生存放棄症候群(あきらめ症候群)~症例はスウェーデンに避難した難民の子どもだけ

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出典:Photo by Keegan Houser on Unsplash

生存放棄症候群、またの名をあきらめ症候群とも呼ばれるそれは、症例が極めて特徴的です。症例が報告されているのは全世界でスウェーデンただ一国(後にナウル共和国でも報告)だけ、しかも罹患(りかん)するのは難民の子どもばかりでした。

とても謎の多い病気で、初期は風土病説が挙がったり詐病と疑われたりしていました。長年の研究により、難民への対応が原因と改善策の両面で深く関わっていることが判明しています。

ドキュメンタリー映画にもなる

生存放棄症候群(あきらめ症候群)に陥った子どもは、体の不調がないにもかかわらず食事や会話をしなくなります。病状は人それぞれで、中には何年も寝たきりになる患者も存在し、生命を維持するには鼻腔へ通したチューブから栄養を補給せねばなりません。

ほぼ寝たきりになる患者は一見穏やかに見えますが、血圧を測ってみると同年代より明らかに高く、強烈なストレスを感じ続けているそうです。また、完全に意識を失っている訳でもないため、回復した患者の中には闘病中の記憶が残っている場合があります。

確認されたのは20~25年前と比較的新しく、研究はほとんど進んでおりません。明らかなのは、患者が全て戦乱や圧政から逃げ延びた難民の子どもという報告だけです。「スウェーデンへ渡った難民の子ども」という極めて限られた層にしか患者がいないことから、祖国とスウェーデンの著しい文化的相違からくる緊張病という説や防衛機制の過剰な暴走という説が挙がっています。

この難病は「Life Overtakes Me(邦題:眠りに生きる子どもたち)」というドキュメンタリー映画でも取り上げられています。

難民特有の苛烈な環境

故郷を追われた難民であるからには、祖国を出る前から過酷な環境に身を置かれています。難民の子どもは、身近な家族が戦乱・圧政・暴力などに晒されたうえ、亡命先で永住権を認められるか分からない状態で何年も抑留されています。

過去の強烈なトラウマと先行きへの著しい不安に苛まれ、無意識的に生存活動を鈍らせ生存放棄症候群を発症するという説が有力です。難民申請を却下したことのある国は他にもあるのですが、なぜスウェーデンだけなのかまでは分かっていません。

とりあえずスウェーデン国内の医学界では「難民家族が安定し先に希望が見えない限り、生存放棄症候群は治らない」という見解が固まっており、2018年時点でスウェーデン政府は「発症している子どもを本国へ突き返すことはない」と宣誓しています。

オセアニアでも症例が

長年スウェーデンでしか報告されていなかった生存放棄症候群ですが、2国目の症例がナウル共和国で報告されました。ナウル共和国とはオセアニアに位置する離島の小国で、かつては豊富なリン鉱石資源に支えられ「働かなくても暮らせる国」とまで言われていました。

ナウル共和国は資源の枯渇とその前後における財政の失敗から経済的に困窮します。そんな中、船で来る難民の対応に手を焼いていたオーストラリアが「補助金を出すから難民を置いてくれ。」とナウルに持ち掛けました。結果ナウルは渡豪する難民の抑留先となった訳ですが、半永久的な抑留による先行き不安などから2国目の症例を出すまでになりました。

ナウルの医療はあまり整っておらず、患者はオーストラリアへ渡って高度で手厚い医療を受けることになります。オーストラリアへ移った患者は症状を改善させていきますが、ナウルの地は抑留の象徴として忌み嫌う傾向にあるようです。

希望を見せるのも難しい

この病気で最も厄介な点は、病状と難民政策が切っても切れない関係にある点です。病状の回復には永住ビザを発行するのが手っ取り早いとする声も多く上がっており、実際に永住を認められた難民一家が何ヶ月もその話を続けたことで病状が改善したケースもあります。

前向きな雰囲気を家庭内で何ヶ月も共有し続ければ快方へ向かう訳ですが、永住権を認める以外で難民を恒久的に安心させる方法は無いと思われます。しかし、移民大国と言われたスウェーデンでさえ難民を唯々諾々と受け入れることは出来ません。身柄をナウル共和国へ押し付けたオーストラリアでは猶更難しいでしょう。

難民への対応は国防や治安にも関わる重大な選択で、特に定住後が危ないと言われています。就職難や薄給が続けば生活苦から犯罪に手を染めるでしょうし、過激な移民反対派による犯罪の標的にされる危険性もあります。加害者にも被害者にもなるリスクはネイティブに比べると高いでしょう。

生存放棄症候群から子どもを再起させるには、どうしても難民政策にまで切り込む必要があります。延命医療ではなく将来の希望を示すことが根本的な治療となるのですが、迫害から逃れた難民が相手である以上永住権なしで先行きの不安を解消するのは無理ではないかと思われます。

参考サイト

生きることを放置する。スウェーデンで発生している「あきらめ症候群」(2018年9月13日)|エキサイトニュース
https://www.excite.co.jp

少年少女の身に一体何が起こっているのか?あらゆるトラウマを経験し、生きることをあきらめてしまった人たち
https://www.buzzfeed.com

資源枯渇で経済破綻!南洋のミニ国家、ナウルがとった数々の奇策とは?その4|海外旅行情報エイビーロード
https://www.ab-road.net

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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