「ホワイトハンズ」って何なの?~性からの自尊心を見据えた幅広い活動

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一般社団法人ホワイトハンズを皆様はご存知でしょうか。重度の身体障害により自力でマスターベーションが出来ない人を介助する為、2008年に新潟で立ち上げられた法人です。今は性介助に留まらず、介助や支援の体系化や知的障害者への性教育、果ては障害者の恋愛やデートまで活動の範囲は広がっています。

「障害者の性」に性教育や恋愛の段階から取り組めるのは、とても稀有な才能だと思います。その一方で性介助という特性上、心ない陰口や誤解の的にもなっています。

性へ切り込むがゆえの心ない誤解

ホワイトハンズについて検索窓に打ち込むと、サジェストに「ホワイトハンズ なんj」と出てきます。サジェストに「なんj」が入っているのは十中八九、陰口・誹謗中傷・陰謀論が一定以上存在するという意味でもあります。

ホワイトハンズの訪問介護について、どうやらアダルトビデオかアダルトゲームのようなものを考えている方が多いようです。他にも、「無料」「利用者は男性のみ」「介助するのは女性のみ」という点で蛇蝎(だかつ)の如く忌み嫌い、「性的搾取だ!!」と憤る人も居ます。中には障害者の性介助というだけで面白おかしく茶化している層も存在しそうです。

しかし、実際に公式HPで介助の流れを見れば、ほとんどが勘違いや邪推であることが分かります。確かに利用料金はタダ(運営は寄付で成り立つ)で男性の利用者しかいませんし、介助スタッフに男性は居るものの訪問するスタッフの性別は利用者に委ねられています。ただし、訪問する介助スタッフについて選べるのは性別だけです。

そもそもマスターベーションの介助を通して「性に関する尊厳と自立を保障する」ことが目的であって、スタッフに触れたり脱衣を要求したりすることは禁止しています

実は介助を受けられる対象もかなり限定されており、脳性まひの二次障害・ALS・筋ジストロフィー・パーキンソン病など、重い身体障害者の中でも筋萎縮・拘縮・麻痺により自力でのマスターベーションが出来ない人のみとなっています。加えて完全会員制かつ予約制で、現在はコロナ禍により新規登録を停止しています。 知的障害・発達障害・精神障害はもちろん、身体障害でも脊髄損傷や頚椎損傷は対象外です。また、性感染症・狭心症・心筋梗塞など対象から外される疾患も細かく定められています。要するに、障害があるからホワイトハンズの介助を受けられるわけではありません。ついでに18歳未満も対象外です。 ちなみに、利用者が男性しかいないのは「女性版ホワイトハンズ」のようなものを作ろうとして頓挫した過去も一因だそうです。女性向けのサービスは何度か発案されましたが、利用者どころかモニターの志願者すらいなかった為、作っても仕方がないと判断されました。男性中心で考えているのではなく、女性からの需要がないのです。

性の先にあるQOL向上を見据え

ホワイトハンズの理念とは、「性」の先にQOL(Quality Of Life:生活の質)の向上を実現することです。それは重度身体障害者だけに留まらず、知的障害・発達障害の児童生徒へ向けた性教育プログラムや性風俗の末端従業員へのリスクヘッジ(「風テラス」など)にも表れています。

性とQOLを繋ぐ言葉は、ホワイトハンズに言わせれば「尊厳」なのだそうです。性問題の解決が生活の質を上げ自尊感情を守るというロジックです。その詳しい論は代表の坂爪真吾さん自身が著した多くの書籍やセミナーなどで包み隠さず語られることでしょう。

性に関する扱いや問題はすぐさま当事者の人権に直結するデリケートな話題です。ぞんざいで軽率な扱いをすればすぐさま人権侵害へとなるでしょう。逆に言えば、丁寧に解決させれば「生きづらさの軽減」に寄与します。ゆえに「高齢者と性」に関して以下の発言をしているのでしょう。

「『高齢者だけが持つ性の悩み』といえるものは少なく、何歳であっても性に関する悩みは思春期や青年期のそれとあまり変わらない。すなわち高齢者が抱える性の悩みは、現代社会にどういった制度やサービスが足りていないかを如実に反映している。」

前提を疑うことから始めた

坂爪代表がホワイトハンズを立ち上げる礎となったのは、東京大学在学中に遡ります。そこで日本で最も厳しいと言われる社会学・上野千鶴子教授のゼミに入り、坂爪代表は「

物事の前提を疑う」という思考スタイルを確立していきます。

坂爪代表は過去に「障害者がソープランドに行く是非」の論争があったことに自著で言及しました。片や「障害者にも性的欲求を満たす権利がある」、片や「買春は女性差別!悔しかったら恋愛しろよ!」のぶつかり合いで、結論は出なかったそうです。

この討論に対し、坂爪代表は「だいたい問題設定とその前提が間違っている」と断罪します。本来は「なぜ恋愛と風俗の2択なのか。どちらも取れないなら?」を突き詰めるべきなのですが、彼らは「障害者とソープ」という表面的かつ間違った議題に終始してしまいました。こうなれば結論など出る筈もなく、論じるだけ時間の無駄となるとのことです。

前提を疑う発想はやがて、間違った前提ばかりがまかり通る「性」の分野で坂爪代表が身を立てていく原動力となりました。法人はいつしか、介助の確立・性教育の体系化・労働者の支援など、様々な方面で「性」と「自尊心」に向き合う成長を遂げています。

一方、坂爪代表の恩師である上野教授は自著で恋愛弱者に対しこう持論を述べていました。「(恋愛弱者やオタク男性は)波風立たせず平和にひとり滅びるならばそれで構わない。彼らの老後を養うという課題は残るだろうが、何かの間違いで彼らが子でも残せばそれこそ親も子も不幸にしかならない。ならば少子化もOKだ」
いずれ両者はぶつかり合うことになるかもしれません。

まとめ

前提を疑う発想に立脚して設立された「公益社団法人ホワイトハンズ」は、重度身体障害者だけでなく知的障害者・高齢者・風俗業従事者と支援の範囲を広げ、「性」という観点から「自尊感情」「QOL向上」を追求し続けています。それは恩師とまるで対極の姿勢となりました。

間違った前提の多い「性」であるからこそ、ホワイトハンズには激しい逆風が吹き荒んでいます。公式ホームページすら見ないで誹謗中傷する者も少なくありません。同じ重度身体障害でも脊髄損傷や頚椎損傷などが利用対象外であることをどれだけの人が知っているでしょう。

少なくとも搾取だなんだともっともらしい言葉で貶(けな)すだけの外野よりは、「性と人権」について真摯に取り組んでいるのではないかと思います。

参考サイト

一般社団法人ホワイトハンズ 公式ホームページ
https://white-hands.jp

ホワイトハンズ「障がい者の性」基礎研修へ|「存在感」小坂章子公式サイト
https://ameblo.jp

「障害者がソープへ行く賛否」論争はなぜ結論が出なかったのか|NEWSポストセブン
https://www.news-postseven.com

上野千鶴子氏の東大スピーチ「納得と、それでも消えない疑問」(3ページ目)
https://gendai.ismedia.jp


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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