10年ぶりの岩手、今回は新幹線で〜発達障害のASDとADHDを併発しています!<vol.40>
暮らし 発達障害
撮影:川田 直美
発達障害のASDとADHDを併発しています!vol.40 <毎月1日連載>
私には、行けなくなった場所があります。 パニック障害で電車や人混みが怖くなってから、旅行に行きたい気持ちはあっても、遠くへは行けなくなりました。 パニック障害があると、旅行そのものを諦めてしまう方は多いと思います。 旅行が大好きだったので、私にはそれが本当につらいことでした。
病気に限らず、「いつか」と言ったまま、何年も先延ばしにしている場所をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。 私にとって岩手は、そういう場所のひとつでした。
30年前の夏、PTSDとパニック障害を発症した年に、父と新幹線で岩手へ行きました。 10年前の夏は、夫の運転する車で行きました。 そして今年の夏、10年ぶりに夫と新幹線で行くことができました。
新大阪から東京まで新幹線に乗り、東京で東北新幹線に乗り換えて新花巻駅で降りました。 6時間近くずっと新幹線の中にいたことになります。
30年前は、精神科で処方された薬を飲んで、なんとか新幹線に乗ることができました。 新大阪から花巻まで行けたときは本当に嬉しくて、行ってよかったと思ったのを覚えています。 でもその後、長い間、電車に乗れない日々が続きました。よく利用していたJR福知山線の事故のショックで、電車がほとんど乗れなくなってしまいました。 10年前の岩手も、夫の車でなければ行けませんでした。
ここ数年で、少しずつ新幹線に乗れるようになりました。 はじめは東京への日帰り出張からです。 今では東京や金沢へも、すぐに新幹線で出かけられるようになりました。 いきなり遠くへ行くのではなく、少しずつ慣らしていくのが本当はいいと言われています。
新幹線で遠くへ行くとき、私が決めていることが三つあります。
❶ 席は、できるだけ、いちばん前かいちばん後ろを取ること。前や後ろに人がいなくて、ゆったりしています。 ❷ 隣に座ってくれる夫がいること。見回りに来てくれる乗務員さんや警備員さんの存在も、大きな安心になります。 ❸ 頓服の薬と水を手元に置くこと。その日の体調や気持ちは、Xに日記のように書いておきます。あとから振り返ると、次の旅の準備になるからです。
どれも、特別なことではありません。 でも、こうした小さな工夫を重ねていくうちに、行けなかった場所が、また行ける場所に変わっていきました。
それから、2025年4月からは、JRでも精神障害者保健福祉手帳による運賃の割引が始まりました。 花巻市の宮沢賢治記念館や童話村の「賢治の学校」も、手帳を見せると本人と付き添いの方1名の入館料が免除されます。 10年前の私は、まだ手帳を持っていませんでした。 今回、JRの割引も記念館の免除も、はじめて使いました。 条件は、お住まいの自治体やJRの窓口で確認してみてください。
今年は、宮沢賢治の生誕130年です。 私が岩手を好きになったのは、子どもの頃、父が寝る前に読んでくれた本の中に、賢治の童話があったからです。父が登場人物全ての声色を変えて、「セロ弾きのゴーシュ」を読んでくれました。当時バイオリンを習っていたけど、上手ではない自分とゴーシュを重ねていました。家に訪ねてくる動物たちと触れ合っていく中で、成長していくゴーシュに感動しました。それから、「銀河鉄道の夜」の映画に夢中になり、どんどん宮沢賢治と舞台の岩手に惹かれていきました。主人公が、自分と重なるところがあり、賢治にも親近感を持ちました。本を開いた時に、文字がキラキラ光ってまるで芸術作品に見えました。
8月23日、花巻の宮沢賢治童話村で開かれた「イーハトーブフェスティバル2026」に行きました。 賢治の作品に想いを寄せるアーティストが集まる夏の祭典で、入場は無料です。 安藤裕子さん、Salyuさん、Chimaさん(ikire)とイーハトーブ楽団による「ポラーノ・コンサート」を観ました。 そこに、イーハトーヴ子ども合唱隊が加わりました。
