映画『NO LIMIT,YOUR LIFE』毛利哲也監督インタビュー〜挑戦し続けるALS患者の武藤将胤さんとその仲間たちをありのまま描く

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©2023テレビ朝日・フレックス

ALS患者の6年間を取り上げたドキュメンタリー映画『NO LIMIT,YOUR LIFE』の、毛利哲也監督へインタビューを行いました。この映画は、難病ALSと闘う武藤将胤(まさたね)さんの約6年間を密着取材したものです。

武藤さんはALSを発症してから、「視線で音楽と映像を操るEYE VDJ」「電動車椅子カーシェア」 「アパレルブランド」など様々な事業を立ち上げていきます。妻の木綿子(ゆうこ)さんや、オリィ研究所の吉藤オリィさん、同じALS患者の仲間たち、担当医にヘルパー、多くの人々に支えられながら限界知らずの挑戦を続けています。日常をありのままに撮影されており、切開した喉の穴まで映り込む挑戦的な側面もあります。

出会いに次ぐ出会い


毛利哲也監督

──この映画を撮ろうと思ったきっかけを詳しく教えてください
「私はテレビ朝日の『報道ステーション』という番組に13年携わっておりまして、先端医療や終末期医療 を中心に取り組んでいました。2013年に愛知県豊田市に住むALS患者の女性を取材して初めてALS について知りました。延命治療を選ばなかった彼女を取材する中で『ALSが治る未来が実現するまで報道し続けます』と誓いました」
「そんな中、たまたま新聞記事で武藤さんのことを拝見しました。患者特有の大変さや辛さを前面に出さず、オシャレで格好良くキャッチーな物言いが印象的で、只者ではないと感じて会いに行ったのが始まりです。初めて会ったのが2017年4月なので、まる6年の付き合いになりますね」

──ALSに限らず難病支援の困難についてどう感じておられますか
「ALSについて初めて取材したのが10年前のことで、当時はあまり知られていない病気でしたが、翌年のアイスバケツチャレンジによって知名度が上がったと思います。武藤さんは東京に住んでいて重度訪問介護ヘルパーの確保が難しかったので、自身で事業所を立ち上げてヘルパーを雇いながら他の患者もサポートしています。
愛知の女性が延命を選ばなかった理由の一つもそこにあって、高齢の母親が介護で疲弊する様子も見ていました。もしかしたら地方でも介護体制が組めていれば、彼女は生きられていたのではないかとも思っています」
「映画を観た方に伝えたいのは、私が取材したのは武藤さんのケースであって、進行度や居住地によっても違ってきますが、ALS患者の現状として皆様に理解してもらえればいいなと思っています」

足繫く通い信頼を形成


©2023テレビ朝日・フレックス

──映画の見どころを詳しく教えてください
「映画としては初めてなので、色々な方のご意見を聞きながら手探りで作ってきました。ありのままの日常を切り取って見せることが、番組作りの中で得意だと自負しています。撮影に関しては、部屋の中で武藤さんが夫婦で話すシーンがあり、カメラがあって、なお素で語り合っていましたね。カメラがいても気にならない当たり前の存在となるよう、何十回もご自宅に伺い、撮影をさせて頂きました。
ドキュメンタリーの中にある音楽やアニメ―ションは武藤さんらしいエンタメ要素で見所の一つではないでしょうか。密着取材と夫婦の日常、そしてALS患者の家族や仕事や将来などが、あらゆる年代の皆さんに感じて頂ける要素になれば有難いなと思います」

──情報収集はどのようになさったのですか
「特番を取材した時に先生方から教わった知識やインターネットで出てくる情報だけでなく、武藤さんの奥様や、ヘルパーなどに現場でしかわからないALS患者様の置かれた現状を聞き、調べては、また作品に落とし込むという作業を続けてきました」

まず介護業界に厚遇を


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──なかなか表に出られない方に対し思うことはありますか
「少なくとも武藤さんらを取材してきた経験で言うと、我々も気付いていないことが沢山あります。なぜ武藤さんが自分でアパレルブランドを作ったのかというと、介護用品にオシャレを持ち込もうとしたからです。例えば、太ももにジッパーが付いていて脱がなくてもオムツの交換ができ、健常者が履いても違和感なくオシャレに着こなせるジャージを開発しました。このように患者の置かれた現状をヒアリングできる場所と、それが一般の人にも伝わってアイデアを実現できるような仕組みづくりでしょうか」
「分身ロボットのオリィ研究所がまさに『外へ出ることが難しい人が外へ出られるように』という理念を実践しています。なぜ外部との交流が難しいかということは、一般にどれほど伝わっているのでしょうか。そこに関心がないと絶対その情報に行き着かないと思います。メディアとして、そういった方々について発信し続けねばなりません。『自分らしさ』を諦めない武藤さんのような方々の希望を吸い上げていけるシステムを作っていけるといいですね」
「介護従事者の待遇が良くないのはとても残念な事です。その方の尊厳を守るために働くヘルパーなどのお仕事は、医療従事者に近い待遇を受けても良い筈です。高齢化が進む中で介護職の重要性は増してきますが、なぜ厚遇に至らないのか歯痒いものを感じます」

──介護業界はどうすれば給与を上げられるでしょうか
「武藤さんが自身で介護事業所を立ち上げたのには、良質なヘルパーを育成する目的も含まれています。給与が上がらないなどの報道を続けているようでは、求職者からも敬遠されますよね。武藤さんの取り組みは貴重な経験になるので、同じヘルパーの仕事でもやりがいを感じるそうです。若者が介護を重要な職業の一つとして考えられれば、そのきっかけがあればいいですね」

いずれ戦地医療も


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──今後のビジョンや撮りたい作品について教えてください
「私が医療を取り上げる原点は、山口県のテレビ局に勤めていたころ父が脳疾患で亡くなったことです。 後で県内の大学病院を取材した際、『当院に連れて来ていれば、お父様は助かっていたかもしれません』と言われ、住む場所で医療格差があることを実感しました。患者が置かれる状況はとても弱く、なぜ住んでいる所で命に格差が出来るのか憤慨したものです。
東京に転職してからは、先端医療や現場の声を取り上げ、マスメディアとして全国に伝えていき、情報不足で助からない命が出ないよう微力ですが取り組んできました。これからもALSや医療について積極的に報道していきたいです」
「今は戦争問題もあります。戦地で奮闘されている医療従事者が取り組む医療やケアについても、いつか密着取材などをして報道していければいいなと最近は思っています」


映画『NO LIMIT,YOUR LIFE』予告動画

映画『NO LIMIT,YOUR LIFE』公式ホームページ
www.masatane.toeiad.co.jp

障害者ドットコムニュース編集部

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