自己効力感を高める方法〜発達障害者の人生をプラスのスパイラルに

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皆さんは「自己効力感」という言葉を聞いたことがありますか?自己効力感とは、「自分ならやれる!」という自己に対する信頼感や有能感を意味する心理学用語です。自己効力感が高い人はそれだけで良い結果を出しやすくなり、成功することでまた自己効力感も高まるので、さらにやる気が出るというプラスのスパイラルに入れるのです。今回は、そんな自己効力感を高める方法をご紹介したいと思います。

自己効力感とは何か?

「自己効力感 (self-efficacy)」とは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された概念で、「ある結果を生み出すために必要な行動を、どの程度うまく行うことができるかについての感覚」と定義されます。簡単に言えば、「自分にそれを行う能力がありそう」「自分ならできそう」というように思える感覚のことです。

自己効力感と似た意味の言葉に「自信」があります。自信という言葉には、「自分の能力に対する信頼」と「自分の考えや行動に対する信頼」という二つの意味合いがありますが、自己効力感は前者、すなわち能力への自信です。

学習性無力感

やろうと思っていたことができなかったり、希望していたことが叶わなかったりすることを繰り返し経験していると、何に対してもやる気を失ってしまったり、「どうせダメだから」と最初から諦めてしまうことが普通になってしまいます。

このように、「努力しても良い結果に結びつけることはできないから何をやっても無駄だ」という思いが強くなり、困難に立ち向かう意欲や目標を達成しようというモチベーションが小さくなる状態を「学習性無力感 (Learned Helplessness)」と言います。学習性無力感とは、読んで字のごとく、不本意な結果が続き、「どうせ次も失敗するから努力しても仕方がない」という感覚を「学習」してしまっている状態です。

私もこの学習性無力感に陥っていた時期があります。私の場合、小学校でいじめに遭う→中学受験で不合格→進学した中学校でいじめに遭う→高校受験で不合格→進学した高校でいじめに遭う→高校を中退、という少年時代を送ったので、全く自己効力感を持てず、高校を中退して以降、なかなか大学を受験しようとしませんでした。また、博士課程では、博士論文を大学に提出する条件として、「最低でも一本の論文を大学外の学会誌に投稿し、掲載されていること」というものがあるのですが、どの学会誌でも投稿論文が採択されるのは狭き門なので、不採択が続き、「どうせ次に論文を投稿しても不採択なんだから努力するだけ損だ」と思うようになり、何年もだらけた生活をしてしまいました。

学習性無力感に陥ると、「自分はきっとうまくできない」「どうせまた失敗する」などと考えますから、やる気も起きずに行動を起こす気力も湧いてきません。そして、そうした気持ちで臨むので、当然ながら、それだけ良い結果も生まれにくくなります。これは、完全にマイナスのスパイラルです。

マイナスのスパイラルから抜け出すためには

学習性無力感によるマイナスのスパイラルから抜け出すためには、自己効力感を高める必要があります。マイナスのスパイラルに陥った人には、自己効力感を取り戻し、高めるのは容易なことではないと思えるかもしれません。

人は「効力期待」によって行動してみようと思い、「結果期待」によって実際に行動し、結果を得ます。効力期待とは、「結果を生み出すために必要な行動をうまくできるという予測」です。結果期待とは、「ある行動がどのような結果を生み出すかという予測」のことで、次に起こることや必要になるであろう方策をある程度イメージできる状態だと言えます。

自己効力感とは、効力期待にはたらきかける感覚です。効力期待は言い換えると、「結果は分からないけど、とにかくやってみよう」と思える感覚のことですから、学習性無力感に陥っている人は、何かの行動を起こす前から諦めてしまうのです。「とにかくやってみよう」という効力期待を高めることが自己効力感を高めることであり、学習性無力感に陥るのを避けることになるのです。

以前のコラム(「コントロールフォーカスとは何か?〜自閉症スペクトラム障害がある私の経験を通して」)で、私が二浪目の年に父親に無理矢理大学を受けさせられたことを紹介しましたが、この時に父親が取った行動は私に効力期待を高めさせるのが目的だったのだと今では思えます。

自己効力感が高い人が入れるプラスのスパイラル

逆に、自己効力感が高い人は、「できそうだ!」「自分ならやれる!」と考えていますから、常にポジティブな気持ちで行動するので良い結果を得やすくなります。成功すれば自己効力感も高まりますので、さらにやる気が出るというプラスのスパイラルに入れるのです。

つまり、「自己効力感→モチベーション→行動→結果→自己効力感→さらなるモチベーション」というわけです。

自己効力感を高める方法

このようなプラスのスパイラルは誰にとっても理想的です。では、自己効力感を高める方法はあるのでしょうか?

