「生きづらさダヨ!全員集合」オンラインイベントレポート②~チャレンジド・ディバイド
エンタメ 暮らし 身体障害◀過去の記事「生きづらさダヨ!全員集合」オンラインイベントレポート①~孤独と孤立の違い
Choose Life ProjectのYouTubeチャンネルにて8月30日から配信されている「生きづらさダヨ!全員集合」の動画を何回かに分けてレポートしていきます。動画はGet in touch公式ホームページでも視聴できます。
4人のメインスピーカーによる生きづらさ発表を軸とした番組構成となっており、「否定しない」「比較しない」「指導しない」をモットーに100人の一般オーディエンスもZoomを介して参加しています。
前回はダンサーの想真(そうしん)さんが「孤独と孤立の違い」について話したところまでお伝えしました。今回は、2番目のスピーカーとなるコラムニストの伊是名夏子さんの話となります。
(コラム中に出る「東」は東ちづるさん、「みたらし」はみたらし加奈さんを指します。詳しくは前回記事を参照してください。)
結婚相手の両親から大目玉
生まれつき「骨形成不全症」の伊是名さんは、年に数度の骨折は当たり前で時には寝たきり状態になることもあります。デートしたい・結婚したい・子育てしたい、と人並みの願いを持ち続けて28歳の時に結婚の話が持ち上がったのですが、そこで相手の両親から大目玉を食らいました。
伊是名「28歳で結婚を決めた時、相手の両親から『障害者と結婚するなど不幸だ』『絶対に許さない』『地獄に落ちろ』と猛反対をうけたことがあります」
伊是名「当時の職場(小学校)でその話をすると、一部の人は『反対されて当たり前』『親の悪口はダメ』『(諦めるようあなたを)説得しなきゃ』と言ってきて、相手の両親に結婚を反対されたことよりもそっちの方がショックでした。私のことを知ってくれているであろう、いつも働く同僚や遊びに行く友達すら、障害者との結婚となれば『不幸になって当たり前』と思うことがあるのだな、と」
結婚相手の両親を怒らせた理由は単に伊是名さんが障害者というだけのことでした。それよりも伊是名さんにとってショックだったのは、職場の同僚(小学校の教師)や友人ですら「障害者との結婚は不幸」と思い込んでいたことです。
伊是名「20代から産婦人科検診に通っていますが、大抵医師からは『なんで障害者が来たの?』と言いたげな反応で、門前払いというか簡単な問診で済まされる病院が多かったです。生理の遅れで受診したときも『えッ!?妊娠の可能性があるんですかッ!?』と返されました。普通、生理の遅れは妊娠を疑うものですが、専門家の医師ですら『それはないだろう』と思い込んでいるわけです」
障害者への思い込みと衝突する話はまだ続き、「障害者に産婦人科など必要ない。まして妊娠などありえない」などと見当違いの対応を何度も受けたことを明かします。
伊是名「何をやるにも選択肢が少なく、自分がパイオニアとなるつもりで前例を作っていかねばならないのが生きづらさですね。生活の中で苦しいことや出来ないことはありますが、それを話すと『障害者なんだから出来なくて当たり前だろ』と返されることがあるのはとても嫌です。それでも、自分で切り開いていく姿勢は大切ですし、応援してくれる人や支えてくれる人もいます。ただ、そこへ辿り着くまでに多大な苦労を強いられるのが『生きづらさ』ではありますね」
障害者と健常者の溝
東「なぜ障害があると、人並みの願いも『無理だ』と切り捨てられるのでしょうね」
伊是名「皆が障害を『悪いもの』『大変』『よくないこと』と思い込んでいるのはありますね。京都のALS嘱託殺人にも言える話ですが、健常者が自殺すると『どうしてこんなことが』と狼狽えるのに、障害者が死にたがると『まあしょうがないよね』と自殺しても仕方ないような空気になります。それに皆気付いていないのは嫌ですね」
東「この社会の『当たり前』『常識』とは多数派の都合で決めたもので、そこから外れればたちまちマイノリティとなるわけですね。そもそも『障害者』という言葉にも違和感があるのでは」
みたらし「障害とは社会が作っているものですしね」
――当事者からして障害者とか以外にいい呼び方はありませんか。
伊是名「言葉も大事ではありますね。障害者の友達がいれば『障害者』と聞けばその友達が思い浮かぶものです。そういう経験、障害者が当たり前に存在していれば『障害者』の言葉に余計なイメージはつかないのではないでしょうか」
