大ヒット公開中、映画『僕が跳びはねる理由』の配信が決定!原作者、東田直樹さんが自閉症の世界を言葉で綴る理由

エンタメ 発達障害

重度の自閉症があると、言葉が出ないので人とコミュニケーションが取れず、感情が乱れて大声を出してしまうといった行動が見られます。東田直樹さんもその1人で、重度の自閉症があり会話をすることができませんでしたが、訓練して、文字盤を指しながらコミュニケーションをとる方法を手に入れました。そして東田さんは、13歳の時『自閉症の僕が跳びはねる理由』( エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)を執筆して、自閉症者の心の中を自らの体験から説明したのです。この本は現在世界34か国以上で出版され、117万部を超える世界的なベストセラーとなっています。その著書を元に映画化された『僕が跳びはねる理由』は、世界各地の5人の自閉症がある少年少女たちとその家族のドキュメンタリーで、自閉症者が見て感じている世界が映像や音響で表現され、疑似体験しているかのような作品になっています。

私はグループホームの世話人として、自閉症がある人と一緒に生活していたことがあります。この時に東田さんの本や映画に出会っていたら、もっと良い支援をできたのでは、と悔やみました。そこで、東田さんの本や映画のことをもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思い、取材させていただきました。東田さんには事前に質問項目をお送りして、文章で回答いただいた上で、オンラインでお話しいたしました。東田さんは、文字盤を使いながら、ご自身の趣味のことから今後の活動のことまで、1つ1つの質問に対して、ゆっくりですが、丁寧に回答してくださいました。

──東田さんの趣味は何ですか?好きな音楽は?

僕の趣味はこれというものはないです。強いて言えば、旅をすることと、考えることです。最近は行けていませんが、北海道や沖縄が好きです。きっと大自然が好きだからでしょう。 音楽は毎日聴いています。童謡も好きですし、流行りのJ-POPも聴きます。

自閉症者と関わる人たちの気持ちを楽にしたい

──13歳という年齢で『自閉症の僕が跳びはねる理由』を書かれたきっかけは何ですか?

母は、自閉症だからしてしまう僕の行動をとても不思議に思っていました。僕が自分の気持ちを伝えられるようになってから、母はみんなと違うことばかりする僕に、どうしてそんなことをするのかと尋ねるようになりました。僕が自分の気持ちを伝えると驚いていました。僕の行動が改善しなくても、「なぜ?」の答えに納得することで気持ちに余裕が出たと言っています。

普通と呼ばれる人の行動と自分の行動の違いを知ってからは、僕の方からも、こんなとき普通の人ならどうするのかについて、母に尋ねるようになりました。僕の普通の人に対する理解も、このようにして深まっていったのだと思います。 自閉症者の行動を普通の人に近づけることは簡単ではないこともあり、自閉症者にかかわる家族や支援者の気持ちが少しでも楽になればという思いで、この本を出版しました。

──本や映画を世界中の人たちに見てもらって、自閉症の人たちの気持ちを理解することに役立っていて、私は素晴らしいと感じていますが、東田さんはそのことについてどのように思われますか?

文化や宗教、生活様式の違う人たちにも、この本が受け入れられたことは予想外でした。それだけ自閉症という障害で悩んでいる人が多いからだと思います。悲しい思いをしたまま自閉症者とかかわる人をひとりでも減らすことができたなら良かったです。

僕の本を読んでくださった方、救われたとおっしゃってくださる方に対しては心から感謝しています。その言葉に僕自身も励まされました。

支援者は自閉症者とどのように関わればよいのか

──私が一緒に生活していた自閉症がある人も同じ言葉を繰り返していて、一人の世界に入っているのかなあとずっと思っていました。自分の意思とは関係なく同じ言葉を繰り返してしまうということですが、この時はどのような感情なのでしょうか?

僕の場合は、感情とは関係なく反射のように口から言葉が出てしまいます。一人の世界に入っているのではなく、脳がそう反応してしまうのです。その言葉を何度も言わなければ苦しくなります。 意思通りというか、道具として使えるいくつかの言葉であれば、その場にあった単語や二語文が言えることもあります。繰り返しますが、これは僕の場合で、他の自閉症者も同じとは限りません。皆さんがご存じのように、自閉症者といってもひとりひとり違います。

「どのような感情なのか」というご質問がありましたが、言葉を繰り返しているときに、その人が嬉しいか、悲しいか、怒っているかは、その時々で違うのではないでしょうか。

──私が一緒にグループホームで生活していた自閉症がある人は、目を離すと行方不明になって、実家がある方向に歩いて行ってしまうということが多々ありました。こんな場合、東田さんは、支援者はどのように対応したらよいと思われますか?

最も優先して行うべきことは、安全の確保でしょう。行方不明になったり、事故にあったりしないように気をつけてあげてください。重度の自閉症者であれば、本人を説得して出て行くことを止めるのは難しいと思います。その人が出て行こうとした理由を考えてみて、気持ちを代弁してあげるような言葉かけをするといいのではないでしょうか。 責めることで人は変わりません。自分の気持ちをわかってもらえる、理解しようとしてくれる人にしか心は開かないような気がします。それは障害のある人も同じではないでしょうか。

──自閉症者に対する支援において大事なことはどのようなことでしょうか?

