「頑張れって言ったって 何を頑張ればいいの?」――映画『生きて、生きて、生きろ。』を観て話す、世界メンタルヘルスデー上映会

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診察室で患者の話を聞く蟻塚亮二さん(右)(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.


10月10日は世界メンタルヘルスデーです。この日を前に、映画『生きて、生きて、生きろ。』の上映会が全国で開かれています。企画・運営するのは、精神保健福祉士や精神科医、ピアサポーターらの有志でつくる任意団体TOMY'S ACTION CLUB(トミーズアクションクラブ)です。世界メンタルヘルスデー映画上映会プロジェクトとして、今年で5回目になります。『生きて、生きて、生きろ。』は、震災と原発事故のあとの福島で心のケアを続ける精神科医と看護師を追ったドキュメンタリーです。無料のオンライン上映は9月25日と27日の2回が残り、10月3日には鹿児島で初めての参集型フォーラムが開かれます。

【開催概要】
・オンライン上映(無料):9月25日(金)19時〜21時30分、9月27日(日)14時〜16時30分。上映後にミニシェアタイムがあります。申込はPeatixで受け付けています。
・現地上映会:9月25日〜10月4日に25会場(9月21日時点)。会場と申込方法は、公式サイトの一覧ページで確認できます。
・第5回記念フォーラム:10月3日(土)9時30分〜16時、鹿児島大学郡元キャンパス。会場参加は500円(当日払い、小学生以下無料)、オンライン参加は無料です(午後のみ配信)。会場参加のPeatix申込は9月30日までで、当日受付もあります。
・前夜祭の特別上映会(10月2日、ガーデンズシネマ)は定員に達し、申込を終了しています。
・クラウドファンディングは10月10日23時59分まで受け付けています。

「生きていていいんだ、という希望を持った時に人は泣ける」――精神科医と看護師が向き合う、震災後の福島


映画『生きて、生きて、生きろ。』のポスター ©Nihon Denpa News Co., LTD.

『生きて、生きて、生きろ。』は、2024年5月に公開された113分のドキュメンタリーです。制作・監督・撮影は、日本電波ニュース社の島田陽磨さんです。カメラは二人を追います。福島県相馬市「メンタルクリニックなごみ」院長で精神科医の蟻塚亮二さんと、相馬広域こころのケアセンターなごみのセンター長で精神科認定看護師の米倉一磨さんです。

映画の紹介文は、公開当時の福島を「震災と原発事故から13年。福島では、時間を経てから発症する遅発性PTSDなど、こころの病が多発していた」と説明しています。蟻塚さんは連日多くの患者と向き合い、米倉さんは不調を訴える利用者の自宅を訪ねて回ります。


利用者の自宅を訪ねる米倉一磨さん(中央)(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.

登場するのは、津波で夫が行方不明のままの女性、避難生活の中で息子を自死で亡くした男性、避難が長引くうちに妻が認知症になった夫婦たちです。ある日、女性は枕元に行方不明の夫が現れたと話します。蟻塚さんは「生きていていいんだ、という希望を持った時に人は泣ける」と語ります。米倉さんは息子を亡くした男性に、ジンギスカンを一緒に焼こうと持ちかけます。診察室の中だけでは終わらない支援が、この映画の骨格です。


利用者の男性の自宅で食卓を囲む米倉さん(中央)(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.

福島の「あと」の時間は、いまも続いています。福島県の集計では、死者4,182人のうち地震や津波による直接死は1,605人です。避難生活の負担などで亡くなった震災関連死は2,351人で、直接死を上回ります(2026年8月1日現在)。避難を続けている人は、県内外あわせて2万2,373人です。映画が公開されたとき「13年」だった時間は、今年で15年になりました。

米倉さんは、上映会のクラウドファンディングのページに応援の言葉を寄せています。

「この作品は、心病む、SOSを出していいか迷う人々がどんな助けで回復していくのかを描いた、支援者の試行錯誤と当事者の回復の記録です。そして、資本主義に突き進む社会に、これでいいのか立ち止まり考える機会を与えてくれます。ヒントは、エンドロールにあります。」

時間がたってから表れる心の傷――「遅発性PTSD」とは


蟻塚亮二さん(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、命に関わるような出来事のあと、記憶が突然よみがえる、眠れない、気持ちが張りつめたままになる、といった状態が続く病気です。多くは出来事から間もなく始まりますが、そうとは限りません。国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」は、「数ヶ月から数年間経ってから、PTSD症状がはっきりとしてくる場合もあります」と説明しています。

米国精神医学会の診断基準DSM-5では「遅延顕症型」と呼びます。出来事から少なくとも6か月たつまで診断基準を完全には満たさない場合で、一部の症状はすぐに出ていてもかまいません。「遅発性PTSD」「晩発性PTSD」と呼ばれるのはこの型で、独立した病名ではなく、PTSDの一つの表れ方です。

蟻塚さんがこの型に出会ったのは沖縄でした。2010年、眠れないと訴える高齢の患者たちを診るうちに、背景に60年以上前の沖縄戦の体験があると気づきます。蟻塚さんも加わった當山冨士子さんらの調査(2013年発表)の対象は、介護予防事業に参加していた75歳以上の沖縄戦体験者です。257人のうち106人、41.2%が、PTSDの症状を測る尺度で「ハイリスク」とされる得点でした。発症率ではありませんが、戦争から67年たった時点の数字です。


沖縄・宜野湾市の高台から普天間飛行場を望む場面(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.

