違いを超えて、ダンスで繋がる〜映画『旅する身体~ダンスカンパニーMi-Mi-Bi~』渡辺匠&志子田勇両監督にインタビュー

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テレビやSNSでは伝えきれない事実や声なき心の声を発信し続ける本気のドキュメンタリー作品に出会える場として開催されてきた「TBSドキュメンタリー映画祭」。4回目の開催となる「TBSドキュメンタリー映画祭2024」で上映される作品の1つ、映画『旅する身体~ダンスカンパニーMi-Mi-Bi~』の渡辺匠&志子田勇両監督にインタビュー取材しました。同映画祭で上映される他の作品についても順次インタビュー記事を載せる予定です。

『旅する身体』は、各々が身体を最大限に使って表現するダンスカンパニー「Mi-Mi-Bi(ミミビ)」が2022年の豊岡演劇祭で演目を披露するまでを追ったドキュメンタリーです。それぞれ異なる身体的特徴を持つダンサー達に次々と焦点を当てながら、各々の感覚を“旅していく”映画となっています。

自己表現はボーダーレス


渡辺匠監督(左)と志子田勇監督(右)

──お二人がタッグを組んだきっかけについてお話しください
志子田「きっかけは2022年の豊岡演劇祭でMi-Mi-Biを記録してほしいとNPO法人DanceBoxから提案されたことで、本番までの道のりや練習風景を撮影していました。ある程度記録映像として形になった段階で、ドキュメンタリー映画として成り立つのではと思い、過去に面識のあったTBSの渡辺匠さんと相談して映画作りが始まりました」

──障害者の映画化についてどのような思いでしたか
渡辺「私には低酸素脳症で生まれ、脳性麻痺を持つ4歳の息子がいるんですが、彼は身体が上手く動かせません。長男のことで悩んでいるとき、志子田さんが撮られた映像が希望になったというか、ダンスで前向きに表現する生き様を感じて、映画化したいというモチベーションに繋がりました。志子田さんはまた違った目線だと思いますけれども」
志子田「そうですね、今まで周囲に障害者が居なかったので、DanceBox依頼を受けたときは障害者へカメラを向けることへの畏れがありました。ところが稽古場へ足を踏み入れた瞬間、ボーダーレスというか、己の身体を通して自己表現をする活動に障害の有無などないと思い知らされました。障害をモチベーションに変えているのではという偏見が打ち破られ、当たり前のことが当たり前に動くことを彼らに教わりました。人間社会は線引きのない曖昧な区別で関係を築いていることを観客にも伝えたいです」

──長田区の地域性は意識して描かれたのですか
志子田「神戸出身で3年前に須磨区へ戻ったのですが、新長田のことはあまり知りませんでした。長田区に通う中で、国籍からして様々な人間が混ざり合っているのが心地いいというか、誰でもウェルカムという雰囲気を感じました。そんな長田区の環境が、色々な人の活動するMi-Mi-Biにもいい影響を与えているのではないでしょうか」

「信念のある人」が頑張る様子


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──映画というエンタメとして表現するまでの流れを教えてください
志子田「側弯症の森田さん、車椅子の福ちゃん、半身まひの幸ちゃん、視覚障害の美津子さん、聴覚障害のKAZUKI等、色々抱えた人が、『障害はこういうことだ』ではなく『各々の感じる世界とは何だ』という目線でダンスを見ます。耳の聞こえないKAZUKIや目の見えない美津子さんが世界や周囲をどう認識してコミュニケーションをとるのか、理論ではなく実践で興味を持って取り組みました。『こういう障害です』ではなく、『この身体でどう表現するか』をダンスから見出せるよう撮影してきました。自分が知っていく過程をドキュメントにしたとも言えます。他人を知るとはこういうことに尽きるのではないでしょうか」
渡辺「映画って、どこまで感情移入するかは別として、他人の人生を垣間見るようなものだと思います。今回の作品も『旅』ということで、ダンサーたちの身体感覚を“旅する”ようなシーンを入れているのですけれども、今まで知らない世界が見えてくるのではないかと思っています。映画であれば66分間見ているだけで、彼らの感覚を体験してその後の行動に繋がるかもしれないので、そうしたきっかけ作りになれたら嬉しいです。感じたことのない感覚を得て、今後の糧や知識にしてもらいたいですね」

──表現についてどのように感じてこられましたか
志子田「Mi-Mi-Biのメンバーを見ていると、メンバー同士のフォローも含めて、障害があるからではなく『どう表現するか』を第一義にしており、障害による不出来を感じさせませんでした」
渡辺「恥ずかしくてダンスやカラオケをやりたくない人が居るように、ダンスがしたいからやっている人も居るというのが素直な感想です。森田さんが昔『ダンスが出来ない』と思ってしまったのは、周りがそういう目で見ていたからではないでしょうか。Mi-Mi-Biのみんなが凄いのは、そうした偏見や差別を乗り越えてでもダンスをやりたいからやるんだという意志です。障害者が頑張っているのではなく、『信念のある人間が頑張っている』ということに感銘を受けます」

──白杖や義足や車椅子が表現に繋がっているようにも感じました
渡辺「車椅子の上に乗るなど、アイテムとして使う場面はありましたね。健常者では違和感があるでしょうが、彼らにとっては身体の一部なので、独自性として確立されています。その辺りが他のダンスチームとは違うところですよね」
志子田「森田さんのしなやかな手の伸び、さっちゃんの不随意運動、各々にしか出来ない独自性です。僕が同じ動きをしたところで、僕に出来る動きとは違います。そこがダンスと表現の面白さだと思います」

