「なぜその言い方がよくないのか」を説明するのは天才の所業である
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職業差別ともとれる発言で批判を受けた川勝平太静岡県知事。細川ガラシャの句を引用するなど不満を露わにしながらも辞職の意思を表明しました。
発端は2024年度初めに新入職員へ向けた訓示でした。「(情理を尽くして信念を貫くには)やっぱり勉強しなくちゃいけません。実は静岡県、県庁というのは別の言葉でいうとシンクタンク(頭脳集団、研究機関)です。毎日、毎日、野菜を売ったり、あるいは牛の世話をしたりとか、あるいはモノを作ったりとかということと違って、基本的に皆様方は頭脳・知性の高い方たちです。ですから、それを磨く必要がありますね」
この部分が、農業や酪農や製造への侮辱だとして抗議を受けた訳です。確かに「お前ら第一次・第二次産業の従事者よりも、県庁で働く役人の方が知性の面で優れている」などと言われて喜ぶ人間は居ませんよね。しかし、「この言い方のどこが不適切か」を納得のいく理知的な説明で紐解き、聞き手に理解させるのもまた困難な気もします。きっと大抵の人が「見れば分かるだろ!分からないなら不勉強だ!」と説明を投げ出すのではないでしょうか。
世に失言の事例は数多くありますが、「それの何が不適切なのか」が分かりやすく説明される機会は少ないと思います。何故ならば、ほとんどの失言や不適切発言は“感情”で判断される一方で、理由を説明するには“論理”という対極の概念が必要だからです。不快感を抱くのは誰にでも出来ますが、その不快感を説明するには技術や才能が必要となるため難しいのです。勿論万人の納得までは得られませんが、だからといって納得のいく理論武装を怠っては、感情論で駄々をこねるのと変わりはありません。
例えば、悪口としての障害者呼ばわりが何故いけないのかという命題があり、しばしば「障害者と言われて怒るお前らの方が差別的だ」などといった屁理屈を許しています。これに対しては既に匿名から「『障害者=悪』という価値観を表出しているから」という100点満点の回答が出されており、私も愛用しております。
今回の件についても概ね論理に寄った考察記事が現代ビジネスに投稿されていました。記事には「いつも通り、目の前の相手を上げるのに、誰かと安易に比較してしまう昔ながらの癖が出たのだ」とあり、要するに「他を下げないと褒められないのは悪い癖ですよ」という教訓です。県庁職員という仕事に誇りを持ってもらうために、他の業種を下げていたのでは選民主義と揶揄されても仕方ありません。
この記事の記者は以前から川勝知事を批判していたそうですが、今回に限っては「メディアの言葉狩りに遭った可哀想な子」といった調子で寄り添う姿勢を見せています。これは相手に意見を聞いてもらうための「浮き輪言葉」に近く、よほど悪癖を自覚してもらいたかったのでしょう。叱ってくれる大人がいるぶん、川勝知事も幸せ者ですね。
何であれ、「どうしてその言い方がよくないのか」を論理的に説明し、分かりやすい教訓にまで落とし込むのは極めて高い言語化の能力が求められます。天才の所業と言っていいかもしれません。上手に言語化出来れば、あとは受け取る側の資質に委ねられるのですが、そこに高い才能を求められるのはなんとも惜しい限りです。
参考サイト
川勝知事の訓示全文 静岡県の新規採用職員へ「県庁はシンクタンク」
https://www.asahi.com
“ことば狩り”に遭った川勝知事…メディアは「一部の差別発言」を集中攻撃
https://news.yahoo.co.jp
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