2013年から相馬市で診療する蟻塚さんは、沖縄で見た時間差の発症が福島でも起きると考えていました(映画の紹介文による)。震災から15年の今年、熊本でも大きな地震がありました。心の不調は、生活が落ち着いたように見えるころに表れることがあります。相談先は、この記事の末尾に載せています。

「感想をすぐに言わなくてもいい」――無料オンライン上映(9/25・9/27)と各地の上映会

オンライン上映は無料で、残りは9月25日(金)19時からと、9月27日(日)14時からの2回です。上映後には、参加者が感想を出し合うミニシェアタイムがあります。申込はPeatixのページからで、寄付付きのチケット(1,000円)も選べます。参加できる回だけ申し込んでほしい、と主催者は呼びかけています。

精神科医で劇作家のくるみざわしんさんは、クラウドファンディングのページにこんな応援メッセージを寄せました。

「これは応援メッセージだけれど「がんばれ」は言わない。がんばるとメンタルに悪い。メンタルヘルスデーにがんばったらメンタルヘルスデーでなくなってしまう。この映画上映会のプロジェクトは力が抜けている。無料で、オンライン配信を観るだけだ。スマホで自分の部屋から参加できる。感想をすぐに言わなくてもいい。良く考えられているプロジェクトだと思う。」

会場で観たい人には、各地の団体がTOMY'S ACTION CLUBと共催で開く上映会があります。9月25日以降は25会場です(9月21日時点)。関西と九州の主な会場を挙げます。詳細と申込方法は、公式サイトの一覧にある各会場のポスターで確認してください。

・9月25日(金):京都市(Anewal Gallery)、奈良県生駒市(いこまめ座)、佐賀市(さやのもとBASE Afan)、福岡県大川市(ヴィラベルディ)
・9月26日(土):神戸市東灘区(御影公会堂)、和歌山県那智勝浦町(那智勝浦町福祉健康センター)
・9月27日(日):大阪府門真市(KADOMADO)、大阪府泉南市(手仕事うどん店 いっかん)、神戸市中央区(兵庫県福祉センター)、神戸市西区(コープデイズ神戸西)、熊本県宇城市(あおば病院)
・10月4日(日):鹿児島県薩摩川内市(薩摩川内市総合福祉会館)

神戸市東灘区の会場では、上映後の15時から出演者の米倉さんとの対話の時間があります。


米倉一磨さん(映画『生きて、生きて、生きろ。』より)©Nihon Denpa News Co., LTD.

劇場で観たい人には、神戸の元町映画館が10月10日から16日まで「こころと映画の一週間」を開きます。本作の上映は10月11日(日)と15日(木)の11時50分からで、11日は上映後に蟻塚さんのトークがあります。事前予約はできず、当日9時30分から受け付けます。映画公式サイトによると、大阪の第七藝術劇場でも10月11日と13日に上映が予定されています。

「そんな地域でありたい」――相談支援の現場から始まった、TOMY'S ACTION CLUBの5年

TOMY'S ACTION CLUBは2021年7月、5人で始まりました。団体名は、5人の「呼ばれたい名前」の頭文字からつけられています。鹿児島の精神保健福祉士・白澤珠理さん、佐賀の精神科医・谷口研一朗さん、埼玉の精神保健福祉士で研究者の小沼聖治さんら、北海道から沖縄までの5人です。当事者や家族、支援者、専門職の有志が集まる任意団体として活動しています。

白澤さんは、鹿児島市の相談支援事業所で主任相談支援専門員を務めています。上映会の原点を、2024年に公開された取材動画(フクシのみらいデザイン研究所)で振り返っています。ソーシャルワーカーとして出会った精神障害のある人たちから、退院してアパートを探しても障害があるからと見つからず、実家にしか帰れないという声を聞いたそうです。グループホームをつくるときには、地域の反対運動もありました。見えない偏見と分断に、もやもやしたものを抱えていたと話しています。

転機は2017年のイタリア視察でした。誰が当事者で誰がボランティアかわからないまま、世界メンタルヘルスデーの催しを一緒に楽しむ光景に出会います。福祉の外にいる人も参加して一緒に考えられる場をつくりたいと考え、思いついたのが映画でした。上映会をやりたいと口にしたとき、研修会に参加していた当事者の一人が自分もやりたいと言ってくれ、それが背中を押したそうです。2022年のクラウドファンディングのページには、こう書いています。

