医療保護入院制度について~指定医任せの危うさ

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昔読んでいたミステリー小説で変わった監禁の手段として「軽い交通事故を起こすように仕向け警察署に留置する」というものがありました。実は現実にも法の網をかいくぐって監禁する方法が存在します。それは「医療保護入院」です。

医療保護入院とは入院の意思決定がしづらい本人に代わって手続きするための制度で、保護者1人と認定医1人の同意があれば可能です。実はその構造自体に問題があり、家族と認定医がグルになれば精神疾患のない人を精神病棟へ監禁させることが理論上可能となっているのです。(市町村長の同意も必要とする資料もありますが、抑止力に関しては疑問です)

韓国にも似た制度が導入されていましたが、人権上の観点などから違憲が疑われ、2016年に「制度の悪用や濫用を招きかねない」として違憲と認められています。

配偶者へのDVやモラハラの他、邪魔な身内を排除する目的で簡単に悪用できる制度には疑問の声が以前から上がっていました。東洋経済オンラインの連載コラム「精神医療を問う」から、制度上の問題点を抜き出していきましょう。(どこまで真実かは個人的に眉唾物ですが)

医療保護入院の悪用例

親権を奪うため夫家族がグルに
A子さんの夫は双極性障害でしたが、通院を拒んだうえDVを繰り返していました。ある日、「一緒に行くなら診察を受けてやる」と言われて夫を精神科へ連れて行けたのですが、なぜかA子さんが即日入院することになり、拘束され隔離室へ送られたのです。A子さんには精神疾患の既往歴が一切ありません。
実は夫には精神科医の姉がおり、自身も強制入院させられた経験から医療保護入院制度を熟知していました。夫は親権を奪って離婚するために精神科と結託し、A子さんを騙して精神科へ閉じ込めようとしていたのです。
A子さんの入院中、主治医は診断名をコロコロ変えて外部への通信手段も制限していました。一生閉じ込めるつもりだったようですが、告訴状が検察に届いたことで震え上がり、入院から3か月でA子さんはあっさり解放されたそうです。

ドラ息子が財産目当てに父親を
定年退職後に看護師の妻と介護施設を立ち上げたB男さんは、細々と施設を経営しながら自分なりのセカンドライフを謳歌していました。そんなB男さんへ、20年間音信不通だった息子からの連絡が入ります。なんでも「自分も介護施設を経営したい」とのことで、B男さんは息子のために融資をしました。しかし息子の方は事業に失敗してしまいます。
そんなある朝、息子はB男さんに「親父は認知症だから、病院に連れていく!」と言い放ちます。妻は「認知症の兆候なんて微塵もない!」と抗弁しますが、「民間移送業者」によりB男さんは無理矢理遠い精神科へと連れ去られてしまいました。
B男さんが肩代わりした資金を有耶無耶にすべく、息子は認知症をでっち上げて医療保護入院制度を悪用したのです。1か月程度でB男さんは解放されましたが、息子とは再び音信不通となりました。

外面の良いモラハラ夫の根回し
C男さんの夫婦仲は険悪で、妻へのDVは日常茶飯事でした。妻の存在が鬱陶しくなったC男さんは、自分に限りなく有利な離婚が出来る方法を実行します。
C男さんは児童相談所・保健所・警察へ、「妻が娘を虐待している」などと嘘をついて回りました。外面の良さに騙された保健所は入院できる病院を紹介し、「民間移送業者」を利用して妻を精神科へ押し込むことに成功します。妻は何も知らないまま、そして抵抗できないまま屈強な男数人に連れ去られたそうです。
どうにか解放され家に戻った妻ですが、既にC男さんは子どもを連れて行方をくらませていました。

「民間移送業者」またの名を「引き出し屋」

たびたび出てきた「民間移送業者」とは、簡単に言えば引きこもりの「引き出し屋」に似た存在です。屈強な男数人で無理矢理対象を拘束し、目的地まで連れ去るという人権も何もあったものではない手段が特徴とされています。

民間移送業者の多くは警備会社や警察OBが従事しています。警備会社が入ることで「身辺警備」となり、咎められにくくなります。また、強力なのが警察OBで、現職警官が強く出られないため警察沙汰にもなりません。対象が110番して警察が駆け付けたまではよかったものの、OBが怖くて何も出来なかった事例さえあります。寝起きで抵抗されにくい早朝に奇襲する形で連れ出すのも、家宅捜索の応用とまで言われています。

すでに公的な移送機関は存在しますが、民間移送業者は手続きの要らない早さを売りにしています。一刻も早く精神科送りにするならば、高い金を払ってでも「引き出し屋」に頼るのが自然な思考といえるでしょう。実際に移送業務を経験した人によれば、10年間携わった中で明らかな精神疾患だった対象は体感2割程度だったといいます。

認定医の資質

制度を悪用するのは家族だけに限りません。医師が家族を騙すまではいかずとも、「どうせ数か月程度だろう」と甘く見て同意してしまうケースもあります。しかし、後で同意を撤回しても認定医が認めなければ退院することは出来ません。極端に言えば一度だけ家族の同意を引き出し一生閉じ込めることも理論上可能なのです。

入退院を決めるカギとなるのが精神保健指定医で、5年以上の医師キャリアと3年以上の精神医療従事が前提となる厳しい資格が求められるほど重大な責任を持つ仕事です。しかし、資格取得に必要な診察レポートを他人から盗用するなどの不正が聖マリアンナ医科大学で実際にありました。直後の調べで100人以上の医師が不正を行っていたことも明らかになっています。

精神保健指定医は患者の人生をも左右する重責を負いますが、その分年収も200万~300万円上がるそうです。昇給目的で不正を行い、まんまと指定医になれた医師は残っているかもしれません。

指定医の判断が間違っている場合に備え、第三者機関の精神医療審査会に相談して退院や処遇改善を求めること自体は可能です。しかし、審査会の法律委員を務めたことのある弁護士によれば「審査会は仕事をしていない抜け殻同然の団体で、請求が認められるのはごく稀」という体たらくだそうです。

理由は入院費だけなのか

精神科の入院は他の病棟と違い期間の制限がありません。「入院費をコンスタントに稼ぐ目的で長期入院させている!」という声もありますが、果たしてそれだけが理由と言えるのでしょうか。中には損得抜きに指定医の感情的な理由で長期入院になっているケースがあるかもしれません。

診療報酬詐欺で有罪判決を受けた指定医のDさんは、知人に怒りのメールを送っていました。「もし将来、あの時の捜査関係者が精神科に来るようなら、隔離室に閉じ込めて痛めつけて壊してから家に突き返してやる。厚労省の奴らも同罪だ」

A子さんの事例は夫が甘やかされている家庭事情、C子さんの事例は指定医の「毒親をやっつけてやる!」というある種の正義感が窺えます。Dさんに至っては判決も処分も軽微なものですが、恥をかかされた恨みで制度の濫用を目論んでいます。

なんにせよ、意思疎通のとれる本人から意見を聞かず片方の言い分だけで進めようとするのは、医師の態度として大いに問題があるのではないでしょうか。

参考サイト

実際の被害から医療保護入院を考える|認定NPO法人大阪精神医療人権センター
https://www.psy-jinken-osaka.org

精神医療を問う|東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net

【精神科医の年収事情】平均年収や仕事内容、キャリアアップの方法
https://doctor-seishinka.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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