ダウン症児の親を食い物にする「ズンズン運動」と、それにまつわる陰謀論

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Photo by Samuel Castro on Unsplash

2015年3月、新潟県上越市のNPO法人「キッズスタディオン」の姫川尚美代表が業務上過失致死の疑いで逮捕されました。「ズンズン運動」と称する乳児マッサージを謳い、揺さぶったり首を捻じ曲げたりする虐待行為を2000年ごろから続けていたそうで、2014年6月に大阪支部で死亡事件を起こしていたのです。

検索すると、首も据わっていない乳児相手に、どう見ても殺しにかかっているようにしか見えない衝撃的な画像が次々と出てきます。そんなことを15年ほど続けてこられたのは、姫川代表の卓越した洗脳スキルに因るところが大きいです。一方で、「ズンズン運動はダウン症児や障害児の間引きだった」という陰謀論も出ていました。

「検索してはいけない言葉」入りも納得…

「ズンズン運動」とは姫川代表が考案した乳幼児用マッサージで、「免疫力が高まる、アトピー性皮膚炎に効く、ダウン症などの障害にも効果がある」と謳っていました。しかし実態は、首も据わっていない乳児相手に、揺さぶったり首を90度以上も捻じったり身体をエビぞり状態にしたりと、非常識という言葉では足りない仕打ちばかりだったのです。

検索すると、痛々しく直視に堪えない画像が数多くヒットします。「検索してはいけない言葉Wiki」に登録されるのも当然といえるでしょう。実際に見るかどうかは各々の判断に任せますが、およそ乳児への扱いでないことは確かです。当然ながら医学的な効果などありません。

このマッサージと称する何かは2000年ごろから始めたとされており、2003年にはNPO法人を立ち上げて大々的に「ズンズン運動」を進めてきました。1時間1万円という高額料金ながら各地から乳児を連れた親が集まり、NPO法人も京都支部や大阪支部を設けられるほど肥大化していきます。近所の人からは「一日中、赤ちゃんの泣く声が響く」「救急車が来ることもあった」「このままでは死人が増える」と危険視されていたそうです。

2014年6月に死亡事件を起こしてからは、流石に表立って動けないと判断したのか活動を休止しているとのことですが、姫川代表には既に執行猶予付きの判決が出ており、その後の動向は不明となっています。

なお、姫川代表は2013年2月にも別の死亡事件から業務上過失致死の疑いで送検されていますが、そちらはズンズン運動と死亡の因果関係を証明できず不起訴で終わりました。乳児は自分で痛みや苦しさを訴えることが出来ず、そのうえ「乳幼児突然死症候群」など原因不明の死亡例という線も捨てられないため、ズンズン運動のせいで呼吸が止まったと証明できないのだそうです。

卓越した洗脳スキル

姫川代表が長年「ズンズン運動」を続けてこられたのは、法の穴を突く目ざとさと巧みな人心掌握スキルに因るところが大きいです。ふつうマッサージを開業するには資格が必要なのですが、骨格矯正や整体はあくまで「健康増進」なので無資格でも始められます。これが無資格でもマッサージ行為で商売ができた理由です。

姫川代表は、話術および洗脳において天賦の才を有していたと思われます。ズンズン運動に正当性を与えるために「免疫学の教授からも認められた」と吹聴するだけでなく、自らの子育て経験から編み出した疑似科学を本にして出版し、権威性をも高めていきました。度々セミナーも開催しており、参加者のほとんどは姫川代表の話に感動していたそうです。

口の上手さだけではありません。ズンズン運動を希望する親が実際に来れば、もし途中で疑問を持たれても抜け出せないようスタッフに囲い込ませていたそうです。こうした場の操り方は、キャッチセールスや催眠商法にも通じており、洗脳技術にも通じていることが窺えます。ホームページではズンズン運動を「ズンズンという揺らぎによって、宇宙に包まれた我々の身体の成長を感じられる」などと説明していたので、カルトと言っても間違いではなさそうです。

他に、話術も洗脳も通じない相手には「居直り強盗」を決め込んでいます。無根拠と無資格を責められると「医学的な知識や能力は持っていないが、それでも皆が『気持ちいい』と言うので続けてきた」と開き直り、逮捕された時も「自分が死なせたという自覚はない」と主観的な言い訳をするだけでした。

そんな姫川代表のもとには、逮捕までにのべ6000人の希望者が来ていたそうです。狡猾な人心掌握術の成果だけでなく、「アトピーやダウン症に効く」という触れ込みから藁をもすがる気持ちで来た保護者も多かったことでしょう。答えの定まらない子育てだからこそ、不安に付け込まれやすいものです。

中には実際のズンズン運動を不審に思い、通うのをやめた保護者もいます。しかし、大抵の保護者は姫川代表に感謝しており、ホームページには「喜びの声」が寄せられていたそうです。ある匿名掲示板では姫川代表を褒め称える声と危険視する訴えに二分されていたとも言われています。画像が大量に残っていたのも、健康にいいと本気で信じていた無邪気さゆえでしょう。

間引き説

単なる乳児虐待に過ぎないズンズン運動ですが、立証困難などの事情があって長々と続いてきました。これがネットのごく一部で「間引きビジネスだったのではないか」という陰謀論を引き起こしたようです。恐らく、アトピーやダウン症に効くと謳っていた部分が「産婆がキュッと」の嘘伝説と合体したのでしょう。

陰謀論者の言い分はこうです。「ズンズン運動はマッサージ中の事故に見せかけて障害児を間引きするのが真の目的。親も暗黙の了解で姫川代表に預けていた。それを何も知らない奴が『子どもが死んだ!』と騒いだせいで姫川代表は逮捕された」

陰謀論には時として「こうあって欲しい」「こうあるべきだ」という願望が滲み出るものです。この場合は「障害者は間引きされるのが正しい社会の在り方だ」という願望が、今は亡きズンズン運動に重ねられているのでしょう。中には「本来なら自分は間引きされる側の人間だった」とうそぶきながら間引きの幻想を受け容れ神聖視する御仁もおり、よく分からない価値観を形成しています。

ある者は、戸塚ヨットスクールも「温情判決」を受けていたことに触れつつ「世の中は、不出来な人間を裏で処理する『必要悪』を求めている」などと持論を展開していました。「本気では信じていない」などと予防線を張ろうとも、このような陰謀論を首肯し歓迎する時点で相当恥ずかしいと思います。

まとめ

ある時は巧みな話術で、またある時は保護者の不安に付け込み、医療的に無意味どころか死んでもおかしくない乳児虐待を続けてきた「ズンズン運動」。これが歴史の表舞台から消えるまで15年の歳月と2人の命を代償としてきました。

ズンズン運動がダウン症児に行われていたという一点から、「不出来な子を裏で始末する必要悪」という幻影が生まれ、優生思想に染まった陰謀論も出回りました。さすがに今は鎮まっていますが、二次被害は確かにあったのです。

参考サイト

「ズンズン運動」姫川尚美逮捕!乳児相次いで死亡…首ねじったり揺すったり
https://www.j-cast.com

「ズンズン運動」の姫川尚美容疑者がようやく逮捕「グラップラー刃牙」に出てきた殺人技と指摘も
https://matome.eternalcollegest.com

複数の死亡例ある赤ちゃんマッサージ 近隣住民「逮捕して」
https://www.news-postseven.com


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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