映画の中の障害者(第19回)『Return to My Blue』
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Photo by Geoffrey Moffett on Unsplash
7月24日から全国で公開されているドキュメンタリー映画『Return to My Blue』を紹介します。本作は、人工呼吸器を装着する10歳の少年・壮眞(そうま)くんはじめ障害者たちが、沖縄の無人島への旅に挑戦する姿を追ったドキュメンタリーです。
春休み、小学校の連絡帳に『無人島へ冒険に行ってきました』って書いたら、格好良くない?そんな一言から始まった、医療的ケアが必要な少年・壮眞の“沖縄・無人島への挑戦”。
人工呼吸器をつけ、日々の生活に電気や医療が欠かせない壮眞にとって、電気のない無人島への旅は、文字通り命がけの冒険でした。医師からは「何かあった時に『大丈夫』だとは言えない」と、ツアー参加は難しいと言われてしまいます。
それでも諦めなかった、壮眞の「沖縄に行きたい」というまっすぐな想いが、最終的に医師の心を動かし、無人島で何かあっても大丈夫なように、医師自身がツアーに同行し見守るという、驚きの決断をしてくれたことにより、壮眞の無人島への旅が実現することになりました。
監督・プロデューサーは、NHK連続テレビ小説『あんぱん』『エール』や大河ドラマ『どうする家康』などを手がけてきた野口雄大監督。本作が初のドキュメンタリー作品となります。
プロフェッショナルな編集と戦略
鑑賞前にまず驚いたのは、上映時間が39分しかないことでした。映画館で上映するドキュメンタリー映画としては最初は「短すぎるのではないか」と感じました。
撮影素材はかなりあったはずです。無人島へ向かうまでの準備や、参加者それぞれの背景、家族の思いなどを掘り下げれば、長編作品にすることも十分できたでしょう。
それでも本作は、壮眞くんと母親、そして支える医師を軸に据えることで、物語を最後までぶらすことなく描いています。人工呼吸器をはじめ、在宅医療の環境をほぼそのまま無人島へ持ち込まなければならないという前代未聞の挑戦。その一点に観客の視線を集中させる構成は、とても見事でした。
一方で、無人島に集まった他の参加者にも、それぞれの人生や挑戦があります。そのことは集合写真や何気ないカットから十分に伝わってきます。説明しすぎず、想像の余地を残す演出は、長年テレビドラマを演出してきた野口監督だからこその、「何を描き、何をあえて描かないか」という取捨選択が生きているように感じます。
劇場以外の学校の授業や福祉施設などでの上映にもぴったりで(長時間鑑賞が難しい方たちのことも考えてるはず)、これから長きに渡って全国各地で鑑賞されていくはずです。
スポーツ映画のような爽快さ
この映画で強く印象に残るのは、登場人物たちの明るさです。
もちろん、壮眞くんの家族をはじめツアー参加者の皆さんは、これまで数え切れないほどの不安や葛藤を経験してきたはずです。それでもそこはあえて描かず、観客の想像力に委ねています。画面は沖縄の海や空の青さと相まって陽のエネルギーに満ちています。
無人島に上陸後、夜のバーベキューで参加者が想いを語る場面があります。
初めは壮眞くんの無人島行きに反対した後、娘と一緒に旅に同行した山本医師の「人のために新しいチャレンジをする時はプラスの力になる」という言葉には、本作のテーマが凝縮されているように思いました。
障害を扱った作品は、ともすれば「かわいそう」「大変だった」という感情だけが残ることがあります。しかし、この映画は登場人物に同情するよりは、「頑張れ」と応援したくなる。そして挑戦が成功すると、自分のことのようにうれしくなる。そんなスポーツ映画のような爽快さがあります。
障害者の挑戦は、映画になる
私が映画上映などでお世話になった長野県上田市在住の井出今日我さんも、筋ジストロフィーがありながらアルプス登山(標高4164メートルのブライトホルン)に挑戦するなど、新しいことへ挑み続けている方です。
もちろん井出さんだけではありません。障害があっても、旅をしたり、スポーツに挑戦したり、仕事や創作活動に打ち込んだり、自分らしい一歩を踏み出している人は全国にたくさんいます。
そうした一つひとつの挑戦には、それぞれ物語があります。だからこそ、本作のような痛快な作品がもっと増えて欲しいと願います。
もちろん、「障害者は何かにチャレンジしなければならないのか⁈」と反発もあるでしょう。もちろん「ありのまま」で全然良いのですが、健常者には当たり前のことも幸か不幸か障壁があるわけです(だから「障害者」となる)。また、映画のシナリオ講座などでも学ぶ物語の基本構成において重要なのは、「主人公の前に立ち塞がる障壁と、それをどう乗り越えるか」です(例外もありますが、エンタメ作品のほとんどはこの構成)。
本作も「重度障害者」が無人島に行くのが肝なのです。挑戦する人には、引きつける力があり映画になる。そこは遠慮なく意識して良いと思います。
『Return to My Blue』は、挑戦することの楽しさとそこに広がる可能性を鮮やかに伝えてくれる夏にぴったりの一本です。
参考サイト
『リターン・トゥ・マイ・ブルー』公式ページ
https://return-to-my-blue.studio.site
井出今日我さんインスタグラム
https://www.instagram.com/kyonrona/


