失声症、失語症、緘黙症…みんなちがって、みんな喋れない
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「失声症」「失語症」「緘黙症」いずれも発語に支障がある状態です。しかし細かい事が混同されがちで、違いの分からない人が大半ではないでしょうか。今回は、それぞれの特徴を列挙しながら違いをあぶり出して行こうと思います。
失声症
まず「失声症」は、その名の通り声が出なくなる、出ても聞き取れないというものです。声帯や発声器官などの異常を原因とすることもあれば、ストレスや葛藤などからくる「心因性失声症」もあり、大抵は後者が語られています。
心因性失声症は、男女間で言えば女性、年代で言えば思春期から30代前後の間に発症しやすいです。無論、他の年代でも発症しないとは限りません。
心因性にはカウンセリングなどの治療法がありますが、患者によって何をやるか、治るまでどれほどかかるのかは当然異なってきます。治療は大抵1週間から数か月のうちに完了し、自然治癒が決め手になることが多いです。精神科にかかる症状としては比較的軽いと言えます。
一方で、症状があまりにも長引いている場合は別の精神疾患を併発している可能性もあります。そうなると専門医の本格的な治療が必要となるでしょう。
失語症(運動性失語)
「失語症」は失声症と似て非なるもので、こちらは脳卒中や交通事故の後遺症などによる大脳の損傷が原因です。声が出なくなるというよりは言葉を上手く使えないと形容すべき状態で、会話や読み書き全般に広く影響します。例えば相手の話が理解できなかったり、文章の読み書きや理解ができなかったり、伝えたい言葉が上手く出ず言い間違えたりといった状態です。
ひとくちに大脳の損傷といっても、その部位によって失語症の種類も変わってきます。こと喋れなくなるという症状に限定すれば、運動性言語野の損傷による「運動性失語(ブローカ失語)」が該当するでしょう。言葉の理解(インプット)は出来ても発語(アウトプット)に悪影響が出ている状態です。
失語症の治療は、主に言語聴覚士によるリハビリです。挨拶や会話や筆記など、言葉を使う訓練によって言語コミュニケーションを取り戻していきます。なお、言語聴覚士は失声症や緘黙症の治療にも関わることがある職業です。
また、脳の損傷による言語障害には「構音障害」というものもあります。あちらは運動中枢にトラブルが起こっており、唇や舌などの発声器官に影響しています。失語症の場合、発声器官そのものに異常はないそうです。類似どころか酷似の疾患や症状が多いのも特徴の一つといえるでしょう。
緘黙症
ある意味本稿の主題でもある「緘黙症(かん黙症)」は、喋ること自体に不安や緊張があって話せない状態です。心因性失声症と違うのは症状の長さで、決して一時的なものではなく年単位は当たり前です。保育園や幼稚園に通う幼児期に症状が明らかになることが多く、小学校や中学校で発症することもあります。
緘黙症にはエブリタイムで発語できない「全緘黙」と、家庭など安心できる場所でのみ話せる「場面緘黙(選択制緘黙)」があり、ほとんどのケースは後者と言われています。場面緘黙にも色々あり、大勢の前だけで喋れないこともあれば、人の名前だけは言えないという例もあります。
緘黙症の改善にあたっては、不安や緊張の原因を探ることはまずしません。「気質や性質によるものでもなければ、増してやわざと話そうとしない訳ではない」「話したくても話せないんだ」という認識を得るのが、関わる上でのスタートラインです。問題はそのスタートラインにすら立てていない人が圧倒的に多いことで、症状の長期化や二次障害を引き起こす環境要因となっています。
小さな成功体験を重ね、地道にスモールステップを刻んでいくことが、緘黙症との適切な向き合い方です。適切な支援と治療を早いうちから受けられれば、緘黙症は改善され「喋れない子」から脱却できるでしょう。
本当の症状は“周囲”に現れる
いずれも似て非なる疾患ですが、「喋れない」以外に共通した厄介な症状があります。それは「周囲の人間」です。「喋れない」という事態や症状を全く理解できず、分かろうともしない手合いが生活圏のどこかに現れ、必ず邪魔してきます。これほど厄介で重篤な“症状”はありません。
喋れないことを殺人以上の重罪であるかのように捉える者は意外と多いです。彼/彼女らは性格や気合の問題と決めつけ、根性論だけで何が何でも無理矢理喋らせようとします。そのアプローチはしばしば横暴で、症状の改善どころか悪化と長期化に繋がります。まさに憎むべき素人、無能な働き者です。
煽り運転のような荒療治で解決するなら、医者も言語聴覚士も必要ないでしょう。しかし横車を押すようなアプローチは逆効果にしかならないのが現実です。喋れないことが許せない思想を持つ者には、できれば「喋れない」に悩む疾患者や当事者へ近寄らないで貰いたいものですね。症状を改善するには相応の環境というものがございますので。
参考サイト
失声症と失語症の違い 声が出なくて悩んでいる方へ
https://www.nippku.ac.jp
失語症とは?言語聴覚士が関わる失語症について
https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp
緘黙(かんもく)とは
https://osakamental.com