「想いを声にすると「いいじゃん」「やろう」と賛同の輪が広がり形になりました。」

谷口さんは同じページに、こう記しました。

「自分自身を大切にすること、同じように隣人を大切にすること、当たり前のように共にあること。 そんな自分でありたい。そんな地域でありたい。」

初年度の2022年は40の都道県から申し込みがあり、延べ1,000人以上が参加しました。2025年は47都道府県すべてから申し込みがあり、延べ1,500人以上が参加しています。主催者によると、累計は延べ4,800人を超えました。2025年には、公益財団法人こころのバリアフリー研究会の「令和6年度 第10回こころのバリアフリー賞」を団体として受賞しています。

運営メンバーは全員がボランティアです。上映権や会場費、配信の費用は、毎年クラウドファンディングで集めています。今年の目標は143万円で、9月21日時点で127人から97万1,000円が寄せられています(10月10日まで)。小沼さんは2024年の動画で、ソーシャルアクションは今の報酬体系ではお金にならず、続けるには資金の確保が課題だと話していました。白澤さんは、自分たちらしい資金の集め方はまだ答えが見つかっていない、と率直に語っています。

5回目は鹿児島で――初めての参集型フォーラム(10/3)と前夜祭

これまでオンラインで開いてきたフォーラムを、5回目の今年は初めて会場で開きます。10月3日(土)9時30分から16時まで、鹿児島大学郡元キャンパスの農・獣医共通棟が会場です。会場参加は500円(当日払い、小学生以下は無料)で定員は200人、午後の部はオンラインでも無料で配信されます。Peatixでの会場参加の申込は9月30日までですが、当日受付もあります。大学への直接の問い合わせは控えてほしい、と主催者は案内しています。

午前は4つの分科会です。映画分科会では、本作を観て語り合います。ほかに、英国で生まれた学びの場を体験するリカバリーカレッジ体験(鹿児島では初開催)、「地域ピアサポーター」の養成講座、推しや元気の素を紹介し合うつながりワークがあり、全国から集まる実践者が担当します。午後は記念シンポジウム「物語や経験がメンタルヘルスにもたらす力」です。新日本映画社/エスパース・サロウ代表取締役の甲斐秀幸さん、ラグーナ診療所の森越まやさん、北海道ピアサポート協会の稲垣麻里子さんが登壇します。川柳大賞の発表や、5年間のアンケート調査の報告も予定されています。フォーラムは、鹿児島県と鹿児島市などの後援を受けています。

前夜の10月2日には、鹿児島市のミニシアター、ガーデンズシネマで特別上映会があります。作品は『デイヴィッドとギリアン 響きあうふたり』(2015年、ドイツ、100分)です。映画『シャイン』のモデルになったピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットと妻ギリアンを追ったドキュメンタリーで、こちらは定員に達し、申込を終了しています。

7月28日の熊本地震では、鹿児島県内でも薩摩川内市などで震度5強を観測しました。主催者は8月の活動報告で、被災した人に必要な支援が届いてほしいと願いつつ、こう書いています。

「こうした時だからこそ、人々の「こころの健康」や「自分を大切にする文化」を守るための対話の場を絶やさず届けていきたい」

震度7を観測した宇城市のあおば病院でも9月27日に、薩摩川内市でも10月4日に上映会が予定されています。鹿児島へ向かう人には、10月1日宿泊分から観光庁の「九州ふっこう応援割」があります(鹿児島県分の予約開始日と期間は、9月21日時点で未発表です)。

編集後記(川田祐一)

筆者は阪神・淡路大震災のとき、西宮市で1年間、復興支援のボランティアに入りました。福祉を一生の仕事にすると決めたのは、あの現場です。能登半島地震のあとには、福祉関係職員の応援派遣で10日間、被災した施設に入りました。いまも相談支援専門員として、日々、相談を受けています。

この映画で僕の目が留まったのは、医師と看護師が診察室を出て、家を訪ね、鍋を囲むところでした。上映会をつくった人たちも、アパートが見つからないという一人の声から始めています。当事者のメディアとして大事にしたいのは、制度の説明より先に、まず本人のところへ足を運ぶという順番です。上映会は無料で、感想を言わなくてもかまいません。近くの会場で、または自宅のスマホで、まず観てみてください。

【相談窓口】
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(受付の曜日・時間は都道府県によって異なります)
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間。福島県からは0120-279-226)
・いのちの電話 0120-783-556(毎日16時〜21時。毎月10日は午前8時〜翌日午前8時)

【公式サイト】
世界メンタルヘルスデー映画上映会プロジェクト公式サイト
https://wmhdfilm.wixsite.com/project
映画『生きて、生きて、生きろ。』公式サイト
https://ikiro.ndn-news.co.jp/
クラウドファンディング(CAMPFIRE)
https://camp-fire.jp/projects/966107/view

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
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