出口支援の一端を描いた漫画「帰る家がない犯罪者たち」のレビュー
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法務省が「ラヴ上等」とコラボして炎上した折、出口支援を題材とした作品がないかAIに聞いたことがあります。そこでオススメされた作品の中で、漫画「帰る家がない犯罪者たち」を実際に買って読んでみました。考えさせられる話だけでなく、人情話やホラーサスペンス回、どうしようもなさだけが残る鬱回など、自立準備ホームを舞台に様々な話が展開されていて非常に面白かったです。
「帰る家がない犯罪者たち」は、高崎ひいろ先生による青年漫画で、ジャンルとしてはヒューマンドラマに属します。2026年2月をもって全4巻(28話)で既に完結しており、まとめ買いすれば誰でもすぐに作品の全容を把握できて非常に追いやすいです。出口支援の一端を扱った貴重な漫画について知ってもらいたいので、今回はこれのレビューを書いてみましょう。
読破したうえでのレビューなので、一部ネタバレを伴う場合があります。また、この漫画の内容が出口支援の全てを的確に描いている訳ではありませんので、実際お読みになる場合はこれ一作だけで出口支援について知った気にならないよう気を付けてください。
優等生夫婦が直面する出口支援の厳しさ
主人公の老夫婦は自立準備ホーム「希望の家」と建設会社「明日組」を運営し、刑務所を出るも様々な事情で「帰る家」のない出所者に一時の住まいと働き口を提供しています。65歳を過ぎてから出口支援の世界に入るほど、知恵は豊富でバイタリティに溢れ情にも篤い、まさに「優等生」な老夫婦です。主人公の非凡さは少し読み進めれば嫌でも分かるでしょう。
作中一番手の出所者である下着泥棒の男は、ホームでも現場でも健やかに過ごし、監察官や現場の仲間らに恩義さえ感じていました。しかし、下着を盗む行為への衝動を抑えきれず、結局は再犯で逮捕されることになります。下着泥棒の男は決して猫をかぶっている訳ではなく、本気で皆に恩義や友情を抱いており、それを裏切ってしまったことを悔いていました。作中では明示されていませんが、彼は性嗜好障害の疑いがあり、本人の意志だけで抑えきるのは最初から不可能だったのかもしれません。
普通は社会復帰までの流れを一番手に据えたくなるところ、敢えて再犯という結末にしたことで「出口支援は決して楽な仕事ではない、寧ろ厳しすぎる業界なんだ」と読者に叩き込むストーリーテリングは見事です。非凡な優等生である主人公でも解決できなかったのであれば尚更、出口支援という業界の厳しさが伝わってくるでしょう。
多種多様な出所者たち
定員2名のホームには入れ替わり立ち替わり多種多様な出所者たちが訪れます。殺人で服役していた者、特殊詐欺の受け子で捕まった者、巨額の横領で世間を騒がせた者、認知症が始まっている80代の窃盗犯、元引きこもり、元ヤクザ、果ては仮釈放の無期懲役囚……。
「帰る家」のない理由もまた様々です。既に天涯孤独となっていたり、自分の罪で家族が離散していたり、特定を恐れて親元へ帰れなかったり、身元引受人が火災に遭ったり……。
出所者に応じて様々なドラマが展開されるのも、この作品の特徴であり魅力です。円満に旅立っていく者、人情に触れて涙する者、己の罪と向き合う者、結局再犯してしまう者、そして依存症と戦い続ける者。それぞれが歩む更生への厳しい道のりを見届けているうちに、あなたの「推し出所者」が何人か見つかるかもしれません。
依存症に関する知識は多少必要
この作品には明らかに厄介な要素として「依存症」を持つ出所者が何人か登場します。まず薬物依存の男。彼は覚せい剤取締法違反で捕まっていましたが、作中では出所後のこれからが本当に大変なのだと語られます。離脱症状だけだった刑務所の中と違い、売人の存在や薬物の誘惑が一生付きまとってきて、本人にも「一発だけ打てば楽になれる」という強い誤解が頭をよぎります。ある出来事で罪悪感を持った彼は、本当の更生と贖罪を目指して「ダルク(DARC)」に引き取られる訳ですが、そのダルクは実在する薬物依存症リハビリ施設です。
また、アルコール依存症の男も出てきます。彼は自分なりの方法で、これ見よがしに飲酒する同居人の嫌がらせを含めた誘惑を耐え抜いていました。やがて酒の誘惑を断ち切った彼は、勤め先でどうしても飲みに行きたいという同僚から運転手を頼まれてこれを引き受けます。「ハンドルを握るから大丈夫」と自分に言い聞かせていましたが……依存症でいう「スリップ」に陥った彼は更なる問題を引き起こしてしまいました。
このように、一部の回では出所者の行動や考えを理解する為には依存症に関する予習が求められます。ダルクが実在の施設であることも、依存症にはスリップがつきものであることも、本人の意志だけでは解決しないという基本すらも作中ではいちいち説明してくれません。無知な読者だとすぐ「本人の意志の問題」などと片付けかねないので、この辺りは優しくないなと感じました。
まとめ
出口支援の一側面である自立準備ホームを舞台とし、様々な出所者が繰り広げる更生や人情や業といったドラマが繰り広げられる本作。全体的に取材やデータなどの収集がしっかりしている印象で、前提知識のある読者や知識欲の旺盛な読者なら結構ハマれそうに感じました。
何より、結果が出しづらく一般からの理解も得づらい出口支援にフォーカスした点では貴重な作品なので、その業界に興味があるなら読んでみるといいかもしれません。Kindleだと何冊買ってもかさばらず、何より漫画を買いまくる味を知ってしまったので、今度は「前科者」や「初恋、ざらり」なども読んでみたいですね。
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