ゲームの主人公選択と性自認マイノリティ

暮らし

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開始時に主人公の性別を選ぶゲームは結構多いですよね。その選択による影響は、使える装備やアイテムが大きく変わるレベルのものからセリフのごく一部が変わるだけのものまで様々です。近年は性別選択によるゲーム内の違いが微細になっているのですが。

ところがごく一部のゲームでは男女の他に「中性」「設定しない」という選択肢があったり、性別ではなく「スタイル」「見た目」を選ぶよう指示されたりするものがあるようです。これはコンシューマーよりもスマホゲームに多い傾向が見られます。

例えば「けものフレンズ3」ではプレイヤーのアバターを2種類から選ぶのですが、「見た目を選んで下さい」と書かれているうえどちらも中性的ととれる外見になっています。また、後で何度でも変更できます。

こういった選択肢の増加や説明文の変更に対し、性自認マイノリティ(注1)への配慮ではないかという声があります。実際のところ配慮するような意図はないのがほとんどというのが私見なのですが。

注1:俗に言う「LGBT」ではなく「性自認マイノリティ」としたのは、あくまで「性別と性自認」の関係であって「性指向」とは関係ないからです。性自認マイノリティは「トランスジェンダー」の他、性自認がない「クエスチョニング」なども存在します。ちなみに、セクシャルマイノリティかどうかは「性別」「性自認」「性指向」「性表現」の4要素から決まります。

「あなたのスタイルを選んで下さい」に湧いた

主人公の性別選択について湧きあがったのは、「ポケモンGO」です。例によってスマホゲームですね。ポケモンGOはプレイヤーの見た目を選ぶ際、「スタイルを選択してください」と書かれており、性自認マイノリティにとっての革命的な表現として絶賛されました。

ポケモンの本家シリーズでも、主人公のコーデが充実しだした辺りから「性別」ではなく「スタイル」「写真」を選ぶという文言に変わっており、肌の色も選べるようになっています。このバリエーションは3DSのマシンパワーも関わっていそうですが。

他にも「タービンファイター」ではいきなりキャラメイクで主人公を作らせることで性別の質問を排除したり、「エルブリッサ」(現在配信終了)では性別選択に「中性」「選択しない」を入れていたりと工夫がなされています。

これをジェンダーフリーへの意識向上だの性自認マイノリティへの配慮だの言うのは少し大袈裟ではないかと個人的には思うのですが。

あくまでアバターなので、配慮ではない

ある程度見た目を選べるゲーム主人公というのは、プレイヤーのアバター(分身)に過ぎません。プレイヤー自身に合わせて選ぶ必要はなく、得たい没入感の度合いで変わると言ってもいいでしょう。自分のつもりでやるなら自分にアバターを合わせればいいですし、自分は観客と割り切るならばアバターを一登場人物として作るでしょう。

アバターに対する解釈すら多岐にわたる中で殊更ジェンダーフリーを意識したようには思えない訳です。「エルブリッサ」のような仕掛けが刺さるのは、没入感を得たい性自認マイノリティという限られた数のユーザーでしょう。商売の対象としては絞り過ぎている気がします。

これは性自認マイノリティへの理解が増えてきたというより、理不尽なクレームの論拠を与えないリスクヘッジとしての側面が大きいのではないでしょうか。マイノリティを引き出してクレームを付けられることは、表現としても商売としても避けたいことですし。

ここで誤解しないで欲しいのは、マイノリティにクレーマー気質が潜んでいる話ではないということです。ちびくろサンボ(注2)やミゼットプロレス(注3)の事例で考えれば分かるのですが、マイノリティの名前を出して「○○を差別するな!」と言いがかりをつけられるほうがリスクとしてはあり得るのです。

注2:「ちびくろサンボ」とは、「ぐるぐる回ってバター」のフレーズがある昔の絵本です。大阪府の一般家庭が「黒人差別のメタファーだ!」としてクレームをつけ、刊行自粛にまで追い込まれました。ちなみに、サンボという人名や虎が出てくることから、作中舞台はインド辺りであると言われています。

注3:「ミゼットプロレス」とは低身長症のプロレスラーによる興行で、俗に「小人プロレス」と呼ばれています。「低身長症を笑いものにするのは可哀想だ!」とクレームを受け、早い時期からテレビ中継の自粛を余儀なくされました。

表現と性別と性自認

ジェンダーフリーでいうなら、2018年に発売された「メイドインワリオ ゴージャス」のほうを取り上げるべきでしょう。同作には「トイレ待ちの人を正しく誘導する」というミニゲームがあるのですが、分け方が「男子トイレ/女子トイレ」ではなく、「小便器/大便器」となっているのです。(元ネタがある2006年発売の「おどるメイドインワリオ」では男子トイレと女子トイレでした。ちなみに、女性用小便器は過去実在しています。)

コンシューマーながら、ここまで攻め込んだ表現なのは極めて珍しいと言えるでしょう。とはいえ、意識しなければ気付かないでしょうし、意図があったのかどうかすら受け手の想像次第です。

福岡のDV啓発ポスター「愛情がズレただけ?いいえ、それは暴力です。」もこの話では外せません。赤らめた頬をずらすだけで痣に見えるというアイデアもさることながら、男にも女にも大人にも子供にもとれるよう意識されたデザインもとても高いレベルでまとまっており、表彰も受けています。

担当者によると、「DVの被害者は女性だけと限らない。県では2016年から男性や性的マイノリティそれぞれに向けてのDV相談窓口を開設している。」とのことで、そうした見識から性別や年齢がいかようにも見えるデザインに繋がっています。意図は明らかにあるのですがゲームではなく啓発ポスターとしての表現ですし、「男性もDV被害者になる。同性カップルでもDVは起こる。性別も年齢も関係なくDVはある」というメッセージは共感を集めて然るべきでしょう。

表現とジェンダーフリーの関わり合いをどうするかは、ゲームや現実を問わず今後様々な形が出てくると思います。時には「セクシャルマイノリティだからって、DV加害者にならない保証はないんだよ」などという説教もあるでしょう。寧ろ受け手の真価を問われるのは「特別扱いは無いからな」という説教を含んだ表現が出た時です。

参考サイト

ティドビット~水まわりのまめ知識~ 女性用の小便器はあるのか:TOTO
https://jp.toto.com

男にも女にも見える、福岡県の“DV啓発ポスター”が「素晴らしい」と話題に 担当者に聞く|ニコニコニュース
https://news.nicovideo.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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