自閉スペクトラム症の特性を活かす〜短所を長所に

暮らし 発達障害

unsplash-logo Vincent Giersch

自閉スペクトラム症の特徴には、コミュニケーションや運動の不器用さから感覚過敏、興味の限定、頑固で几帳面、クールで淡々としているなど、枚挙にいとまがありません。日常生活に困っているからこそ発達「障害」です。一方、中には発達の特性を活かして活躍する人もいます。しかし、私が伝えたいのは、超人的な能力を発揮する「サヴァン症候群」やビル・ゲイツさんなど、いわゆる「天才」の話ではありません。一見短所である特性も、工夫と見方次第では「長所」となります。昔は落ちこぼれだった私が、いかに自身の特性を活かしながら成長できたのか、その支えとなったものについて紹介します。

興味の限定と記憶力

幼少期から私は、自分の好きなマンガやアニメしか興味がありません。大人になった今は、なるべく興味がなくてもとりあえず質問してみる、メモするようにはしています。とはいえ、本心のところで私は自分の好きなこと、大切だと思うことにしか興味と愛着が湧きません(自分で自分のことを冷たく感じる時があるほどに)。実のところ、誰かと話している時も、仕事や勉強をしている時も、何をしている時もずっと、私の頭の中には好きなマンガとアニメのシーンとセリフが(しかもまったく同じ)延々と流れているのです。慣れていることもあってか、一応なんとか社会生活を送っています。この特性のおかげで、幼少期の私は同級生とまともな会話ができず、勉強や友達付き合いにも関心を寄せなかったです。そうなると、同級生からいじめやからかいを受け、先生にはよく叱られ、「落ちこぼれ」のレッテルを貼られました。

しかし、自分の興味のあることしか覚えない、という特性の強さの片鱗が見られたのは、中学生時代でした。小学校でのいじめが原因で不登校になった私が、母方の実家である海外で初めて英語に関心をもちました。理由は、海外の英語の教科書は「マンガ」だったからです。マンガを好きな私は、初めて読んだ英単語をすらすらと覚えていき、「英語」は当時の私にとって唯一の得意分野となりました。このように、自分の好きなものを媒介にすることで、興味のなかった勉強を面白くするのも、一つの有効な手です。苦手な数学では5点を取る、それ以外も赤点気味な私にとって唯一の長所である英語を活かして、私はオセアニアの国の高校に留学しました。

留学でさらによかったのが、そこでは自分の好きな科目を「選ぶ」ことができる教育システムでした。当時の私は人間関係に悩んでいたこともあり、「心理学」には強い関心を寄せていました。しかし、海外の「心理学・社会学」は、日本の心理学書とは違い、難しい内容についていけませんでした。当時の私は記憶は優れていても、「論理的に説明する」、「レポートを書く」ことができず、成績もCマイナスからD判定を受けました。やっぱり私には無理、と落ち込みました。しかし、そんな私の前に新しい先生という救世主が現れました。その先生は、留学生の私にも差別をせずに質問に答え、レポートの書き方を親身に指導してくれました。以前の先生は、「根拠を書いて」とあいまいなことしか教えてくれませんでした。しかし、新しい先生は「レポートでは、自分の意見と参考にした意見をしっかり分けて書くこと」など、より具体的な説明もしてくれました。レポートの書き方も理解し、信頼する先生にほめられた喜びで、私はやる気を取り戻しました。結果、D判定だった私の成績はB判定(レポートはA判定)へ一気にレベルアップできました。留学先で出会った恩師のおかげで私は、日本の大学入試にも無事受かり、入学後も上位の成績を収めることができました。

発達障害の人の特性は、親や先生、友達、仲間など、周囲の理解と支えがあると驚くほど成長することがあります。特に「私ならできる」、「楽しい」、という感覚を一度掴むと、自閉スペクトラム症の方は興味のあることへとことん夢中になります。その特性が勉強面から芸術、ビジネス、社会活動などで発揮されると、高い成果を生み出します。
※自閉スペクトラム症を合併するADHD(注意欠如多動性障害)も、自分の興味のあることに関しては「過集中」し、「記憶力」を発揮する方がいます。

孤独や単調な生活に強い

幼少期から今まで自分の世界にこもり、同じ趣味にひたることを好む私は、孤独にとても強いです。今までの人生を振り返ると、私の味方でいてくれた母や義父の存在があったおかげで、私は今も元気に生きています。しかし、母や姉、周囲が私に感心していたのは、一人で出かける、一人で過ごすのが平気な所です。日本にいる時は、一人で歩いていると誰かに何か言われないか緊張することはあります(海外と比べ日本では、ぼっちかわいそう、と見なす人が多いので)。それを除けば、一人カラオケ、一人アイススケート、一人カフェ、一人猫カフェ、一人スイーツ大盛りを楽しめます。

海外留学をして間もない頃は、言葉が通じないことや搭乗手続きが分からないことへの不安が強かったです。しかし、慣れてきた頃にはすっかり平気になりました。日本からオセアニアの国へ飛ぶ間は、夜から翌朝まで長い時間がかかります。しかし私は、一人きりの夜の飛行機の中で本やゲーム、お絵かき帳を手に悠々自適と過ごしていました。夜中に入り、周囲の乗客が寝静まった頃には私も頭まで毛布を被って寝る姿勢になりました。しかし、いかんせん私はよほど疲れていない限り、飛行機で眠ることはできない体質です。それでも私は、夜から翌朝の4時間から6時間ものあいだ、音楽を聞きながら目を閉じてじっとしていました。母曰く、普通の人だと何時間も眠ることなく音楽だけ聴いてじっとしているのは難しいそうです。恐らく、単調な状態を苦としない気質や、暇な時は好きなマンガやアニメのシーンを頭の中で幾度と流しているからだと思います。