東「確かに、『まぜこぜ』で活動していると気にならない側面はあります。『健常者』こそ不思議な言葉で、『常に健やかな者』などいるのでしょうか」
みたらし「『障害者』を使わないよりも、『健常者』を使わない方が現実的とは思いますね」
東「そもそも分ける必要など無いんですよ。よく分けたがりますけれど、そこから分断が出てきます。枠を作る方が分かりやすいのでしょうか」
みたらし「自己紹介しやすいとかですかね」
東「それに障害者すなわち不自由・不幸・不便・不運と色々繋げられていますが、必ずしも不幸という訳ではありません。」
オーディエンスの質問込みで長々と語られましたが、結局は東さんの言う通り「障害者すなわち不幸などと思い込みに過ぎない」に帰結するのだと思います。
障害の周知と作品づくり
――周りに障害者がいないあまり想像力が育たず、差別的な発言をしたり障害者を扱う番組で易々と感動したりするかもしれません。障害を知るきっかけという点では、ああいった番組も必要なのでしょうが。
伊是名「難しい解釈ですよね、賛否両論で」
東「テレビに出る側としては、障害者にはもっとテレビ出演する機会があっていいと思います。年1回と言わずレギュラー枠で。高いスキルを持ちつつもテレビで取り上げられたがっている障害者も結構多いですよ」
障害者を扱う番組に関しては伊是名さんの言う通り賛否両論ですが、東さんはその存在に肯定的でした。確かに、周知するきっかけとしては最適かもしれません。
伊是名「注目を増やすのはいいのですが、障害者が主人公の作品から一歩踏み込んで、主人公の友達などが障害者で当たり前に存在する作品なども増えてほしいですね」
東「例えば当たり前に手話をする友達とか車椅子の友達がいても良い筈ですが、実際街で会わないからかそういう作品は少ないですね」
伊是名「慣れてないというのもあるでしょうね」
伊是名さんが提案するのは、作品の中で当たり前に障害者が息づいているような世界観作りを増やすことです。しかし実際は、障害が前面に出るような描写が主流で、自然に当たり前に障害者が入り混じっているというリアリティを出すのが難しいとされます。
東「『自分の周りに障害者はいない』と思い込む人は多いですが、実際はたくさん居るんですよ」
みたらし「知らないだけでね」
東「なぜ知らないかというと、伝えられていないからです」
障害者雇用とマッチング
また、オーディエンスからは「障害者は仕事が遅いという偏見があり、まともに就職できない」という意見が寄せられました。
東「障害者だから喋るのが遅いとか仕事ができないとか、そういう思い込みは確かにあるのでしょう。企業には法定雇用率というものがあるのですが、雇わずに罰金を選ぶ企業もまた存在します。一方、障害者を雇用してもどうしたらいいか分からないという企業も多いです。要はマッチングの難しさですね」
伊是名「小さい頃から当たり前に共生していれば違うのも当たり前となり、マッチングも当たり前に合わせられるようになるということですね」
伊是名さんのアイデアは一理あります。しかし、障害のある特別支援学級の生徒は、関わる生徒が固定化(俗に言う「~ちゃん係」)される傾向にあります。学校で全員が当たり前に一緒に過ごす仕組みを構築して、共生について正しく教育されなければ解決しないのではないでしょうか。
伊是名「障害者が働きやすいというのは、すなわち健常者も働きやすいということでもありますね。最近のリモートワークにしてもそうですし」
東「私の知っている範囲では、知的+ASDで自分のことは全く表現できないけれど、絵を描くのが大好きだという人が一般雇用で働いています。彼の仕事は社内で絵を描くことで、それだけで社内の雰囲気が改善されています。上司が『今日もがんばれよ』と声をかけると『お前もがんばれよ』とタメ口で返し、それで皆がクスッと笑う感じですね。社内の雰囲気が良くなれば成果も上がります」
みたらし「誰かの選択肢を狭めることは、巡り巡って自分の選択肢を狭めることへ繋がります。働きやすくなる選択肢が広がり、知られていけばいいですね」
結局は「障害者が働きやすい=誰もが働きやすい」ということです。例えば、ASDの人に向けて具体的に指示することは、定型発達の人に対しても具体的で分かりやすいということです。バリアフリーが障害者だけでなく全ての人にとって快適であることはもっと多くの人が気付くべきです。
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