発達障害とWAIS-III(ウェイス・スリー)成人知能検査

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出典:https://unsplash.com

皆さんはWAIS-IIIという検査をご存知ですか?

WAISとは、Wechsler Adult Intelligence Scaleの頭文字を取った略語で、「ウェイス」と読みます。日本語での正式名称は「ウェクスラー成人知能検査第3版」です。対象年齢は16歳から89歳です。検査中に体調が悪くなったり、トイレに行きたくなったり、途中で休憩がほしくなったり、空調を調整してほしくなったりした場合は、申し出ることが許可されています。これは、より正確な検査結果を出すためです。

今回は、この検査の概要を紹介し、WAIS-IIIの検査結果と発達障害の関係を簡単に紹介したいと思います。

IQとは?

WAIS-IIIでは「言語性IQ (VIQ)」と「動作性IQ (PIQ)」と「全検査IQ (FIQ)」という三種類のIQが測定されます。

IQとは、「同世代の集団において、どの程度の知的発達の水準にあるか」を表した数値で、平均値は100です。点数が平均より高ければIQは100以上になり、点数が平均より低ければIQは100以下になります。IQは偏差値と同じ種類の数値です。

130以上は「特に高い」、120以上129以下は「高い」、110以上119以下は「平均の上」、90以上109以下は「平均」、80以上89以下は「平均の下」、70以上79以下は「境界域」、69以下は「知的障害」と分類されます。この分類は、後述する「群指数」にも当てはまります。

「言語性IQ」とは、「耳で聞いた情報を処理する能力や言葉を使って考え、表現する能力」を示すIQです。

「動作性IQ」とは、「目で見た情報を処理する能力、非言語的な知識や空間的な動きを把握する能力」を示すIQです。

「全検査IQ」とは、「言語性IQ」と「動作性IQ」から算出される総合的な知的発達の水準を示すIQです。一般的に、言語性IQは生育環境や学習環境の影響を受けやすく、動作性IQは後天的な要素の影響を受けにくいと言われています。

下位検査項目とは?

WAIS-IIIでは、14種類のテストを受けることになります。このテストのことを「下位検査項目」と呼びます。

下位検査項目には、単語の意味を答える「単語」、二種類の単語の類似点を答える「類似」、一般知識の問題に答える「知識」、日常生活のルールや常識に関する問題に答える「理解」、小学校で習う範囲の算数の問題に暗算で答える「算数」、耳で聞いた数字をルールに従って復唱する「数唱」、耳で聞いた数字や五十音をルールに従って復唱する「語音」、イラストが描かれたカードをストーリー順に並びかえる「絵画配列」、一部が欠けたイラストを見て、足りない部分を指摘する「絵画完成」、積木を並べて見本と同じ模様を作る「積木模様」、一部が空欄の図に当てはまるパーツを探して当てはめる「行列推理」、見本の記号を複数の記号の中から見つける「記号探し」、簡単な符号を見本通りに書き写す「符号」、パズルを組み合わせて見本と同じ形を作る「組合せ」があります。

下位検査項目は全て19点満点で、平均が10点になります。8点以上11点以下が「平均」で、14点以上を取れば、その下位検査項目が要求する能力が「高い」と分類されます。

群指数とは?

これらの下位検査項目の点数を四つの項目に分けて数値化したものを「群指数」と呼びます。

この「群指数」はIQではありませんが、平均値を100とする点や知的水準の分類は先に述べたIQと同じです。群指数には、言語による知識を状況に応じて利用する能力を示す「言語理解 (VC)」、目で見た情報を取り込み、要素を関連付けてまとめる能力を示す「知覚統合 (PO)」、注意を維持して耳で聞いた情報を処理する能力を示す「作動記憶 (WM)」、目で見た情報を事務的に多く正確に処理する能力を示す「処理速度 (PS)」があります。

「言語理解」は「単語」、「類似」、「知識」の点数で算出されます。「知覚統合」は「絵画完成」、「積木模様」、「行列推理」の点数から算出されます。「作動記憶」は「算数」、「数唱」、「語音」の点数から算出されます。「処理速度」は「記号探し」と「符号」の点数から算出されます。

