差別用語はホウ酸団子である
ネットの少しでもアングラな空間では、どぎつい侮蔑語や差別用語が飛び交っているものです。「ガイジ」だのなんだの、見ていて気が滅入ってくる文字列に対し、「こんな言葉なくなればいいのに」と思うこともあるでしょう。
ですが、闇に葬ったり蓋をしたりしようとせず、あえて残すという道もあるのではないかと最近ふと思いました。今から提唱する「ホウ酸団子論法」は、特に権威ある研究者などが生み出したものではなく、個人的にポッと考えただけのものです。話半分にでも読んでいってください。
簡単にいえば、差別語や侮蔑語を嬉々として使うような者をあぶり出すリトマス試験紙のような存在になるのではないかという話です。
ある外国語講師の知恵
「外国語の講師が、現地でタブーとされている単語を教えていた。『何故わざわざそんな言葉を教えるのですか?』と聞くと講師にこう返された。『旅先などで知らずに発してトラブルになるのを防ぐためだ』」
これはかなり前に見た、(確か)Twitterでの書き込みです。国と地域によって、野外で発してはいけない単語や人前で出してはならないハンドサインは様々です。例えばギリシャではピースサインやサムズアップが侮辱の意味として通っており、知らずに出せば重大なトラブルにまで発展することでしょう。知識として備えていれば、いたずらにトラブルを起こす危険性も減ります。
しかし、「知っている」ことと「それをしない」ことは別です。「裏ピースはイギリスだと侮蔑表現」と知った上でも、「接客の態度が気に食わないので裏ピースしてやった」ということはあるかも知れません。
つまり何が言いたいのかといいますと、そこにある「侮蔑表現」を使うかどうかは「その人次第」ということです。これをホウ酸団子に釣られる様子として例えたのが「ホウ酸団子論法」です。
ホウ酸団子とは
ホウ酸団子とは、主にゴキブリの駆除に使われる罠団子で、小麦粉にホウ酸と誘引剤(玉ねぎ・焼肉のタレなど)を混ぜて作ります。ホウ酸はゴキブリにとって遅効性の神経毒で、不治の脱水症状に苦しみながら水回りで死ぬため後処理も楽だといわれています。また、ホウ酸に侵されたゴキブリは仲間に危険サインを送るため、群れごと家から追い出せる効果も期待されているそうです。
入手の容易なホウ酸さえあれば家庭にある調味料だけで簡単に作れますが、子どもやペットが誤って食べてしまうリスクも極めて大きいです。製薬会社などの商品として売られているものは、誤飲を防ぐために苦味などで対策していますが、家庭で作るホウ酸団子にそのような添加物を入れるのは少数派でしょう。
ホウ酸にも致死量はあり、乳児で2~3g、幼児で5~6g、成人でも15g以上といわれています。重症化は稀ながら死亡例もゼロではなく、ホウ酸を過剰に混ぜ込んでいるのも一因として挙げられています。
つまり、ゴキブリ駆除に使う罠がホウ酸団子で、何も知らない子どもやペットが誤って食べるリスクも持っているという訳です。
こう、叩き棒にフラフラと寄ってきて掴むワケだ
ここから本題ですが、ホウ酸団子は誘引食毒剤とも呼ばれています。ゴキブリをおびき寄せて特効の神経毒をとらせるからですね。一方で、それの置かれた目的を知らない子どもやペットによる誤食リスクもあります。
ネット上で使われる差別用語や侮蔑語にしても、言い回しはキャッチーになるので「キレッキレ」「火の玉ストレート」などと褒め称えられます。鬱憤を吐き出せるうえ承認欲求を満たせるならば、まさに垂涎モノの逸品でしょう。だからこそ、それに惹かれて手に取ろうとフラフラ寄ってくるわけです。
禁止や規制ではなく、たとえ不快でも我慢して残しておいてやれば、食虫植物とリトマス試験紙が合体したツールとして機能するのではないでしょうか。遅効性の毒が効いてきたころにはすでに人として後戻りできなくなっているかもしれません。
最後に、ホウ酸団子に関する報告書から一節を引用します。
「市販されているゴキブリ駆除剤(誘引食毒剤)は、人間やペットが誤食しないよう工夫が施されてい る。しかし家庭で作成するホウ酸団子は、ホウ酸(第 3 類医薬品)を容易に入手できることもあり、作 成を規制することは現実的ではない。誤食した際に、稀とはいえ合併症を生じる可能性がある含有率の 高いホウ酸団子を作成することがないよう、適切な含有率の作り方を指導、啓発するといった対策が必 要となるであろう。」
参考サイト
手作りホウ酸団子でゴキブリ退治!|健栄生活
https://www.kenei-pharm.com
ホウ酸団子の誤食による急性薬物中毒|日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会(PDF)
https://www.jpeds.or.jp