支援に携わってくださる方は、きっと人が好きな人だと思います。誰でも人の気持ちは分かりません。だからこそ、僕は支援で大事なことは、相手のことを思いやりをもって接することだと思っています。普通の人が考えるように障害者も考えていると思って、同じ時間を楽しかったと感じられるように過ごすことではないでしょうか。

自閉症がある人から見た自閉症ではない人

──自閉症である側(東田さん)から見て、自閉症でない人たちに対して違和感を覚えますか?どのような感情を抱かれますか?

違和感ではないのかもしれませんが、うらやましいと思うことはあります。自分が生きづらさを強く感じたときなどです。けれど、そんな気持ちも成長するにつれて減ってきました。人は誰でも努力して幸せを手に入れるものだということがわかったからです。僕の苦しみは僕のもの。そして誰かの苦しみは誰かのものです。みんなそれぞれに課題を抱えながら生きています。僕には普通の人が持っている幸せを手に入れることはできないかもしれませんが、僕にしか手に入れることのできない幸せもあるはずです。今ある幸せに目を向けることが重要だと考えるようになりました。

──私は東田さんの本や映画を観て、自閉症は「障害」というより、自閉症じゃない人と脳の機能が違うだけと感じたのですが、どのように思われますか?

「自閉症」が「自閉症スペクトラム」となり、自閉症の捉え方の幅が広くなりました。自閉症だから障害とは言えなくなってきたのだと思います。それがいいことなのか、悪いことなのかは僕にはわかりません。ただ、障害という捉え方をした場合には、何らかの助けを必要とするケースが多いので、今後はまた細分化され、助けが必要な人たちを障害と認定する方向に変わっていくような気もします。

自閉症がある僕には問題行動があるけど、今の自分が好き

──これまでの家族に対する思いと、これからの将来に対する不安についてお聞かせください。

家族に対しては、心から感謝しています。それはこの僕という人間が存在している理由になっていると思っています。

将来への不安はもちろんありますが、だからといって今何か準備をしているわけではないです。僕は障害者ですが、同時に若者でもあります。同じ年代の青年に同じ質問をしても答えられる人はいないと思います。

──不自由な体と心が嫌で、自閉症がない人たちのように生きていけたらと思っていた反面、今は自閉症が治るとしても、自身にとって自閉症が普通だからこのままの自分を選ぶだろうとおっしゃっていましたが、これについて詳しくお聞かせください。

自閉症が治るということは、病気が治ることとは違うのではないかと思っています。 たとえば聴覚過敏を克服したとしても、それで自閉症が治ったわけではないでしょう。

僕は自閉症者と普通の人では、ものの見方や捉え方、記憶の仕方に違いがあるのではないかと考えています。それらは、どれも人格や価値観に影響を及ぼすものなので、そこが変わってくるとなると、今とは別の人間になってしまうような気がするのです。今より良くなるのだからいいのではないかと考える人もいるかもしれませんが、僕はそう思えないのです。確かに僕には、だめなところがたくさんありますが、今の自分のことが好きだからかもしれません。 治療で問題行動だけ都合よく取り除くことは不可能ではないのか、そんな風にも考えているからです。

──みんなに自閉症を理解してもらいたい、僕の未来がみんなの未来とつながってほしい、という思いを話されていましたが、この目標を達成するために今後どのような活動をしていきたいとお考えですか?

「みんなに自閉症を理解してもらいたい」ということに関しては、これまで通り、自分の思いや考えを自閉症者のひとりとして発信していきたいです。「僕の未来がみんなの未来とつながってほしい」には、ふたつの意味を込めています。

それは「自閉症者としての未来」と「僕自身の未来」です。

「自閉症者としての未来」という意味では、日常生活を過ごす中で、自閉症だからという理由で差別や偏見がなくなることを願っています。「僕自身の未来」という意味では、自分らしく生き続けることを目標にしています。この社会において自分の居場所を探すことは容易なことではありませんが、後悔のない人生を送ることができれば、未来は決して暗くはないと信じたいです。

和やかな雰囲気の中インタビューが進み、とても温かい気持ちになりました。東田さんから最後に、「お会いできて嬉しかったです」と言葉をいただいた時は、胸がいっぱいになりました。

同席されたお母様ともお話しさせていただき、コミュニケーションできるようにと文字盤を考え、これまで寄り添いながら関わり続けてきた姿に心打たれました。お母様もおっしゃっていましたが、発達障害、自閉症スペクトラムは注目されるようになってきましたが、重度の自閉症の大変さについては、まだまだ理解されていません。東田直樹さんの著書やこの映画を通じて、自閉症に対する理解がもっと広がることを願っています。

取材・文/川田 祐一

『僕が跳びはねる理由』
原作:東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』(エスコアール、角川文庫、角川つばさ文庫)
翻訳原作:『The Reason I Jump』(翻訳:デイヴィッド・ミッチェル、ケイコ・ヨシダ)
監督:ジェリー・ロスウェル
2020年/イギリス
配給:KADOKAWA
©2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
https://movies.kadokawa.co.jp/bokutobi/

 全国順次上映中!
 また、5/28(金)より6/24(木)までシネマ映画.comにて期間限定デジタル独占配信
https://cinema.eiga.com/

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

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自閉症スペクトラム障害(ASD)

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