」から分かる、社会の無知が課す障害

身体障害
Photo by Matthew Henry on Unsplash

視覚障害者の中でも白杖を使う人にとって欠かせない「点字ブロック」ですが、見える人(晴眼者)にとってその重要性は伝わりにくいものです。そして、ごく一部の晴眼者は点字ブロックの重要性が分からないあまり、点字ブロックをおもちゃにして問題を起こすことがあります。児童向けレジャー施設「アンパンマンこどもミュージアム」でも、点字ブロックをおもちゃにする取り組みがあり、視覚障害者から厳しい指摘を受けました。

隠しアンパンマン騒動

全国に5カ所ある「アンパンマンこどもミュージアム」のうち、神戸と仙台の2か所で取り入れられた「仕掛け」が話題の元凶となりました。それは、「点字ブロックの中にアンパンマンが隠れている」というもので、点字ブロックを構成する突起の一部がアンパンマンの刻まれた鋲へと差し替えられたのです。

「隠しアンパンマン」の意図するところは、隠されたアンパンマンを見つける喜びの体験を仕掛けたいというアイデアだったそうです。確かに、隠しアンパンマンが居るとなると、来場者の中には探そうとする子どもたちも出てくることでしょう。

では、点字ブロックにアンパンマンを隠すとどうなるでしょうか。当然、子どもが点字ブロックの上でしゃがみ込んでアンパンマン探しを始めます。そこに点字ブロックを頼りにする視覚障害者が通ろうとすると、トラブルになりかねません。「うちの子が白杖で叩かれた!」「視覚障害者に蹴飛ばされた!」と騒がれて悪者扱いされることもあるでしょう。

この仕掛けは視覚障害者の間で前から評判が悪かったらしく、「視覚障害者のことを考えていない」「想像力が欠けている」「前々から危険だと思っていて、問い合わせた人も居るが、一向に改善の気配がない」と非難の声が出ていました。

メディアへの回答拒否から一転

ネットニュースメディアの「まいどなニュース」は、点字ブロックをいじったとされる「神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール」へ4つの質問を寄せました。しかし、1週間後に「ご質問には回答しかねます」という冷たい返事だけを貰います。

まいどなニュースがこのやり取りを記事として掲載した数時間後、一転して同施設から質問への回答が届きました。以下が質問と回答になります。

問1:なぜ点字ブロックの一つをアンパンマンにしたのですか?
答1:当時の経緯を知る担当者が不在のため、詳細な記録がございません。

問2:視覚障害者らの「危険だ」という訴えをどうお考えですか?
答2:ご意見を真摯に受け止め、通常の点字ブロックへ順次交換いたします。

問3:施設としては安全面にどのような配慮をなさっていますか?
答3:点字ブロックに関して特別な対応はしておりません。隠れアンパンマンを探そうなどといった広報活動は控えております。

問4:導入時に内部で疑問や反対の声は上がらなかったのですか?
答4:当時の経緯を知る担当者が不在のため、詳細な記録がございません。

拒否から一転して答えた割には誠意のない回答です。しかし、まいどなニュースは「多くの家族連れが来る春休みシーズンの前に対応してくださったのはとても有難いです」という視覚障害者の反応を載せるだけに留め、大人の対応で続報を締めくくりました。

「社会が課した障害」の実例、続々と

この件を見ていて、つい最近にあった「ヘルプマークに酷似した特典アイテム」の騒動を思い出しました。あの件でも擁護派は「本物のヘルプマークが知られる機会になったからいいじゃないか」と言い訳していましたが、元々知られているからこそ炎上したのではないでしょうか。(赤十字マークを模倣した別アイテムの方がまずかったという見方もありますが)

共通しているのは、何のためにそれが生まれ必要とされているのかを理解していない無知さ加減です。関わる大人が揃いも揃って無知なので、「面白そうな取り組み」「画期的なデザイン」として無邪気に世へ送り出し、問題を起こしてしまうのです。

また、まいどなニュースが記事を掲載した当初の反応は結構酷かったです。「点字ブロック自体を無くしてしまえばいい」という破局的思考や、「視覚障害者が楽しめる施設でもないのに何故口出しするのか」という偏見などが吐かれていました。昨今は理不尽なクレームが多く過敏になるのも分かりますが、明確な根拠を持った理のある批判意見まで目の敵にされるのは如何なものでしょう。

障害の社会モデルでいうところの「社会が課した障害」は、悪意や嫌がらせで生まれるよりも、知識や想像力などの欠如によって生まれることの方が多いのかもしれません。ただ、無知の産物に悪意の言葉が便乗することはあります。

まとめ

点字ブロックをおもちゃにするような取り組みは、視覚障害者を無用なトラブルへ巻き込みかねず、場合によってはトラブルの加害者として糾弾されることもあり得ます。企画を通した人々からは知識や想像力や誠意の欠如が垣間見えますが、これを報じたメディアは一応の対策を打ったと見做して大人の対応で済ませました。

ところで、日本で初めて点字ブロックが設置されたのは1967年3月18日の岡山県岡山市からだそうです。その55周年の節目にあたる先日、岡山市で点字ブロックの啓発イベントが実施されました。主催者は「点字ブロックを理解する若者が増えていけば頼もしい」とコメントしています。点字ブロックがどういうものか、地道に周知させていきたいですね。


参考サイト

点字ブロックに隠れアンパンマン「危ないからやめて」視覚障害者が指摘
https://news.yahoo.co.jp

隠れアンパンマンの点字ブロック交換へ 回答拒否から一転、アンパンマンミュージアムが再回答
https://maidonanews.jp

「点字ブロック発祥の地」の岡山市で啓発活動
https://news.yahoo.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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