「理解」、「絵画配列」、「組合せ」の点数は群指数の算出には使われません。

先ほど紹介しました「言語性IQ」は「言語理解」と「作動記憶」から算出され、「動作性IQ」は「知覚統合」と「処理速度」から算出されます。

数値のばらつき

言語性IQと動作性IQの差を「ディスクレパンシー」と呼び、これが15以上ある場合は、「発達障害の疑いあり」と判断されます。

しかし、ディスクレパンシーよりも重要なのは、群指数や下位検査項目の点数のばらつきです。発達障害ではない人の場合、群指数の差は15以内に収まると言われています。群指数の差が15を越える場合は、「発達障害の疑いあり」と判断されます。

下位検査項目の点数の差も、発達障害ではない人は5~6以内に収まると言われています。下位検査項目の点数の差が6を越える場合、「発達障害の疑いあり」と判断されます。

群指数や下位検査項目の点数の差が大きいほど、日常生活で困難な状況が起こりやすいと言われています。また、全検査IQが100未満であっても、群指数や下位検査項目の差が小さければ、発達障害と診断されることはありません。

私の場合

WAIS-IIIの解説が長くなってしまいましたが、ここでようやく私の場合について書かせて頂きます。

私の場合、言語性IQが「高い」、動作性IQが「平均」、全検査IQが「平均の上」でした。群指数は、言語理解が「特に高い」、知覚統合が「平均の下」、作動記憶が「平均」、処理速度が「平均の上」でした。ディスクレパンシーも群指数の差も15を大きく越えていました。また、下位検査項目の点数の差も、6を大きく越えていました。この検査結果には、主治医の先生も驚いていました。

私の場合、言語性IQが動作性IQを大きく上回っており、「知覚統合」の群指数が低かったのですが、この検査結果を見た主治医の先生がこう仰っていました。「例えば、自分のところにドッジボールが飛んできたら、あなたの場合、受け止めることは難しいはずです。ドッジボールでも受け止められないのだから、もっとボールが小さくなったら、到底、ボールの動きにはついていけないのです」と。この説明を聴いて、「道理で昔から球技が苦手だったわけだ!」と納得しました。

また、「言語理解」の群指数が「特に高い」だった私は、五教科の試験は割と得意でしたが、教科によってばらつきが大きく、得意な教科で点を稼ぐことで、総合点で平均を越えるという点の取り方でした。また、副教科の実技が苦手で、特定の友人とばかり仲良くしている生徒でした。そして、点が取れたり、好きなことや得意だと思ったことには人一倍注力するが、点が取れなかったり、嫌いなことや苦手だと思ったことには全く見向きもしないという自身の傾向に悩みつつも、「仕方がない」と開き直っているところがありました。この傾向は、今でもあまり変わっていないかもしれません。しかし、WAIS-IIIの検査結果を見た時、「ありのままの自分でいいんだ」という一種の安堵感(あんどかん)を抱きました。

まとめ

勿論、WAIS-IIIにも問題点はあります。例えば、「臨床心理士との相性で検査結果が変わり得る」、「検査当日のコンディションで検査結果が変わり得る」、「裕福な家庭に生まれた人は言語性IQが高く出やすい」、「抑うつ状態などの二次障害のある人は動作性IQが低く出やすい」などということがそれです。しかし、「どうして自分の能力はこんなに凸凹なんだろう?」と思い続けていた私は、WAIS-IIIの検査結果を見て納得し、「どのように強みを活かし、弱みに工夫すればいいか」を考えるための貴重な参考資料を手に入れたと思いました。同じように悩んでいらっしゃる方にも、WAIS-IIIを受けることをお勧めしたいです。

参考文献

「よも暮らし 成人ADHDが理想の生活を目指すブログ」、「WAIS-IIIとは?(1)」 https://www.yomocracy.com/

「よも暮らし 成人ADHDが理想の生活を目指すブログ」、「WAIS-IIIとは?(2)」 https://www.yomocracy.com/


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サンライズ

サンライズ

40代の男性。2年生で高校を中退。その年にメンタルクリニックを受診し、抑うつ状態と診断される。うつ病と闘い、自身の発達障害を疑いながら博士課程に進学するも、博士号は取れずじまいで単位取得満期退学。これを機に、それまで主治医の方針で「疑い」のまま保留になっていた自閉症スペクトラム障害の診断を受ける。現在は一人暮らし。趣味は読書、音楽(邦楽)観賞、YouTube、クイズ番組を観ること。

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