水と油、聴覚過敏と乳児
暮らしPhoto by Mindfield Biosystems on Unsplash
「赤ちゃんの泣き声には寛容であれ」という風潮は強く、耐えられない素振りを見せる人間は狭量だの我慢が足りないだの悪者扱いされます。出生率がガタ落ちした今では、貴重な乳飲み子を守るためにこの風潮はより強く共有されているように感じます。
ここで肩身の狭い思いをするのは、聴覚過敏を持つ人々です。どの音に敏感か、どの程度まで我慢できるのかは個人差がありますが、乳児との相性はお世辞にも良いとは言えません。ある人は「一般的なスーパーマーケットでも、私達にはパチンコ店のホールのようなもの」と例えていました。
まさに水と油の関係性です。聴覚過敏側には、イヤーカフやノイズキャンセリングイヤホンなどをお題目のように勧められることが多いですが、生憎あれらも万能ではありません。人によってはサイズが合わなかったり周りからの目が気になったりして使えないことがあります。勿論、赤ん坊相手に合理的配慮(調整)を望むことは出来ません。
これが親子関係にまで発展した時、特に聴覚過敏を持つ親が乳児を育てる時の困難は想像を絶するものがあります。赤ちゃんの泣き声と常に隣り合わせで、頻繁にアクションを返さねばならない立場は、聴覚過敏にとってあまりにも過酷な環境といえるでしょう。
「現代ビジネス」では、聴覚過敏の母親の事例を紹介しています。我が子が泣くたびに内臓をかき回されるような感覚に襲われるというその母親は、我が子の泣き声から逃げるようにひとり外出する時間が増大していきました。やがて熱中症で緊急入院するまでのネグレクトとなり、事の重大さを認識した母親は施設へ預けることを決断したそうです。幼児期になって泣く必要が無くなれば、もう一度育児が出来ると希望に縋っていました。
なお、聴覚過敏の原因は発達障害に限りません。うつ病や双極性障害、トラウマやPTSD、統合失調症などの精神疾患、高次脳機能障害などの脳疾患、コロナや事故の後遺症など、後天的な原因も山ほどあります。斜め読みやチェリーピッキングで頓珍漢な解釈をされたくないので、この辺りを付け加えて〆とします。
参考サイト
聴覚過敏とは|感覚過敏研究所
https://kabin.life
「感覚過敏」でまともに育児ができなくなった母親の慟哭
https://gendai.media