夕方に始まって、演奏のあいだに、だんだん日が暮れていきます。 童話村の森に、子どもたちの歌声が重なっていきました。 いちばん心に残ったのは、安藤裕子さんが賢治の詩を朗読してくださった場面と、大好きな曲「海原の月」です。 暮れていく森の中で聞く賢治の言葉と、歌声は本当に幻想的で、神がかっていました。
日が落ちると、童話村の森のライトアップが始まります。 水辺の木道に沿って、色とりどりの光のオブジェが浮かび上がります。 10年前、夫とこの光を観ました。 あのときは車でしか来られなかった私が、今年は新幹線で来て、同じ光の中にまた二人で立っています。 それが本当に嬉しかったです。
そのあとの映画『銀河鉄道の夜』の上映は、少しだけ観ました。 旅館の夕食に間に合う時間までいました。最後まで観たかったけど、続きはまた次に来る理由にとっておこうと思います。
ライトアップは、10月31日までの土日祝に開かれています。 気になっている方は、まだ今年のうちに行けます。
遠野は、昔話や座敷童子、カッパの伝説で知られる町です。 30年前には、父と古い茅葺きの宿に泊まった町でもあります。 伝承園には、千体ものオシラサマが並ぶお堂があります。 ここで、ひっつみ(小麦粉の生地を手でちぎって煮込む、岩手の郷土料理)をいただきました。 カッパ淵は、常堅寺というお寺の裏を流れる小さな川です。 木々の緑が深くて、今にもカッパが出てきそうでした。 小さな祠の前には、きゅうりを持ったカッパの像が二体、並んでいます。 道の駅にも寄りました。 どこまでも続く広い田園風景にも、癒されました。
小岩井農場では、ソフトクリームと牛乳、飲むヨーグルトをいただきました。 ミルクが大好きな私には、これも岩手へ来る楽しみのひとつです。 30年前にも10年前にも見たD51(蒸気機関車)が、今も同じところにありました。 岩手山と広い草地も、あの頃と同じ場所に、同じ顔をしてあります。 30年前は、D51は寝台列車のようなSLホテルとして宿泊できました。父と宿泊して、白銀の景色の中、ソリ遊びをしたことが懐かしくなりました。また、新幹線でここまで来られるようになったことが嬉しかったです。
賢治記念館の入口では、賢治の童話に出てくる猫たちが、机に向かって座っています。 そばにある山猫軒は、父とも夫とも入ったお店です。 ここでも、ひっつみを食べました。 同じ場所に同じお店があることが、こんなに心強いとは思いませんでした。
宿は、花巻温泉郷のいちばん奥にある新鉛温泉の愛隣館に、3泊しました。 同じ宿に3泊して、出かけては毎日そこへ帰ってくる旅です。 窓いっぱいに緑の山が見える和室は最高に癒されました。あゆの塩焼きや美味しいお米の夕食も嬉しかったです。 山の中は8月でも涼しく、虫がたくさんいました。 温泉は、まだ少し怖くて今回は入れませんでした。 次に来るときこそ、挑戦してみたいです。
岩手はどこへ行っても自然が豊かで、そこにいるだけで体も心も癒されていくのがわかります。 自然と本が大好きな私にとって、賢治の本と豊かな自然の両方がある岩手は、特別な場所です。
東日本大震災の被災地になってしまい、海沿いを10年前に訪れた時はショックがひどくてしんどくなっていきました。もう見たくないと思ってしまった。復興した大好きな場所をいつかまた見たいです。
岩手へ戻るのに、10年かかりました。 父と来た日からなら、30年です。 それでも、小さな工夫を重ねていけば戻れる日は来るのだと、今回の旅で思いました。
PTSD、パニック障害は、今も抱えたままです。 人混みも電車も、得意にはなっていません。 だからこそ焦らず気長に、自分のペースで、行きたい場所をひとつずつ増やしていきたいと思っています。
同じように遠出を諦めている方が、行き先を消さずに持っていてくださったら嬉しいです。
30年前に岩手へ連れて行ってくれた父と、10年前も今回も一緒に来てくれた夫。 そして、旅先で親切にしてくださった方々に、心から感謝しています。 これからもマイペースに、楽しみを見つけながら歩んでいきたいです。
https://www.youtube.com/@yuichi_naomi_hattatsu
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