──ダンサー達を描写するうえでの工夫などはありますか
渡辺「無音にしたり、ブラックアウトしたり、Mi-Mi-Bi-の感覚を伝えられるよう努力しました。また、バリアフリー上映もしっかりと作り込みましたね。ミニシアターでバリアフリー上映は大変ですが、音声も字幕もあれば多くの方に観てもらえるので、その辺りは意識しました」

知ることはダイナミック


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──映画のバリアフリー対応についてもお聞かせください
渡辺「NPO法人シネマ・アクセス・パートナーズの川手さんがボランティアで協力してくださいました。最も苦労したのは、ダンスを言語で表現することです。いまでも上手く伝わっているかは分からないのですが、ダンスに込められた意図など言葉のない表現を言語化するのに努めました。音声ガイドはスポーツ実況もやっている新タさん(TBSアナウンサー)が、ダンスの場面を感情込みで読んでくれたので、普通のバリアフリー版とも違った出来になっています。その点、通常版とバリアフリー版を両方観て欲しいですね」
志子田「オリジナル版はナレーションで言語化せず、見たままを感じて貰うような作品なので、人によってはどう見ればいいか分からないかもしれません。同じ作品が真逆の志向で動いているのが面白いなと思いました」
渡辺「志子田さんは生粋の映画監督で、僕はテレビの仕事をしています。お互いに違った感覚で刺激し合ったのが、作品に良く作用したのだと思います」

──旅というテーマへの想いや演出への意識は何ですか
渡辺「僕自身が彼らの感覚を知っていく“旅”、各々の感覚を“旅”していく構成、観客がそれぞれの感覚に潜り込んでいく“旅”、そういう作品になったのではないかと思います」
志子田「“旅”とは、作品を見た後の心境の変化を指すのだと思います。その“旅”に出ている気持ちになってもらいたいから『旅する身体』という題名にしましたね。ダンサー達だけでなく、観客たちの“旅”も含まれていると思います。」

──この映画を通して伝わって欲しい事は何ですか
渡辺「個人的には、前向きに挑戦する気持ちを持ってもらいたいと思っています。障害者の作品は暗いとか、感動させようとするとかそういう方面に作られがちで、いじめられた過去から花咲く姿とか苦労を乗り越えていく姿とか…。本作はそういうものではなく、純粋に前向きに生きている人たちが好きなダンスをしている映画です。映画を通じて「自分も一度挑戦してみよう」と前向きな気持ちになって欲しいです」
志子田「僕らは、障害の有無という単純な線引きで生きている訳ではありません。人それぞれ違う中で他者を知ることは、こんなにも面白くてダイナミックなんだと知って欲しいです」

──今後撮りたい作品や展開はありますか
志子田「大阪や神戸には、仕事帰りに軽く一杯という『角打ち』の文化があります。これを通して、各々のホッとした顔を撮ってみたいなと考えています。大変な生活の中で幸せを感じられる小さな時間です。Mi-Mi-Biのメンバーのように、様々な理不尽を経験した人間ですら、一杯の酒が明日の活力となる瞬間もあるでしょう。生活を続ける以上、そこまで深刻ではないという感覚を大事にしたいなと思います」
渡辺「4月からの障害者総合支援法の改正など、障害者に優しくなりつつある気がします。仕事としてなのか、個人としてなのか、それは全く見えていませんが、障害者に対して自分に出来ることをしたいとは思っています。」

──最後に一番伝えたいメッセージはありますか
渡辺「一般的にはなかなか興味を持ちづらい映画だとは思いますが、その興味のない事に挑戦することで知れることもあるので、一度観に来てもらいたいです。先入観を持たず観てもらえれば、新しい感覚が得られると思います」
志子田「『障害とはこういうことだ』という映画ではありません。Mi-Mi-Biというダンスグループが各々の身体を使ってどこまで出来るか表現する映画です。『こういうことを感じているのか』と知って頂けると嬉しいです」

旅する身体~ダンスカンパニー Mi-Mi-Bi~』(3月15日(金)より上映)

<舞台挨拶情報>
①東京会場:3月17(日)12:00の回上映後

【登壇者】
・監督:渡辺 匠、志子田 勇
・ゲスト:KAZUKI(サインパフォーマー)・東ちづる(俳優・一般社団法人Get in touch 代表)
※この回はバリアフリー字幕、バリアフリー音声(副音声)付きの上映。

②大阪会場:3/24(日)14:20の回上映後

【登壇者】
・監督:渡辺 匠、志子田 勇

・ゲスト:森田かずよ・武内美津子
※この回はバリアフリー字幕、バリアフリー音声(副音声)付きの上映。

監督:渡辺匠 志子田勇
出演:内田結花 KAZUKI 武内美津子 福角幸子 福角宣弘 三田宏美 森田かずよ 大谷燠 文 橋本実弥
協力:NPO法人DANCE BOX/制作協力:MOM&DAVID
撮影・編集:志子田勇
プロデューサー:津村有紀 松木大輔 小池 博
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=hJA3OKDHkYI
コピーライト:©TBS

「TBSドキュメンタリー映画祭2024」は、3月15日(金)より全国6都市[東京・名古屋・大阪・京都・福岡・札幌]にて順次開催。
詳しくは映画公式サイトをご確認ください。
https://www.tbs.co.jp/TBSDOCS_eigasai/

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

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