トラウマ治療が難しい様々な理由

パニック障害・不安障害
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私はちょうど20年前にトラウマとなる出来事に遭遇しました。説明しても理解されがたいでしょうし、とりあえず「“精神的な去勢”というべき仕打ちをクラスの女子から一方的に受けた」とだけ言及しておきます。あの時言われたことと恐ろしい形相は不定期的にフラッシュバックし、ここ数年は頻度も増えてきました。それでも前向きに生きねばならないので我慢している訳ですが。

10年以上お世話になっているお医者様にも数回話したことがあります。その時教わったのが、「トラウマ治療」というものが存在することと、現実にそれを完遂するのは難しいことです。ゆえに、実際にトラウマ治療は受けておりません。ただ、こうも言われました。「周りにとって大したことなさそうでも、自分にとって深い傷として今も邪魔し続けているなら、それはトラウマと呼んでいい」

トラウマ治療の難しさ

トラウマ治療が現実に存在しながら、それを継続し寛解に至るのが難しい理由。それを主治医に聞くと、「保険適用外」「取り扱う病院の少なさ」「治療の厳しさ」が挙げられました。

保険がきかない
まず単純な理由として、保険が適用されず高額になることが挙げられます。高額な自費で続けるというだけでもその困難さが分かるでしょう。時々、高い医療なら確実だろうという誤解が見受けられますが、治療の自費負担額は保険が適用されるかどうかによる部分が大きく、決して高ければいいというものではない訳です

扱う病院が少ない
トラウマ治療を扱える病院は非常に少なく、地方になると一軒も存在しないのはザラです。主治医も自身のクリニックでは扱っていません。(あくまで主治医にとっての)近所では唯一扱っていた病院があったようですが、現在はそれもなくエリア全体でトラウマ治療が受けられなくなったそうです。

治療内容がキツイ
療法自体は様々ですが、どれもトラウマの原因を思い返しながら進める「曝露療法」としての面を持ちます。多かれ少なかれトラウマの原因に触れる必要があり、主治医の体感では受けた人の半数は途中で音を上げて中止してしまうと言われました。ほとんどトラウマに触れない療法もあるにはあるのですが、かなり時間をかけて進めるため、高い治療費という別の問題が立ちはだかるでしょう。

最後は自分次第
これは主治医に言われたのではなく大学時代に習ったことなのですが、心の治療というものは最終的に自分の力で寛解を掴み取るものという特性があります。難しい学問を修めた優秀な医師やカウンセラーであっても、自ら病巣を直接取り除くようなことは出来ません。患者(クライエント)自身が答えを掴む、いわば“自助努力”のようなものが最後の決め手になる、その構造だけは変えようがないのです。高い費用ときつい治療の果てにトラウマの克服へ指をひっかける、自分にその自信も無ければビジョンも浮かばないのが、治療を最初から諦める理由となりました。

こんなアプローチがある

ここから一次ソースは変わりますが、実際にトラウマ治療の場で使われるアプローチにはこのようなものがあります。多かれ少なかれ原因となる記憶に自ら触れる「曝露」の特性を持つ過酷なものです。病院によってはあまりに重い症状(著しい解離や自傷行為、希死念慮など)の患者には他院をあたってもらいたいというスタンスをとることもあります。

認知処理療法
心の仕組みを理解しトラウマとなる体験への認知を再構築するのが目標です。退役軍人や性的暴行の被害者といった重いPTSD患者への治療法としても由緒正しい方法です。12回のセッションと回数も決まっているほか、トラウマの原因を再整理するなど、治療というより教習のような厳しい印象を受けます。集団でグループ学習のようにやることもあります。

持続エクスポージャー療法
認知行動療法の一種で、トラウマへの“慣れ”を目指します。安全な環境でトラウマの原因となる記憶を思い出させ、それを繰り返して慣れていくことで克服へ至るというものです。再整理のプロセスはないにしろ、自らトラウマを掘り起こすのはやはり厳しいでしょう。これに精通した専門家が少ないのもネックです。

眼球運動脱感作療法
眼球を動かすことが脳を刺激することから編み出された比較的新しい療法です。眼球を動かすことで脳の神経回路を刺激し、トラウマの記憶を再処理することを目指します。曝露はあれど程々で、トラウマの原因が明確なら効果的とされています。ただ、国内にはあまり浸透しておらず、扱える専門家もごく限られているうえ、場合によっては数十回にも及ぶことがあるなど費用面での負担はより強いです。

ソマティックエクスペリエンス
身体感覚とイメージに重きを置いた方法で、トラウマを自律神経系の調整不全と捉えています。本当はしたかったのに出来なかったことなどをイメージの中で再現し、トラウマが閉じ込めていたエネルギーを開放することを目指します。トラウマの原因への曝露は最小限ですが、そのぶん治療には時間がかかり、自費負担が膨れ上がりやすい懸念があります。

脳の「ゴミ屋敷問題」

これは誰が言い出したものでもない極めて自己解釈的な例えになるのですが、トラウマ治療というものは言うなれば「ゴミ屋敷問題」ではないかと思います。記憶という住宅街の中に君臨して異臭を撒き散らす、トラウマというゴミ屋敷をどうするかという問題です。

ゴミ屋敷だからといって無人機やドローンで爆撃などしては周辺の住宅にも被害が出ます。ゴミ屋敷問題を解決するには、どの方法をとるにしても臭い家に出向いて家主に直接交渉するプロセスから逃れることは出来ません。トラウマ治療も同様で、原因に触れないまま事を進めるのは不可能です。

トラウマの原因となる出来事や過去は変えようがありません。ゆえに、トラウマの記憶を無害なものへ再構築するのが治療の軸であることが多いです。ゴミ屋敷問題にしても、強硬手段が取れないのであればゴミ屋敷を綺麗に清掃して無害な邸宅に変えるほかないでしょう。家主を説得するなり何なりして、なんとか清掃業者に入ってもらいます。

あと、一番やってはいけないのは自分のトラウマについて素人に打ち明けることです。素人にはどうしようもないというのもありますが、「お前が弱いから悪い」「世の中にはもっと辛い人がいる」などと返されて傷口に塩を塗り込まれるオチも十分考えられるからです。

参考サイト(※いずれも筆者の通院先とは関係ありません)

トラウマ治療|東京はなクリニック
https://tokyo-hanaclinic.com

PTSDの治療方法について詳しく解説|シンプレ訪問看護ステーション
https://shimpre-houkan.com

眼球運動脱感作療法(EMDR)のトラウマ治療への効果とは?
https://cocoromi-mental.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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