映画「みんな生きている~二つ目の誕生日~」主演の樋口大悟さん、両沢和幸監督にインタビュー。白血病当事者が主演、骨髄ドナーの視点も描く。
暮らし エンタメ その他の障害・病気両沢和幸監督(左)、主演の樋口大悟さん(中)、榎本桜プロデューサー(右)
白血病に罹った青年と骨髄ドナーを申し出た女性の二視点を描いた映画「みんな生きている~二つ目の誕生日」の主演の樋口大悟さん、両沢和幸監督へインタビューする機会を得ました。
ドナーの視点も描く
──白血病患者だけでなくドナー側も描いたのが新鮮でした。どのような思いでこれらを描こうとしたのですか
「経験をベースに作りたいと相談を受けました。白血病を扱った作品自体は多いですが、患者だった本人が関わることが尚更大事だと思ったみたいです。そういう映画は今までなかったと思うし、彼から体験を聞くことで僕にも知識がついてきて、悲劇ばかりではないことも分かりました。メディア的な省略はありますが、彼が主役であることや同室の入院患者なども含めて、脚色しない日常を撮りました」
──樋口さんは監督とどのように脚本や企画を作ってきましたか
「最初は違う方と脚本を作っており、アドバイスを貰っていました。それがなかなか進まなくて、僕の病気を知る監督が名乗り出た訳です」
「脚本が出来たら読んでくださいと言っていたのに上がってこないので様子を見たら、脚本作りが上手くいっていなかったようなので、自分も協力することにしました。とにかく脚本がないと先に進みませんからね。脚本を書いて、営業に回って、途中でコロナ禍になって、クラウドファンディングを実施して……とやってきました」
「リアリティに寄りすぎると、エンターテイメントの間口を狭めてしまい、多くの人に観てもらえません。なので、エンターテイメント性を保つことだけを監督にお願いしました。あと、主演を僕自身がやるかどうかも迷いました。僕が主演だとドキュメンタリー映画に化けるのではという不安があった訳です。けれども監督が『お前が主演をやらないと撮らない』と言ったので、2人で覚悟を決めてスタートしたのが4年前のことです」
白血病の経験
(C)2022「みんな生きている 二つ目の誕生日」製作プロジェクト
──今の健康状態はいかがですか
「具体的にはフルマラソンを走破するくらいにまでなりました。しかし、移植したばかりの頃は風邪が2,3か月治らないなど苦労しました。血が変わることで免疫力が乳児並みに戻ってしまい、予防接種を受けたり、間に合わず風疹に罹ってしまったり、強い日差しを避けたりと、大変でした」
──「二つ目の誕生日」とはそういった意味もあるのですか
「(白血病患者には)移植した日を『二つ目の誕生日』と呼ぶ慣習があり、それをサブタイトルに採用しました。ある意味、自分は今15歳の思春期或いは反抗期ともいえます」
──別の方の骨髄を持つ感覚はどういった感じですか
「最初は拒否反応が必ず出ますので、免疫抑制剤などの薬でバランスを取らねばなりません。自分の血と他人の骨髄で縄張り争いしている感じです。貰った血が段々勝つように薬でコントロールしていったので、身体は男性ですが血液は女性ということになっています。髪や爪は血液の影響を受けやすいので、これらドナーの女性に似てきましたね。特に髪はとても柔らかくなっています」
──白血病になったと知って、どのようなことを考えましたか
「僕はもう死ぬんだなと思いましたね。骨髄の異常を示唆する検査通知が家に届き、再検査したらすぐ入院となりました。その時はスポーツジムのインストラクターをしていて、アクション役者を目指し始めた頃でした。少し痺れが出るくらいだったのですが、それを調べても何もなかったので急でしたね。怪我をすると血が止まらなくなるので、自暴自棄になって壁を殴る事すら許されません」
──もし周りの人が白血病になったら、どう接するのが良いと思いますか
「僕の場合は普通に接してもらうことが救いでした。疎外感を感じないのが嬉しいんですね。気を遣われると、社会から疎外された感じがしてしまいます。覚悟を決めたうえで、なるべく普段と変わらない態度で過ごしました。当時は本当に、自分が忘れられることへの恐怖があったのです」
