就労継続支援B型事業所の工賃が低い理由と改善策

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出典:Photo by Maria Oswalt on Unsplash

就労継続支援B型事業所の生き方には色々あるという話を以前にしました。その中で「高い工賃を目指す」という生き方を取り上げましたので、今回はそれをもう少し深く取り上げます。

B型事業所の平均工賃は毎年じわじわと上昇していますが、収入と言い張っても一笑に付される額であることには変わりません。「B型事業所=低工賃」とはもはや固定化されたステレオタイプですらありますが、なぜあそこまで低い工賃なのでしょうか。そして、高い工賃を実現するには何が必要なのでしょうか。

低工賃の理由は様々

B型事業所の工賃が低い理由は様々で、複数に該当する事業所も珍しくはありません。制度上の問題、運営者の心構え、周囲の無理解、果てはB型事業所であるがゆえに仕方のないこともあります。

雇用契約を結ばない
B型事業所は利用者と雇用契約を結ばず、労働基準法も適用されません。ゆえに工賃が最低賃金に届かなくてもよく、「給料」や「賃金」とは一切呼ばれません。施設内で「給料」と呼んでいても外部には必ず「工賃」と言っています。

柔軟な通所計画の代償
利用者のペースに合わせた柔軟な通所計画を組めるのがB型事業所の特長です。しかし、通う日数や時間が少なければその分作業をする時間も減るため、工賃も少なくなります。事業所によっては月々の工賃が固定の所もありますが、大抵は作業時間で変わってくると思います。

仕事自体が低報酬
B型事業所がよく請け負うとされる単純作業や軽作業は1回あたり何銭というレベルの低報酬労働です。作業自体もやりがいを感じるどころか、続けていると気が狂う上にキャリアアップの足しにもなりません。一応、オートメーションが難しいようなので、その意味では「誰かがやらねばならない仕事」だそうですが。

事業所が工賃に拘っていない
工賃向上そのものに意欲がない事業所も多いです。「ここは仕事場である以前に居場所だ」「我々は居場所を提供している」として工賃より大事なものを信じている節があるようです。極端な所では「工賃ばかりが大事ではない」として月5000円以下でも続けています。利用者の居場所となるのもまた難しいことを理解しているかどうかは未知数です。

弱気な価格設定
特にオリジナル商品を作って販売する事業所に多い傾向なのですが、価格設定が一般の相場に比べるとかなり弱気です。また、販路も限られていて(最悪の場合、実際に事業所へ行かないと買えない)売り込む機会が即売会だけという事業所も少なくはありません。

営業が下手
もしかしたらA型事業所にも当てはまるでしょうが、仕事を得るための営業活動が上手くない事業所も多いのではないでしょうか。価格設定にしてもそうなのですが、施設長や職員が世間知らずでは工賃も上がりようがないです。また、仕事を受注すればいいという訳でもありません。低報酬の内職ばかり請け負ったせいで仕事量が膨大になり、工賃も大して増えていないという最悪のケースも想定されます。

工賃アップへ意識を統一せよ

B型事業所の工賃アップに関して、経営コンサルタントの風間英美子さんが主に小規模事業所向けのコラムを掲載しています。風間さんが言うには、工賃を上げるには「意識改革」「事業見直し」「組織作り」が大切なのだそうです。

まず事業所の工賃を上げるには、施設長や職員が「工賃を上げるため具体的な行動をしよう」と意識を固めることから始めねばなりません。「なぜ工賃が低いのか」「もう少し上げられるのではないか」という疑問を共有することが大事になります。

当然、全職員で工賃の向上を目標とするには議論が必要です。B型事業所は低工賃でもそれなりに運営できるシステムなので、「無理して上げなくてもいい」と考える職員もゼロではありません。寧ろ、工賃を上げることは福祉と経営のバランス取りを迫られるぶん敢えて困難な道を選ぶことになります。

対話や議論を重ね続けるのは苦痛ですが、置いてけぼりの職員を出さず皆が納得のいく答えを出すまで続ける必要があります。その果てが「工賃に拘らず居場所として活動する」だとしても、全員が納得したのであれば一つの答えとして尊重すべきでしょう。(現状に甘えたいだけの人が押し通した場合は別です)

工賃の向上について職員たちが対話を重ね、意思を共有する「意識改革」がスタートとなります。反対を押し切って無理矢理始めると後で詰むことでしょう。

営業は自己分析と企業研究だ

どのように工賃を上げていったかは事業所によって様々ですが、事業所の自己分析と受注先の企業研究がしっかりと行われている点では共通しています。「事業見直し」で大事なのは、利用者らの得意分野や嗜好を掴むこととそれに合わせた行動、そして自らの強みを伝え相手の特徴を知る営業活動です。

たとえ単価の良い仕事を受注できても、利用者の意志や適性を無視していたのでは長続きしませんし受注先にとっても迷惑です。「全然仕事が出来てない。やはり障害者は駄目だな。」と受注先に思われては、他の事業所にも仕事が来なくなるでしょう。ビジネスへ飛び込むには相応の準備と姿勢が求められます。

事例1・緻密な準備と擦り合わせでピッキング作業を受注
一般企業の物流倉庫でピッキング作業を受注した事業所の話です。まず営業をするにあたって職員が行ったのは、作業現場のチェックでした。利用者だけでなく職員も作業を体験し、作業内容の打ち合わせに活かしたのです。結果、利用者が安全に働ける作業マニュアルが完成し、安全性も効率性も信頼性も高い仕事ぶりを発揮するようになりました。

事例2・販売はプロと協力し適正な値段で売る
オリジナル商品を作っている事業所は、商品の価格を適正にするだけで工賃アップにつながります。価格設定や販路開拓が不得手な事業所でも、マーケティング部門をプロと協力すれば相場通りの正しい価格で販売できます。

事例3・軽作業だけで工賃が月9万を超えた
封入や梱包の軽作業だけにも関わらず工賃が月9万を超えている事業所さえあります。その事業所は、生産工程や作業環境を見直し、利用者が効率よく快適に作業できるよう気を配っていました。そうして事業所の作業能力を理解したうえで営業活動も行い、自分たちに発注するメリットを上手に提案しています。軽作業でも真剣に強みとして扱えば、工賃アップに繋がるわけですね。

集団の雰囲気も良くしよう

工賃を上げていくと、事業所としても高い報酬の仕事を請け負うあまり責任も大きくなっていきます。責任が大きくなるとどうしても作業場がピリピリしてしまい、雰囲気は悪くなるものです。それを改善する「組織作り」がなくては、高工賃も長続きしません。

弁当屋を営むB型事業所の事例では、弁当の販売で月4万超の工賃を出していたのですが、メニューを増やしたことで作業が複雑化し、一部の職員しか理解していない状態にまでなっていました。当然ミスは増え、作業所の雰囲気も重く利用者にとって苦痛すぎる環境となります。

そこで改善策として、作業を細かく分解して順番をつけなおしました。さらに、1手順1枚のカードで分かりやすくし、出来た仕事は評価する仕組み作りにも活かしたのです。仕事がより効率化できただけでなく、利用者も「自分も作業が出来ている!」と実感でき、モチベーションが向上しました。

出来たことを評価して褒め、利用者も前向きになってもらうのが「組織作り」の軸となります。ここまでくれば高工賃だけでなく「利用者にとっての居場所」としても機能してくるでしょう。工賃と居場所は両立可能でもあるのです。

参考サイト

障害者就労継続B型まとめ~低工賃からの脱出:経営コンサルタント風間英美子|マイベストプロ東京
https://mbp-japan.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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