不正、でも人気だった──障害者就労をめぐる報道と、当事者として思うこと〜発達障害のASDとADHDを併発しています!<vol.37>
暮らし 発達障害
出典:https://girlydrop.com/flower/360
発達障害のASDとADHDを併発しています!vol.37 <毎月1日連載>
障害者雇用の「不正」報道を、当事者として見ています
このところ、障害者雇用をめぐる「不正」の報道をよく目にします。就労継続支援A型(障害のある人が雇用契約を結んで働く福祉サービス)の事業所が、加算金を不正に受け取っていたとされる問題。企業向けの「障害者雇用代行ビジネス」への批判。ニュースを見て、私が最初に浮かんだのは、不正の金額ではありませんでした。
「そこに通っていた人たちは、今どうしているんだろう」
そのことばかりが、頭から離れませんでした。私自身、発達障害や精神疾患を抱える当事者で、今はピアサポーター(同じ立場の仲間による支え合いをする人)として働いています。だからこそ、報道のいちばん奥にいる人たちのことが、どうしても気になってしまうのです。今日は、この問題を当事者としてどう見ているか、書いてみたいと思います。
報道を見て、私がいちばん心配したこと
大阪の福祉関連会社の事業所が指定を取り消され、閉鎖になったという報道がありました。不正とされる加算金の規模は大きく、世間の注目も集まりました。でも私がいちばん心配したのは、その事業所で毎日働いていた人たちのことです。報道によると、閉鎖によって多くの利用者が、一斉に働く場所を失うことになりました。行政も、相談窓口を設けるなどの対応に動いたと聞いています。私たちも相談窓口をつくり、現在では利用されていた方々の支援をさせていただいています。
突然、通う場所がなくなる。信頼していた支援者と離れる。また一から、新しい場所で関係を築き直さなければならない。これがどれだけ大変なことか、当事者である私には、痛いほど想像できます。傷ついたのは、組織でも制度でもありません。そこに通っていた、一人ひとりの当事者です。不正は、もちろん許されることではないと思います。でも、不正を糾弾する声の大きさのわりに、置き去りにされた当事者の不安に向けられる視線は、とても少ないように感じました。
なぜ、そこに人が集まっていたのか
ここで、ひとつ立ち止まって考えたいことがあります。なぜ、そうした事業所に、たくさんの人が集まっていたのか、ということです。就労継続支援A型は、最低賃金以上の給料が保障される働き方です。体調に波があっても、自分のペースと仕事の折り合いをつけやすい。大切な選択肢のひとつです。批判されている農園型の「雇用代行」と呼ばれる働き方も、一般の福祉施設より賃金が高い場合があるなど、当事者にとってのメリットが現にありました。だから、人が集まっていたのです。人気があったのには、理由があったのです。
私はずっと、障害があっても働きたいと思ってきました。働くいちばんの理由は、お金ではなく、精神的に安定するからです。働いていると、落ち込んだり考え込んだりする時間が短くてすみます。人と接することで、ひとりなら抱え込んでしまうことが、少し軽くなります。収入だけではないのです。「行く場所がある」「自分が必要とされている」と感じられること。それが当事者にとって、どれほど大きな支えになるか。そこを無視して「不正だから、全部だめだった」と切り捨ててしまうと、当事者が本当に必要としていたものが、見えなくなってしまう気がするのです。
「数字」が先に立つと、置き去りになるもの
需要が本物だったからこそ、私が心配していることがあります。それは、「数字」が先に立ってしまう構造です。A型事業所には、就労移行支援体制加算(一般就労への移行と定着の実績に応じて事業所に支払われる報酬)という仕組みがあります。実績の数字が、事業所全体の収入を大きく左右する。そういう仕組みの中では、どうしても「数字をつくること」に意識が向かいやすくなる面があるのだと思います。国も、この点を問題と見て、2024年4月から、同じ利用者について一定期間は加算を算定できないようにするなど、ルールの見直しを進めてきました。企業向けの「雇用代行」と批判される働き方も、根っこは似ているように感じます。民間企業には、障害者の法定雇用率(雇用が義務づけられた割合)があります。今は2.5%、2026年7月からは2.7%に引き上げられる予定です。その数字を満たすこと自体が目的になってしまうと、「働く中身」よりも「達成した割合」が優先されかねません。
私がピアサポーターとして、いつも大切にしていることがあります。それは、目の前の人が「自分で納得して、自分のペースで働けているか」ということです。これは、報告書に並ぶ数字とは、まったく別のものです。数字が先に立つと、当事者本人が、いつのまにか手段のようにされてしまう。そこに、危うさがあるのだと思います。これは誰かを責めたくて書いているのではありません。ただ、数字に偏ると、いちばん大切な人の姿が見えなくなる。そのことを、当事者として静かに伝えておきたいのです。
自分に合う働く場所を、焦らず探していい
では、当事者として、どんなふうに働く場所と向き合えばいいのでしょうか。正解があるわけではありません。ただ、私が自分の経験から大切だと思っている点を、いくつか書いてみます。
❶ 自分の体調や特性に合った働き方が、無理なくできているか
❷ これからのことについて、自分の希望が尊重されていると感じられるか
❸ 不安なとき、相談できる人がいるか
どれも、「良い事業所の見分け方」ではありません。迷ったときに、考えてもらえたらと思います。
働き方は、ひとつの形に収まらなくていいのだと思います。去年、私は1ヶ月の休職をしました。無理を重ねて、限界が来ていたのです。休んでみて分かったのは、働き続けることだけが、すべてではないということでした。無理をして消耗し続けるより、自分に合う場所を、焦らず気長に探していい。そう思えるようになりました。ひとりで抱え込まなくて大丈夫です。ピアサポートのように、同じ立場で横に座って話を聞いてくれる人も、きっといます。
報道を見て、不安になった当事者の方もいらっしゃると思います。今の働く場所に、なんとなく違和感を抱えている方もいるかもしれません。そんな方が、ひとりでも「自分だけじゃない」と思っていただけたら、とても嬉しいです。働く場所のことで悩んだときは、ひとりで決めようとしなくて大丈夫です。お住まいの地域の相談窓口、ハローワークの障害者向けの窓口など、頼れる場所があります。障害者ドットコムサイトでも相談を受け付けています。私も当事者として書き続けていきたいと思っています。自分のペースで。
https://www.youtube.com/@yuichi_naomi_hattatsu
オンラインサロン「障害者ドットコム コミュニティ」に参加しませんか?
月々990円(障害のある方は550円)の支援で、障害者ドットコムをサポートしませんか。
詳細はこちら
https://community.camp-fire.jp/projects/view/544022
注意欠陥多動性障害(ADHD) 自閉症スペクトラム障害(ASD)