「骨髄移植して治療できるに越したことはありませんが、移植した直後に自分が消えてしまう可能性もあって表裏一体です。ドナーが見つかったのに何故移植しないのか問われたことがあります。背中を押してくれるつもりだったのは分かっているのですが、その時はいっぱいいっぱいで、つい街中で怒鳴ってしまいました」
名前も知らない誰かのために
──ドナーとは手紙でどのようなやり取りをされていますか。また、仮に会えたら何をお話ししたいですか
「手紙は移植から1年以内という制限がありますので、1年分の感謝を書き連ねました。出来るようになったこと、未だに出来ないこと、沢山ありますが貴方がいなければ僕は生きていませんでした、みたいな文章を書いた覚えがあります。あれから15年、もし今日この場に居たとしても逆に何も喋れないのではないかと思います。どこかで生きていてくれるだけでも十分です」
「実際、別件でドナー提供したことがある人に伺ったのですが、『やっと私の出番が来た』と思ったそうです。自分の出番が来た、やっと他人の役に立てる、そういう気持ちの人がいることを信じたい感情がありましたね」
──白血病になる前後でどのように心境が変わりましたか
「人のことをよく考えるようになり、出来ないことは出来ないと理解出来るようになりました。体力を過信しないこととか、思ったことはすぐ伝えようとか。育ててくれた親へ感謝したり喧嘩した友達に謝ったり、明日が来ないかもと思った日々を経験してからは素直に伝えるようになりました。言い残して死んだら後悔しますからね。それが心境の変化です」
──医療従事者側の言葉の重みも感じていましたか
「とてもよく感じていました。看護師にもよく助けてもらいましたから。情報が行き渡っていないにも関わらず、忙しい合間を縫って主治医が観に来てくださったことにも感謝しています。移植コーディネーターも観に来てくださいましたね。移植を後押ししてくれた方の一人です」
語り部として
主演の樋口大悟さん
──白血病の語り部として、今後のビジョンは何かありますか
「この映画は各地の小学校や公民館を回りながら広めていくと思います。また、役者として新しい仕事をしていくことも一つの方法ではないかと考えています」
──社会や国へはどのような支援を希望していますか
「若い世代の骨髄バンク登録が増えて欲しいです。今54万人ほど登録されていますが、比較的高齢の方が多く、今後10~20年で半分以下に減ってしまうと予想されています。また、若い人の骨髄の方が治癒率も高いです。問題は、若い人が関心を持ってくれるかどうか、そして自分のこととして捉えてくれるかどうかです。何も知らないことが一番の問題なので、知ることが第一歩だと思います」
「国が補償するドナー休暇制度が少しずつ増えてはいるのですが、提供者がいないとしょうがないですよね。骨髄の合う方がいるのであれば、そのサポートが広まっていけば、実際に骨髄提供までいくケースが増えると思います」
「自治体ごとに違いますが、会社なら有給にしてくれるなどの運動は少しずつ増えてはいます。自治体に出来るのはハードルを下げることですね。出来ることをやるしかない」
──ドナーマッチングにネットやAIを活用する道はあると思いますか
「血液型を分析したうえで登録していないとマッチング出来ないので、献血は必須になると思います。また、誰かがカミングアウトするとその分登録が増えます。問題は、登録はしたけども実際に連絡すると断られるケースですね。説明を受けると躊躇われることもあるので、登録が増えればいい話ではありません。それでも、骨髄移植によって助かった人がいることを伝えるなどして分母を増やしていけたらなと思います」
映画「みんな生きている~二つ目の誕生日」は、大阪市のシネ・ヌーヴォで4月28日まで公開されていて、神戸市のkino cinéma 神戸国際でも、5月5日から11日まで公開されます。その他全国各地の映画館でも公開される予定です。詳しくは劇場情報をご覧ください。
(公式サイト・劇場情報)https://www.min-iki.com/theater_info.htm
映画『みんな生きている〜二つ目の誕生日〜』公式サイト
https://www.min-iki.com/
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