退屈でいらいらしそうな状況や、寂しくても一人で何かに立ち向かっていく必要がある時は、大変辛いものです。しかし、自閉スペクトラム症は興味が非常に限定されていることや、変化より安定を好む傾向が強いです。そのため、タバコや酒、危険な人付き合いなど、刺激が強いものを好む方は少ないです。私も自分の好きな本や趣味、音楽さえあれば事足りているおかげで、タバコや酒、無理した人付き合いをすることもなく、比較的健康で安心できる生活を送れています。
※とはいえ、自閉スペクトラム症の中には、マンガアニメゲーム好きが高じて、インターネット・ゲーム依存症/ゲーム障害になる方もいます。

強い忍耐力と空想する力

最近私が始めた趣味は、「小説」を書くことです。昔から私は、好きなマンガやアニメ、本の物語に没頭し、自分の生き方や人間性の形成に強い影響すら受けてきました。そして、十代ではマンガ・アニメ友達が作った二次創作にも触れました。それを機に、私は読んだマンガやアニメからさらに「もしも物語」を考える空想遊びにも夢中になりました。高校留学時代にようやく活字の魅力にも目覚め、最近は大学と専門学校で文章力が鍛えられました。そして最近とりこになった物語の舞台と登場人物に似た世界を、私自身の情熱を、別の物語として文字にしたい、と思いました。二年前の冬と去年の秋には、長編小説上下二冊分と短編を完成させ、今も新しい小説を書いています。一応家族や一部のネットユーザーにも公開していますが、「自分の体験したことのない出来事(恋愛やファンタジーの世界)、個性的なキャラをあそこまで描けるのがすごい」、という感想を頂きました。自閉症は想像力の弱さからごっこ遊びができない方が多いですが、アスペルガー症候群や高機能自閉症にはむしろ想像力豊かな方が多いようです(少数ですが逆もしかり)。

また二年前の冬や去年、今も私生活が多忙です。しかも、最近までは受験勉強と小説を作成する為に、私はずっと自室に缶詰状態、机にかじりっぱなしの状態でした。とはいえ、何故一度もくじけることなく勉強と趣味の小説執筆を両立させることができたのでしょうか。それは、「好きなことにひたすら夢中になれる情熱と集中力」、「一度決めたことを最後までやり遂げようとする勤勉性と忍耐」など、自閉スペクトラム症の特性を活かせたのが強かったと思います。

今回は私の一部例をあげましたが、自閉スペクトラム症の長所は、実は以下にまだまだ存在します。

①視覚的処理能力が高い
②強い意思と信念
③秩序や規則を重んじる
④何かに対する純粋な興味欲望や感情に振り回されない(冷静)
⑤関心と情熱が長続きする
⑥記憶力が優れている
⑦専門的知識が豊富
⑧空想能力が高い
⑨孤独や単調な生活に強い

今回は特性について触れましたが、中には「社会はそんなにあまくない」、「能力を発揮できるのは一握りしかない」、と思った方もいると思いますし、それは間違ってはいないと思います。自閉スペクトラム症の特性は、「過ぎたるは及ばざるが如し」と同じで、長所と言われるものも強すぎると、自分が疲れてしまうか、周囲とのトラブルにもなります、日本はいまだ「みんなと同じのほうがいい」、「普通でないといけない」、という考え方が強く、発達障害の方には生きづらい社会です。それでも、私達が私達らしく生きていくために、大切なことは何なのでしょうか。

さいごに

去年放送されたドラマ「僕らは奇跡でできている」の主人公、大学で動物学を教える相河一輝は、発達障害の傾向に当てはまります。相河先生は、自分の好きな動物の話しかせず、相手が怒っていても気にしない正直者です。私は、作中のこのセリフが好きです。

「僕は、○○さん(登場人物)のすごいところを、100個言えます。」

そのうち「歯磨き」を挙げると、相手は、「それは誰でもできます」、と苦笑します。しかし、ここで相河先生はそれを「すごいこと」だと言います。それは、一見当たり前のことでも、「できる」が一つでもあることは素晴らしいことなのだ、と言いたいのです。

特定のものに夢中になれる本人の「情熱」を尊重し、周囲の「理解と支え」によって、発達障害のある方の能力が輝きます。ただし発達障害の特性を活かすとは言っても、その目的はその人を天才にするためでも、他の人より優位に立つためでもありません。その人が「自分らしく生きることのできる居場所と武器」であり、「生きがいと自信」を作るためだ、と私は思います。私が落ちこぼれからできる子になった理由も、私が天才だからではありません。私が普通の人と同じことができなくても、私を愛し、私が勉強できた時は自分のことのように喜んでくれた存在がいてくれたからです。私の可能性を信じてくれた母や家族、恩師の存在がいてくれたからです。

それは発達障害があるなしに関わらず、自分のことを認め、支えてくれる存在と居場所を見つけることは、多くの人間に必要だと思います。自分の好きなことや特技への情熱をもつ特性は、その人を理解できる環境があれば、むしろ仕事の面で信頼されることもあると思います。親や周囲から見れば、普通のことができない我が子の将来を心配します。ですが私自身もそうですし、個人差はありますが、自閉スペクトラム症は発達がゆるやかな方が多いです。そのため、その子どもの成長を長い目で見守るのも一つだと思います。問題行動で親もその子自身も困っている場合は、周りや専門家、同じ発達障害の子どもを育てる親の仲間と支え合うことが大切だと思います。

最後までご拝読ありがとうございました。

参考文献

・岡田尊司(2016)「アスペルガー症候群」幻冬舎

・岡田尊司(2014)「インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで」文春新書

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

発達障害 自閉症スペクトラム障害(ASD) 注意欠陥多動性障害(ADHD)

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