映画『お終活3 幸春! 人生メモリーズ』勝俣州和・香月監督が大阪で舞台挨拶 ──三田佳子の“消えた女優オーラ”と認知症ケアを語る
エンタメ ニュース5月30日、大阪・あべのアポロシネマで、映画『お終活3 幸春! 人生メモリーズ』(香月秀之監督、5月29日公開)の公開記念舞台挨拶が行われました。登壇したのは、タクシー運転手・佐伯役を演じた勝俣州和さんと香月監督。終活、介護、そして認知症という、誰もがいつか向き合うテーマを笑いと涙で包む人気シリーズの第3弾です。会場は地元・大阪の観客でほぼ満席となり、終始あたたかい笑いに包まれました。
「どこにいるか分からない」── 役に溶けた大女優、三田佳子

© 2026「お終活3」製作委員会
本作で勝俣さんが演じるのは、認知症を患う豊子(三田佳子)を乗せるタクシー運転手・佐伯。豊子との車内のシーンについて、勝俣さんは「2人きりのシーンは、ほぼアドリブなんです」と打ち明けました。
前作では橋爪功さんと二人きりのシーンを演じ、今作では三田さんと。「他の俳優さんだとビビっちゃう場面でも、勝俣さんはビビらない」と監督が太鼓判を押す“大御所キラー”ですが、勝俣さん自身は緊張よりも驚きが勝ったといいます。
「三田さんは、現場に入った瞬間にもうあの役なんです。三田佳子はいないんです。あの役の人がいるだけ。だから、どこにいるか分からない」
タクシーの運転席から顔を出すと、すでに役に入りきった三田さんがそこにいた。勝俣さんは「リアルすぎて、お化けだと思った」と表現し、会場を沸かせました。撮影の合間も役のまま佇んでいたため、共演の高畑淳子さんが挨拶に行こうとしても声をかけられなかったというエピソードも飛び出します。
その徹底ぶりの背景には、脚本の打ち合わせでの一言があったと監督は明かします。「三田さんが『私がこの役をやるということは、本気でやりますよ』とおっしゃった。東映で『極道の妻たち』の主役を張った方ですから」。芸能生活65周年を迎えた大女優の覚悟が、認知症の母・豊子という難役に、ドキュメンタリーのようなリアリティを与えていました。
なお勝俣さんは「普段接している大御所は和田アキ子さんと泉ピン子さんですから」と笑いを誘い、こちらの“大御所”との豪快なエピソードも披露して場内を沸かせていました。
さだまさしが3回観て書き下ろした主題歌「神さまの言うとおり」
本作の主題歌は、さだまさしさんが書き下ろした「神さまの言うとおり」。実現までには紆余曲折があったと監督が語ります。
当初は別の既存曲を主題歌に当て込む構想だったものの、監督とプロデューサーからの熱いラブコールを受けたさださんが、映画を3回も観たうえで、本作のために新曲を書き下ろしました。「どの曲がこの映画にふさわしいか、神様に聞いていた」という制作秘話から、タイトルが「神さまの言うとおり」に決まったといいます。
勝俣さんはこの曲を「おばあちゃんが歌ってくれる子守唄みたいにして聴いていました」と表現。「人が見ていなくてもいいことをすれば、神様が助けてくれる──祖母がよく言っていた言葉を思い出した」と、歌詞に込められた素朴な死生観に深く共感していました。お天道様が見ている、という日本人になじみ深い感覚が、終活という重いテーマをやわらかく包み込みます。
「認知症は治る、心は忘れていない」── 監督が語ったケアの実感

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舞台挨拶の終盤、監督は認知症について踏み込んだ言葉を残しました。
「認知症の人にも心があります。その心を開いてあげれば、治る。やり方はいろいろあるでしょうけど、音楽が一番いい。楽しい時に聴いた音楽です。あとはペット、犬とかね。そして料理をさせること」
ここで当メディアとして、言葉を丁寧に補足したいと思います。医学的には、認知症そのものが「治る」というのは正確な表現ではありません。多くの認知症は進行性で、現時点で根治させる方法は確立されていないからです。
ただ、監督の言葉が指し示しているものには、確かな裏付けがあります。認知症には、もの忘れなどの中核症状に加えて、不安・興奮・抑うつ・徘徊といった行動・心理症状(BPSD)が伴います。このBPSDには、薬物療法より非薬物療法を優先的に行うことが原則とされています。
監督が挙げた音楽療法は、妄想や不穏、アパシー(無気力)などのBPSD軽減に有効と報告されている非薬物療法のひとつです。本人が昔親しんだ曲を流すことは、回想法としての効果も期待できます。劇中で千賀子たちのコーラスグループが「秋桜」「無縁坂」を歌い上げる場面は、まさにこの実践と重なります。
回想法についても、認知機能への直接的な効果よりも、気分や意欲の改善において有効性が示されているとされ、過去の記憶を呼び起こすことで本人と家族のコミュニケーションを取り戻すきっかけになります。料理という「役割」を担ってもらうこと、犬とのふれあい(ドッグセラピー)も、同じく本人の感情や自発性に働きかけるアプローチです。
劇中、認知症が進む母を受け入れられず強い言葉をぶつけてしまう息子・博に、千賀子は「心は忘れていない」と語りかけます。記憶が薄れても、嬉しさや安心といった感情は残る。監督の「心を開けば」という言葉は、根治ではなく、その人らしさをどう支えるかという、ケアの本質を突いていたように思います。
“お終活”は「人生会議」── 笑って学ぶ終活と、次回作の構想
香月監督は、シリーズが伝えたいメッセージをこう語りました。
「人間は絶対に死ぬ。死なない人はいない。死ぬと分かっているのに、その死を認めたくない。でも死ぬんです。だったら、死ぬまでをどうやって幸せに生きていくかを考えた方がいい」
終活とは死に支度ではなく、限られた命をどう使うかを考えること。墓や葬儀をどうするか、残された時間で何をしたいか。自分で決めておくことが、人生を前向きにする──そんな作品の理念が語られました。
MCとの間では「大阪の人は普段から人生会議をしているのでは」というやり取りも。これは医療・介護の現場で「人生会議(ACP=アドバンス・ケア・プランニング)」と呼ばれる考え方に通じます。もしものときに望む医療やケアについて、本人が家族や医療・ケアチームと前もって話し合っておく取り組みで、厚生労働省も普及を進めています。重いテーマを「笑いながら家族で話せるもの」に変えていく点に、このシリーズの福祉的な価値があります。
監督が明かした次回作の構想は「おひとりさまの終活」。これまで夫婦を軸に描いてきたシリーズが、結婚せず一人で生きる人、途中で連れ合いを亡くした人の終活へと視野を広げます。単身世帯が増え続ける日本社会において、切実なテーマです。勝俣さんは「スピンオフでタクシードライバーを主役に」と意欲を見せ、笑いを誘いました。

© 2026「お終活3」製作委員会
笑って泣いて、気づけば介護や看取り、自己決定について考えている。『お終活3 幸春! 人生メモリーズ』は、エンターテインメントの形を借りた、やさしい人生の教科書です。隣にいる大切な人と、これからの生き方を話すきっかけに、劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
映画『お終活3 幸春! 人生メモリーズ』公式サイト
https://oshu-katsu.com/3/


