「I know IBD プロジェクト」オンライン記者発表会
暮らしIBD(炎症性腸疾患)の周知や支援活動などに取り組む「I know IBDプロジェクト」は、去る5月17日にオンライン記者発表会を開き、IBDの概要や当事者の肉声、プロジェクトの取り組みなどをプレゼンしました。
IBD(炎症性腸疾患)とは
IBD(炎症性腸疾患)はInflammatory Bowel Diseaseの略で、潰瘍性大腸炎とクローン病を一括りにした呼び方となっています。両者は病気としては完全に別物ですが、共通項が多いのでここでは原則IBDとまとめて扱います。
IBDは根本的治療のない難治性の病気で、慢性的に続く症状のせいでQOLも低下します。発症は比較的若年層に多く、進学や就職や結婚など人生の重要な節目に悪影響を及ぼし続けるほか、入退院の繰り返しが雇用側に嫌われ就職差別を受けることさえあります。とはいえ、かつて不治の病と言われていたのが、新しい治療法の開発などからある程度は前向きに改善されてもいます。
IBDの主な症状は便意切迫感で、強烈な便意が何の前触れもなく訪れ、実際に下痢や軟便にも悩まされます。その為トイレも近くなりがちで、外出時は常にトイレとのアクセスを気にし続けねばならず、旅行などの遠出が困難です。加えて外見では分からないので、周囲からの無理解や偏見も悩みの種です。
いまIBDは「難病」という立場から少しずつ改善されつつあります。IBDには活動期と寛解期があり、症状の出ない寛解期は健康な人と変わらない生活を送ることが出来ます。その為、寛解期を延ばしていくのが主な治療方針となっており、正しい理解と適切な治療を広めていくことが大切です。
プロジェクトについて
「I know IBDプロジェクト」はIBD患者に立ちはだかる「見えない壁」を取り除くという理念をもとに、アッヴィ合同会社が主催するプロジェクトです。アッヴィ合同会社は「見えない壁」として、主に周囲の理解不足とトイレの回数を挙げています。
これらを踏まえてプロジェクトでは、「見えない壁の解消」「理解と配慮の可視化」「IBDの啓発活動」を柱とした様々な活動に取り組んでいます。例えば、賛同企業がIBD患者向けにトイレを貸せるようにしたり、こども110番のようなステッカーを掲示したり、周知の為に教育資料を配布したりしています。
プロジェクトは全国で75社2224店舗からの賛同を受けており、患者からも「生活の幅が広がった」「何度も助けられた」と喜びの声が上がっています。2年目を迎えてからは、非日常である「旅」の場面にも活動範囲を広げていくそうです。
ユニバーサルツーリズムの精神
年齢や人種や障害の有無などに関わらず誰もが使いやすいものを「ユニバーサルデザイン」といい、その旅行版が「ユニバーサルツーリズム」です。ユニバーサルツーリズムは観光庁も推し進めている事業であり、誰でも享受できる特性上IBD患者にとっても無関係ではありません。
バリアフリーは物理的な障壁に限らず、制度、言語、偏見といった目に見えない障壁にも意識を向ける必要があります。障害の社会モデルに則り、社会や環境の構造が障害となっていることを理解する必要があります。その為には、「想像力」を養わねばなりません。
想像力を養うには、経験によって自分のこととして考えられるようになるのが手っ取り早いです。かつて1964年の東京オリンピックで多くの外国人が訪れたとき、外国に行った経験のある人が少なくコミュニケーションに難儀しました。しかし日本人の海外旅行が増えると、その分海外での困り事が理解できるようになり、来日観光客が急激に増加してもスムーズに対応できるようになりました。
障害や難病に関する体験は誰もがしている訳ではありません。しかし、トイレに関する困り事は誰もが経験しており、我が事として想像する余地があります。IBD患者の外出支援とは、偏見を持たず安心感を与える「YES安心感NO偏見」にあるのではないでしょうか。
IBD患者の肉声
「IBDと旅」について、協賛企業のひとつであるJTBのスタッフとIBD患者のトークセッションも開かれました。トークセッションでは、IBD患者の肉声として旅行中の様々な事情や悩み事などが語られています。
IBD患者の旅行は、移動の段階からトイレが気になります。特急や新幹線ではトイレに近い席や通路側を予約し、トイレのない長距離バスでは乗る前の飲食を控え、それでも不安ならトレーニングパンツやナプキンを多めに持っていきます。そもそもトイレに関する不安が多いので、簡易トイレを常備しながら自家用車で向かう人が多いです。行先も、自然豊かな所はトイレが少ないので避ける傾向にあり、病気がなければ釣りやキャンプがしたいという声もありました。
旅行先に着いてもトイレの悩みは消えません。人が多い分トイレも混んでおり、トイレの心配や疲れが勝って心から楽しめないケースも多いです。一方で、ヘルプマークに気付いてもらえたり食事に気を遣ってもらえたり、少しの気遣いや配慮が大きな安心にも繋がっています。
最後に「IBDについて理解してくださる方がいるだけで、気持ちがとても楽になる」「借りられるトイレがあるだけでも外出や旅行への不安が解消される」「このプロジェクトに多くの企業やお店が賛同し、IBDを正しく理解してもらうきっかけになってくれれば」と、率直な意見が述べられました。
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