精神病棟の退院難化~原因は地域か病院か本人か

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Photo by Nicola Nuttall on Unsplash

課題が大きければ大きいほど、考えられる原因もまた多くなってくるものです。精神病棟の入院が長期化する理由についても同様で、本人の病状・病院の姿勢・退院後の去就など様々な原因が挙げられています。

日本の精神科は他国に比べて入院患者数が多いため、よく病院や医師が悪者にされています。ところが、寧ろ「退院後に生活する宛てがない」という理由で退院できない患者が多数派で、患者の家族や地域が受け皿になれていない現状も無視できません。

家族とそりが合わない患者

研修医の期間を終え山形県内の病院で働き始めた精神科医のAさんは、長期入院の患者を受け持っていました。Aさんの勤める病院は退院に向けて真摯に取り組んでおり、精神的リハビリも充実していたのですが、それでも退院が叶わず長期化している患者が多かったのです。

その原因は退院後の行き先がないことでした。入院が長すぎて50代を過ぎた患者ともなると親が亡くなっていることも多く、受け入れる親族を探すことが難しくなりやすいのです。

Aさんが受け持った患者のひとりもそのパターンで、親が亡くなって弟が家督を継いでからはそりが合わず一時退院すら拒否されるようになりました。そうなると、退院後の生活は一人暮らししかありません。

退院後の生活で不自由しないように生活力を養うリハビリを組んでいたのですが、その患者は乗り気でなく計画は難航していました。困り果てたAさんですが、「大学進学から入院まで一人暮らしの経験があること」「弟の家からは脱走しなかったこと」をふと思い出します。そして発想を逆転させ、「今の生活力に賭けて退院させる」という方針を取りました。

Aさんが重視したのは退院後の生活費でした。毎週診察で所持金の残りをこまめに聞き取るほか、たまたま近所に住んでいた看護師が積極的に近所付き合いをしてくれる幸運にも恵まれます。ヘルパーも訪問看護もなかった時代にしては思い切った判断ですが、「安全に拘って自由を制限するばかりでは退院できない」というのがAさんの持論でもありました。

悪徳医師は確かに存在する

Aさんのような真っ当な医師ばかりであれば、退院できない問題の原因は受け入れ先のなさに集約されます。しかし、比率が少ないながらも医師や病院に原因があって退院できないケースも現実に存在します。

八王子市内の精神科で4年入院していたBさんは、まさに悪徳医師の裁量ひとつで長期入院させられていた患者です。Bさんは精神薬の過剰摂取をきっかけに入院し、同意した妹ともども数か月程度の入院で済むと思っていました。しかし主治医は「パーソナリティ障害」を理由に退院を認めません。このケースについて述べた別の医師は「パーソナリティ障害で入院はありえない。よしんば入院するに足る理由があったとしても長期化はしない」としています。

主治医はなぜかBさんを嫌っており、「お前は信用に値しない」「思い通りにいくと思うなよ」と暴言まで吐いていたのです。かといって個別の治療プログラムを組むわけでもなく、鉄剤と漢方薬以外の投薬もありません。都合よく「病気だ」と「病気ではない」を使い分け、個人的な好き嫌いで病院に留めていたのです。Bさんの妹や弁護士が詰め寄っても会話に応じる気配すらありません。

Bさんが入院して3年半後に主治医が変わると、妹への面会や院外散歩が次々と認められていき、弁護士の尽力もあって退院が叶いました。病院は(監視できる)グループホームを希望しますが、最終的には譲歩した形になります。

前の主治医がBさんを嫌っていた理由は分かりませんが、元記事を読んだ限りでは「毒親に社会的制裁を加えたと思い込んでいた」のではないかと推察しています。こうした悪質な医師や病院はしばしば患者の連絡手段を制限(※)しており、弁護士など外部へのアクセスを防いで不正が明るみにならないよう腐心するものです。

※ちなみに手紙まで制限すると違法となるらしいです。手紙だけ認めたとしても筆記用具や切手が無ければ意味はないのですが。

ハウジングファーストの理念

さて、善良な医師であるAさんと山形の病院に話を戻しましょう。Aさんの病院は極端に言えば「完全な寛解でなくとも退院は出来る」という考えを持っており、退院後の生活こそ大事にしていました。看護師は退院した患者の「よきご近所さん」となり、中には自分の電話番号を教える人までいたぐらいです。

投薬に関してもごく少量を心がけており、副作用や飲み忘れによる離脱症状を最小限に抑えて薬が生活を妨げないようにしていました。

そして重要なのが「ハウジングファースト」の理念です。ハウジングファーストとは元々ホームレス支援の用語で、最初に住まいとなるアパートを紹介して、そこから社会復帰を目指すやり方です。Aさんの場合、空室が多く家賃の安いアパートがそこかしこにあるという恵まれた環境でした。

もう一つ、Aさんの病院にとって幸運だったのは地域住民です。Aさんの病院は地域からも信頼されており、退院後の受け入れ先となるのを反対しませんでした。もし退院後の元患者がトラブルを起こしても上手に取り成してくれます。

Aさんの病院では長期入院者が連鎖的に退院できるようになっていきました。それは恵まれた環境だけでなく、元患者が外来やデイケアのついでに病棟へ立ち寄り、退院後の生活モデルとなっていたためでもあったようです。

結局、退院に必要なのは

精神病棟からの退院において最も重要なのは、やはり退院後の生活を受け容れる住まいや地域ではないかと思います。行く宛てがないのに退院は出来ません。

ところが、グループホームや作業所などの障害者施設を建てようとすると近隣住民の反対運動に遭うのが現実です。近所に障害者施設が建つことを嫌がる住民は未だに多く、中には「子どもの安全」を掲げる詭弁常習犯もいます。

それに、地域の受け入れ態勢が進んでいれば、退院させたがらない病院や医師の存在も自然と炙り出されるのではないでしょうか。個人主義の流行っている現在で地域の精神疾患持ちを支えるのは難しいでしょうが、病院が幾つか相談先を控えさせたうえで退院させることくらいは可能かもしれません。

参考サイト

「退院できない理由」は誰の理由だろう|認定NPO法人 大阪精神医療人権センター
https://www.psy-jinken-osaka.org

統合失調症の人との思い出2 何もしない?退院支援|クリニックちえのわ
https://chienowa.org

精神病院に4年閉じ込められた彼女の壮絶体験|精神医療を問う|東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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