植松聖の「信者」はなぜ北新地の放火犯は評価しないのか

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Photo by Claudio Schwarz on Unsplash

北新地のビル放火事件が起きて間もない頃から、あるセンシティブな疑問を抱いています。相模原の障害者連続殺傷事件の犯人である植松聖死刑囚は、一部で英雄と称えられ「障害者差別の象徴」にまでなりました。一方、北新地の放火犯である谷本盛雄容疑者(被疑者死亡)には労いの言葉ひとつありません。多くの障害者を殺害した点で共通しているのに反応が違い過ぎます。

植松死刑囚のことをあれだけ「正しい」「理解できる」「真理」と持て囃しておいて、谷本容疑者へは労いの言葉ひとつかけてこないとは、なんとも虫のいいことです。この反応の違いから見ると、世の障害者ヘイトは芯が通っておらず存外大したことないのかもしれません。

そこで今回は、なぜ植松死刑囚の「信者」らは谷本容疑者を評価しないのか、幾つかの仮説を立ててみました。それらを通して、植松死刑囚の正当性を訴える者たちがいかに芯のない二枚舌であるかが垣間見えると思います。

仮説1:健常者も犠牲になったから

彼らが評価を分ける基準として挙げそうなのは、健常者が犠牲になったかどうかだと思います。北新地放火は精神障害者だけでなく医師やスタッフなどの健常者も犠牲となっています。対してやまゆり園のほうは知的障害者だけを執拗に狙っていました。健常者を巻き込んだ時点で植松死刑囚を継ぐ者にはなれないという見解です。

ただ、やまゆり園の事件でも施設スタッフが植松死刑囚に引きずり回され、挙句目の前で利用者を刺殺されています。命があるとはいえ強烈なトラウマを抱えたままでは今後の人生に支障も出るでしょう。とはいえ、属性と結果だけで短絡的な総括をするのであれば無視されているのかもしれません。

仮説2:谷本容疑者も通院歴があったから

或いは谷本容疑者が通院歴アリの精神疾患持ちだったから駄目だというのでしょうか。障害者をポスト植松として評価することに抵抗が生じているのではないかという仮説です。

もしこれに則るならば、ひとつ忘れられていることがあります。植松死刑囚が措置入院を受けていた過去です。措置入院とは精神障害や精神疾患への処遇なので、「植松死刑囚は健常者だからいいけど、谷本容疑者は精神疾患だから駄目」は破綻しています。単にそれを知らないだけかもしれませんが、植松死刑囚を絶対と崇めておきながら措置入院の前歴を知らないのは片手落ちというほかありません。

仮説3:法の裁きを受けずに死んだから

法の裁きを受けたかどうかも評価を分けた要因として大きそうです。片や司法判断の末に死刑判決、片や起訴すらできず被疑者死亡と、両者のその後は大きく分かれました。

評価を分けるのは報道に対して抱く消化不良のような感情だけではありません。刑が確定した後の死刑囚にはカリスマ的な人気が一部でつく場合があり、宅間守や加藤智大などにはファンがついていたとまで言われています。植松死刑囚もごく一部の層にカリスマ性を感じてもらえるでしょうが、法云々の前に亡くなった谷本容疑者にそれは叶いません。

仮説4:本人が評価されるタイプではないから

思想をばら撒く上で追い風にこそなったものの、事件を起こした当人自体は評価されないパターンも考えられます。宮崎勤元死刑囚(既に執行)がそのパターンに近いのではないでしょうか。

連続女児殺害事件の犯人である宮崎元死刑囚の存在は、オタクへの差別やヘイトを正当化する礎となりました。しかし宮崎本人が評価されている訳ではなく、あくまで歴史のターニングポイントとしての認識に過ぎません。「オタク差別に市民権を与えてくれた英雄」として宮崎元死刑囚を称える者など居る筈もないのです。

これを下敷きに考えると、精神疾患への差別感情を露わにする者にとって谷本容疑者は、偏見を補強こそすれども本人や事件といったきっかけは感謝に値しないことになります。やっていることはほぼ便乗なのですが。

仮説5:単純にヘイトクライムでないから

ここまで長々と仮説を立ててきましたが、結局のところヘイトクライムだったかどうかが最も大きかったのではないでしょうか。標的とする障害者への怨嗟や排斥の念を犯行前から発信していたかどうかが評価を分ける最大のファクターであったように思います。

植松死刑囚は障害者の根絶やしを望み、発信し続けていました。ゆえにヘイトクライムとして取り上げられ、その極端な思想に共感する者や理解を示す「信者」まで現れています。

一方、谷本容疑者は精神疾患や精神障害に対するヘイトの発信はしていません。もし犯行前にそういった差別感情を露わにしていれば、精神障害への激しい偏見を持つ者らが共感して「ポスト植松」として祭り上げられていたでしょうか。

なんにせよ、植松死刑囚の思想に激しく賛同するような者には、同様の凶悪犯を屁理屈で例外化するような「芯のなさ」があります。障害や難病について彼らが何か喚いていたとしても、聞き流してしまえばいいのです。

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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