「ヘルプマークを叩く前に」——当事者支援の現場から見えた、本当の問題
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FRIDAYデジタルが報じた「ファッション感覚でヘルプマークを付ける若者たち」の記事が波紋を広げている。記事の中で、新宿で遊ぶ10代女性のAさんは「友達もヘルプマークを付けていて、困ったら助け合います。今では仲のいい友達同士で識別票みたいに付けています」と語り、診断のない別の10代女性Bさんは「これを付けていると、いろいろな人が優しくしてくれます。お守りみたいな感じで使っているので、ないと困ります」と話した。
Xでは「不正利用だ」「本当に必要な人が困る」という批判が瞬く間に広がった。しかし、障害福祉の現場に長く立ち、自身も発達障害の当事者である当社代表は、この議論に真っ向から異を唱えた。「叩いている側こそ、構造を見ていない。本当に問うべきは『ファッション利用者の存在』ではなく、『助けを求めにくい社会』の方だ」と指摘する。
データが示す、広まったのに助けてもらえなくなった現実
感覚論で議論してもキリがない。そう前置きした上で代表が示したのは、株式会社ゼネラルパートナーズ(障がい者総合研究所)が2017年と2021年に障害当事者を対象に実施した調査データだ。
ヘルプマークの認知度は、2017年の47%から2021年には80%へと33ポイント上昇した。JIS規格への登録やメディア露出により、確実に社会へ浸透した数字だ。しかしその一方で、「役立っている」と感じる当事者の割合は45%から25%へと20ポイント急落。さらに「嫌がらせの噂を聞いたから利用しない」という声も8%から14%へとほぼ倍増している。
認知度が上がれば配慮してくれる人が増え、実用度も上がるはず——その常識が、完全に裏切られている。代表はこう問いかける。「これは本当に、ファッション利用者だけのせいだろうか。社会全体の『助けを求める人』への目線が変わってきている。その方が、よっぽど深刻な変化だ」。
本当に必要な人ほど、叩かれる側になっている
発達障害と聴覚過敏を持つかねやんさんは、ヘルプマークを付けてお墓参りに行ったところ、親戚から睨まれ、叔母から「障害があるってこんな所でも見せたいの?」と言われた経験をXに投稿した。「そんなつもりはありません。知っていてほしいだけなんです」——その言葉が、今のヘルプマークを取り巻くリアルを象徴している。
杖を使う若い女性が優先席で「仮病でしょ?若いんだから必要なわけがない」と言われたケース、ヘルプマークを付けて電車に乗ったらわざとぶつかられ肘打ちされたケース。こうした声はネット上に数多く存在する。「ヘルプマークを付けているのを見て、自分より弱い存在だと思って攻撃してくる人がいる」という当事者の言葉は重い。
代表はこう断言する。「ファッション利用者を叩く議論は、『ヘルプマーク=怪しい』という空気を強化する。その疑いの目に一番晒されるのは、本当に必要な当事者だ」。
制度を厳格化すれば、本当に困っている人が先に消える
ヘルプマークを考案した東京都福祉局は、FRIDAYの取材に「配慮が必要であれば、どなたが着用しても問題ありません。医師の診断がなければ着用できないといった制限はありません」と答えている。これを「設計上の欠陥」と見る向きもあるが、代表は「欠陥ではなく、設計思想だ」と言い切る。
仮にヘルプマークの取得に医師の診断書を義務化したら何が起きるか。突発的なパニック発作で外出が怖い人は病院に行く力がない。不安障害で初対面の医師に症状を説明できない人は診断書を出してもらえない。「自分は障害というほどじゃないかも」と思い込んでいる人は、医師の前で症状を軽く言ってしまう。先に消えるのは、声を上げにくい人からだ。
「不正受給を防ぐために審査を厳しくしよう」——この議論は福祉制度全般で繰り返され、そのたびに必要な人ほど制度から漏れていく。ファッション利用者を排除しようとすると、本当に必要な人が真っ先に被害を受ける。これが代表が「叩く前に立ち止まりたい」と言う最大の理由だ。
グレー利用の若者を叩いて、何が解決するのか
AさんもBさんも、単なる「不正利用者」として片付けていいのだろうか。Aさんは「学校には友達がいませんし、家族も仲がいいわけではなく、自分の居場所がないのでどこで遊んでいても疎外感があります」と語っている。Bさんの「私が頑張るんじゃなくて、甘えてもいいんだ」という言葉の背景には、自己肯定感の低さや孤独がある。
根っこにあるのは、居場所のなさ、孤立、家族関係の問題だ。ヘルプマークを取り上げたところで、彼女たちの課題は何も解決しない。むしろ彼女たちが「助けて」と言える場所を社会が用意できていないことの結果として、ヘルプマークに頼っている。グレー利用をしている若者を叩くことで、居場所のなさを抱えた若者がさらに孤立する——これは誰の得にもならない議論だ。
共通の敵は、ファッション利用者ではない
Xに寄せられた反応の中にも「意味さえ全く知らない人が多い。公共交通機関や商業施設の職員でさえ知らない人がいることにびっくりした」という当事者の声があった。「マークの意味を知っていても、どう声をかけていいかわからない」という配慮する側の戸惑いも、調査の自由回答に記されている。
「ヘルプマーク=なんかある人」という認識は広まった。しかし「じゃあ何をすればいいか」は、社会全体でまだ言語化できていない。その結果、配慮できない人と、配慮されない当事者と、グレーゾーンで頼らざるを得ない人が、それぞれにモヤモヤを抱えて叩き合いになっている。
代表はこう結ぶ。「共通の敵は、ファッション利用者ではない。『助けを求めることへの偏見』と、『助ける作法が育っていないこと』——この2つだ。診断書の有無で人を分けない。これだけで、救われる人がいる。『助けて』と言える社会を、現場から作り続けたい」。
ヘルプマーク論争が問うているのは、特定の若者のモラルではなく、この社会が「助けを求める人」をどう受け止めるか、その根本的な姿勢そのものだ。
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