バンデューラによれば、自己効力感は主に4つの源泉によって形成されるとのことです。その4つの源泉をご紹介します。

①達成体験
自分自身で成功した体験や達成した体験。これが最も自己効力感を高め、定着させるのは言うまでもありません。しかし、明らかに自分の能力を超えた高すぎる目標を設定して行動しても、疲労とフラストレーションが生まれるだけですし、逆に低すぎる目標を設定して行動しても、「出来て当たり前」と思ってしまうため、自己効力感は高まらず、仕事力も上がりません。出来るか出来ないかが五分五分の目標を設定し、行動するのがベストです。

②代理経験
自分以外の誰かが達成している様子を観察し、「自分にも出来そうだ」「あの人に出来るなら私にも出来るはずだ」と感じる経験。大企業の社長や世界的に有名な人で代理経験するのではなく、自分と似た立場や境遇にいる人で代理経験するようにしましょう。

③言語的説得
自分に能力があることや達成の可能性があることを言語で繰り返し説得してもらうこと。信頼できる指導者や専門家などに説得してもらうのがベストです。自分で自分に言い聞かせるのも有効です。

④生理的・情緒的高揚
「気分」を高揚させる経験。ただし、酒や薬物などで気分を高揚させるのには一時的な効果しかありません。リラックスして気分を良くすることを考えましょう。

一度達成したら、目標を少しだけ上げ、また達成する、というスモールステップと、手帳を使って一ヶ月単位で目標設定をし、書き残すことで最終目標に至る過程の成果を「見える化」することがポイントです。

思い込むだけでプラスのスパイラルに

このように、プラスのスパイラルを生み出す自己効力感ですが、それが事実かどうかは関係がありません。自己効力感は、実際に自分に能力があるかどうかではなく、そう思い込んでいるかどうかなのです。

その一方で、学習性無力感もまた、思い込みです。発達障害者はその障害特性のため、学校でいじめに遭ったり、受験で失敗したり、職場でミスをして怒られたり、職場に馴染めなかったり、と人生でうまくいかないことが多いです。しかし、そこで「自分はダメな人間なので、どうせ次も失敗する!」と思い込むか、「今回はたまたま失敗しただけだ。失敗の原因を分析して、次に生かせば自分は必ずできる!」と思い込むかで、その後の人生が180度変わってきます。どうせ思い込むなら、プラスに思い込まないと損じゃないですか!

参考文献

こうのひろゆき、「自己効力感|モチベーション理論|生き方・働き方を模索する人のWEBマガジン ○モモチベーションアップの法則」 https://www.motivation-up.com

「自信(自己効力感)を高める秘訣|答えは〇〇の設定法にあった!|マインドセット|自己啓発|ビジネスのノウハウを学ぼう!」
https://business-1.net

石橋良造、「第53回:ダメな自分を学習しないために 同時にやるシクミづくりとヒトづくり、やっと気づいた改革の本質|Club-Z Zuken Inc, mail magazine site」
https://www.zuken.co.jp/club_Z/zz

サンライズ

サンライズ

40代の男性。2年生で高校を中退。その年にメンタルクリニックを受診し、抑うつ状態と診断される。うつ病と闘い、自身の発達障害を疑いながら博士課程に進学するも、博士号は取れずじまいで単位取得満期退学。これを機に、それまで主治医の方針で「疑い」のまま保留になっていた自閉症スペクトラム障害の診断を受ける。現在は一人暮らし。趣味は読書、音楽(邦楽)観賞、YouTube、クイズ番組を観ること。

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