レンタル障害者手帳持ち…とは一体?

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Photo by Aaron Sousa on Unsplash

昔、「レンタルなんもしない人」というのが話題になりました。人数合わせや場所取りなど、「何もせずそこにいるだけ」の依頼を受けるというものです。こうした「自分」を貸し出す変わったスタイルをとる人はごく少数ながら存在し、「レンタルなんもしない人」本人も類似のサービスを提供する個人から着想を得たとしています。

それのフォロワーというにはかなり年数が経った今、「レンタル障害者手帳持ち」を始めようとした人がいたようです。Twitterでそれを宣言したものの、批判が続出したのかツイート内容は一部訂正されており、実際に始めるかどうかは分かりません。

これについて作家の乙武洋匡さんはAbemaTVの番組内で「結論から言うとアリだと思う」と述べました。なぜならば、わざわざ付加価値を付けなければ障害者と関わろうとしない、インクルージョンの遅滞という現実があるからです。

レンタルとは

提唱者は「障害者手帳を持つ自分を貸し出す」としており、借りる人は一応「介助者」または「支援者」ということになります。これによって、障害者手帳によって無料化や割引のできるサービスを一緒に受けられるという触れ込みです。

これが「制度主旨の逸脱」「手帳の不正利用」にあたるのではないかと紛糾しました。人間の脳は「ずるい感じ」に対してとても敏感な器官となっており、今は合法でも法改正という形でメスが入るかもしれません。そうなると、通常の介助者が不利益を被りかねないわけで、「正直者が馬鹿を見る」懸念があります。

厚労省も見解を示しており、「障害者手帳は社会復帰や自立を支援するのが目的。介助者は、家族や友人や医療関係者など障害者と近しい人という前提がある。このような使い方は障害者手帳の趣旨に反している」「介助者の定義がない以上、一律の制限や禁止をかけるのは難しい。しかし、こういった事例が増えてくれば手帳のあり方について検討しないといけないし、警察が動いて何らかの罪に問われる可能性もあるだろう」と述べています。

初出ではなかった

実は似たようなケースで逮捕事例まであるそうです。身体障害のある運転代行業の男が、自分のETCカードで他人の車に障害者割引を適用させ、計600万円の料金支払いを免れたというケースがありました。その男は電子計算機使用詐欺の容疑で逮捕されています。

自分の車に自分のETCカードを使う分には合法です。しかしその男は、代行サービスを利用する客の車に自分のETCカードを差し込んで運転していました。酷いときは別の従業員にETCカードだけ貸すこともあったそうです。

他にも、身体障害者らに交付される「駐車禁止除外指定車標章」の不正利用が偽計業務妨害の容疑で逮捕に繋がったケースもあります。なんでも、逮捕された3人のうち1人だけが対象だったのを、年間10万円で貸し借りしていたそうです。

今回のレンタル障害者は、あくまで自分の介助者という立場を貸し出すだけで、実際に何かを不正利用している訳ではありません。その為、「今のところは」合法なのだそうです。

こうまでしないと会わないだろうに

これについてAbemaTVの番組「NewsBAR橋下」の中で、作家の乙武洋匡さんは「結論から言うとアリだと思う」と話しました。「確かに、倫理的に疑問となる部分もあるが、そこも含めて許容してもらいたい」と容認する姿勢の裏には、インクルージョンの遅滞という実態が見え隠れしています。

「障害者と健常者が別々の環境で学ぶ分離教育をしておいて、『社会に出たら仲良くやってね』では無理がある。障害者が友人などの出会いを求めていこうとしても、『お前らは迷惑をかけないで生きるべき』などとネットで書かれる中で、その見解自体に待ったをかけたい。健常者側は障害者との出会いをさほど求めていないので、ギャップを埋めるために『自分と一緒にいるとお得ですよ』と働きかけるのはアリではないか」

健常者だけの空間で育ってきた健常者は、敢えて障害者と関わろうともしませんし、隔離を望む者さえ存在します。こういった「温室育ち」の健常者とのギャップを埋めるには、目先の小さな利益をぶら下げてでも関わるメリットを作らないといけないというのです。そこまで現金な人がどれほど居るのかは分かりませんが、インクルージョンの遅滞が背景にあるのは確かでしょう。

そういえば障害者就労の分野においても、「障害者の潜在能力」が頻繁にアピールされていました。ASDは集中力が高く規則を守るだとか、ADHDは行動力があるアイデアマンだとか、そういう触れ込みです。健常者を雇う以上のメリットを無理矢理にでも引き出さないと就職に結びつかない切実な現実があります。

何にせよ、「レンタル障害者」がインクルージョンの遅滞によって生まれたのであれば、糾弾するばかりではなく反省することも必要だと思います。とはいえ、「不公平感」を叩いて脳内麻薬を分泌するだけで終わりというパターンに落ち着きそうですけれども。


参考サイト

炎上した「レンタル障害者」に乙武氏「健常者はさして障害者との出会いを…
https://news.yahoo.co.jp

障害者手帳持つ人の「貸出サービス」投稿が波紋 厚労省「制度の趣旨に反している…
https://news.livedoor.com

障害者割引悪用しETC不正使用9千回、600万円の支払い免れた70歳男を逮捕
https://www.yomiuri.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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