内観療法~私は愛されている、という気づき
暮らし出典:Photo by Rowan Heuvel on Unsplash
私は大学4年生のころ、精神的に「抑うつ」になり心療内科に通院していました。大学1年生のころから、2週間に1度カウンセリングで「認知行動療法」を受けていましたが、効果がなかなか出ませんでした。そこで、小さいころ通っていた塾の先生で、現在はカウンセラーをしているAさんに相談したところ「内観療法」を勧めてくれました。
そもそも内観療法って何?
内観法は、心理療法のひとつです。「内観」とは文字どおり「自分の心の内側を観察する」ことです。簡単に説明すると、過去から現在までの自分自身に関する「事実」を、家族や身近な人々を対象に一定の期間に区切って年代順にていねいに回想する、というものです。
その中でも「集中内観」では、内観者は「世話になったこと」「してあげたこと」「迷惑をかけたこと」の3つのテーマにしたがって徹底的に自分自身の内側を調べます。実際の方法としては、狭い空間に朝から晩まで1人で静かに座り、ひたすらに自分自身の精神状態や、その動きを内面的に観察し、一定の時間間隔で面接に来る、内観指導者に調べた内容を報告します。これを一週間続けることで、たくさんの「気づき」をえられ、精神状態が安定します。
いざ、内観!
Aさんが母に私への内観療法の必要性を話してくださり、治療を受けることに決まったのです。私は大学4年生のクリスマスから、正月明けにかけて、紹介してもらった奈良の内観研修所にいきました。そこは、和風の立派な建物で、少し寺の僧侶になった気持ちにもなりました。お天気はよく、季節は冬でしたので寒かったように思います。
内観そして、宿泊することになった部屋は畳張でした。その部屋の片隅に、ひとつの座布団を囲むように屏風が置かれていました。そして、部屋の真ん中には、和風籠目の天井照明がひっそりとぶら下がっていました。また隣に同じ作りの部屋があり、繋がってました。そこには同性の方がひとりいましたが、1週間近くにいたのに、ほとんど会話はしませんでした。当然、スマホや私語は厳禁です。
内観が始まると、私は四隅を屏風に囲まれた座布団に正座しました。屏風に下記の「内観三項目」の張り紙がされていました。
母、父、兄妹姉妹から下記の事を数年ごとに分け、注意深く調べてください。
1:「お世話になったこと」
2:「して、返したこと」(してあげたこと)
3:「迷惑をかけたこと」
面接者から説明を受けた後、最初に自分から見た、自分の「人生の経歴」を紙に書き起こしました。このとき、私が犯してきた人にはいえないようなことをさらけ出して、面接者に伝えるべきか葛藤しました。最初の1、2回の面接では伝えられなかったのを覚えています。
しかし「なんのために、わざわざ、私は1週間もここにいることにしたのか?」を思いました。そして意を決して、面接者にやっと涙を流しながら、自分の罪を打ち明けました。面接者はただ、たくさんうなずくだけが傾聴ではありません。ただ静かに、必要なときにわずかにうなずき、目を見つめ、深く理解しようと聴きます。面接者とは面接時には必要最低限のことしか話しませんが、私は面接者の傾聴に深く感動し、心をひらき、自分の心の治療に最大限励もうと思えたのです。
自分の紙に書いた経歴を伝え終わり、次に本格的な内観が始まりました。まずは、次の90分後の面接までに3年~5年のみ思い出していきました。まずは0歳~5歳、次に5~10歳、そして10~14歳というようにです。
お母さんにお世話になったこと
お世話になったお母さんにしてあげたこと
お母さんに迷惑をかけてしまったこと
内観では紙に書き出したりしません。ただ目を軽く閉じて、自分の内面を調べました。思い出すと、お母さんに自分が普段思っている以上に、たくさんのことで、お世話になっていることに気づきました。それは恩返しをしたとしても、きりがないぐらいの愛情でした。
そして、自分がお母さんにして返したことなんて、ほとんど無いにひとしいことに気づきました。わがままばかりしてきてました。そして迷惑をかけてしまったことも、たくさんあることに気づいたのです。
母について内観をした時の一つのエピソードでこんなものがあります。
高校生のころ、昼食はお弁当でした。お母さんが作ってくれた、お弁当はいつもおかずいっぱいで、ギュウギュウに詰められていました。そのお弁当はいつも透明の袋に入れられていましたが、大概液漏れを起こし、お弁当箱がベトベトで臭かったです。私はお母さんがわざわざ作ってくれた、このお弁当のことを好きになれませんでした。私は「液漏れを起こすほどお弁当のおかずをいれなくていいのに」と思っていました。いつもギュウギュウに詰められた、手作りのお弁当が「愛情重たすぎる」とさえ思っていたのです。
いつお母さんのお弁当の冷凍食品が多く、中身が少ないクラスの友達のBちゃんに「あなたのお弁当は愛情が注がれているお弁当なのに、何に不満なのかわからない!」といわれたこともありました。ただそういわれましても、当時の私にはわからないままでした。
親子の血縁というのは、永遠に切っても切れないものだと思います。障害ある方で家族関係が上手くいかずギクシャクし、楽しいだけではなく、辛い経験されてきた方もたくさんいらっしゃるかと思います。そのような辛い経験をずっとしていると、ついつい知らずの間に物の見え方が狭まり、歪んでいきます。そんなときは今一度、内観療法の「内観三項目」を振り返ることで物の見え方の矯正を測るといいかもしれません。私は内観中にたくさんの気づきがあり、面接中には号泣することも多々ありました。
内観療法を受けてみて、気づいたこと
1週間かけて、このようなエピソードをたくさん自分の中で映像で再生していきました。「そのとき、お母さんはどんな表情で私を見ていた?」と問いかけながら、きめ細かく思い出していったのです。そうすると、母から私は愛されてた実感が湧いてきました。そして、私は今まで孤独に感じていた原因がわかりました。
私は母から「愛されていたのに気づいていなかった」だけなんだと。視界が広がったのです。
おわりに
今回は、母に関することをお話ししました。しかしこれは母だけではなく、父からも、姉妹兄妹、その他友達からも、恋人からもいえることなのではないでしょうか?不仲だと思っていたお母さんからも、お父さんからも、お姉ちゃんからも実は、見えないところで愛されていたのかもしれません。ただ「愛されていない」という自分が作り出したイメージに囚われて、視界が狭まってただけだったかもしれません。
精神的に体調を崩した時に、心へのアプローチの仕方は色々あります。体調を崩したときに、このコラムを読まれているあなたも、自分の身近の人に対して「内観三項目」を日常の中で思い出してみてほしいです。
1:「お世話になったこと」
2:「して 返したこと」
3:「迷惑をかけたこと」
もしかしたら、あなたが元気になれるきっかけになるかもしれません。
参考文献
【『24 内観法』日本学校教育相談学会 齊藤優(2015)】
https://jascg.info