発達障害の重複(ASD+ADHD)+LD〜重複さんは辛いよ

発達障害

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発達障害の代表には、自閉スペクトラム症とADHD(注意欠如多動性障害)、学習障害等があります。それぞれの特徴を個別で考えると理解しやすいです。しかし、現実は「その人」の特徴の理解と適切な支援をするのに、専門家すら苦戦しています。それは、異なる発達障害の特徴を同時に複数持つ方々(重複)が増えているからです。発達障害の重複さんの特徴と困り感について、私の話や事例を交えて紹介します。

発達障害は重複が多い?

お手数ですが本題に入る前に、三つの発達障害の基本的特徴について理解していただきたいと思います。

①自閉スペクトラム症(ASD)
・他者と共鳴をしない、好まない(社会的相互作用の難しさ):他者への関心が薄く、自分の興味やこだわりを優先します。空気が読めない、人付き合いが苦手など、一見ネガティブに思えますが、裏を返せば長所にもなります。ASDの方は、自分の興味のある、大切にしたいこと(こだわり)に対しては、「高い集中力」と「勤勉性」を発揮します。偉大な発見や功績を築いた方々は、自分の分野に対し「高い集中力」を発揮し、「周りの目や常識に囚われず」、「一切妥協せず」に取り組んできたからです。マイクロソフトのビル・ゲイツさんやアップルのスティーブ・ジョブスさんにも、アスペルガー症候群と思わしき特徴が見られたようです。

・コミュニケーションの特異性:非言語的サイン(表情や手ぶり、声の抑揚など)から相手の気持ちを察するのが苦手で、自分の非言語的サインを適切に使うのも苦手です(怖がっているのに笑ってしまうなど)。言葉の遅れについては、表出性言語(話す、伝える)と受容性言語(聴いて理解する)に難しさがあります。自閉症(知的障害あり)、アスペルガータイプ(知的能力と言語発達は平均以上)、高機能自閉症(言葉の遅れあり、知的能力は平均以上)によって、程度は異なってきます。

・感覚の特異性:聴覚などの感覚過敏や、感覚鈍麻(熱さと寒さを感じにくい)、特定の感覚への好みと執着(好きな感触や色にこだわる、変わった臭いを好むなど)が見られます。

②ADHD(注意欠如多動性障害)
・不注意:一つのことに集中ができず、目の前のあらゆる刺激へ興味が目移りするのが特徴です。ここだけ聞くとネガティブな特性ですが、裏を返せば「色々な刺激に興味のセンサーを働かせることができる」、という長所とも呼べます。

・多動性:長い時間じっとしているのが落ち着かないのが特徴です。一般的な活発との違いは、多動を「自分の努力だけではコントールし、抑えるのが難しい」点です。子どもの場合は授業中に席を立つので目立ちますが、大人に成長すると貧乏ゆすりやペンいじりなどの目立たない部分に移ることが多いです。こちらも一見ネガティブな特性ですが、「常に動きと変化を要求される」スポーツや演劇、手作業、一部のクリエイティブ活動などにおいて発揮できます。俳優トム・クルーズさんもこのタイプに当てはまります。

・衝動性:一言でいうと、頭よりも先に手と口が出てしまうことです。順番の割り込みや、怒るとすぐに口か手が出てしまうなどがあります。一般的なわがままと乱暴との違いは、これも本人の努力や自分への言い聞かせだけではコントールが難しい点です。衝動性も基本的にはネガティブな特性かもしれません。しかし、順番を守れるようにする、つい怒ってしまった時の対処などの工夫は可能です。さらに衝動性は裏を返せば、思いついたことをすぐに実行し、「チャレンジする行動力」にも繋がります。

③学習障害(LD)
・文字を読む・書く・理解する、聞く、話す、計算するなど、学習に必要となる基本能力に困難があります(読字障害、書字障害、算数障害など)。単なる学習機会の不足や苦手意識との違いは、何らかの配慮や工夫がなければ、努力だけでは学習の習得が難しいことです。

・読字障害・書字障害に関しては、LDを持たない人とは異なる「文字の見え方」が生じていると考えられます(知覚の特異性)。LDではない人には、『漢字』という文字を知覚できても、LDの人の目には、『シ、サ、口、夫、ウ、子』、という風に、くさかんむりがサに見えるなど、「文字がばらけて見える」という声をよく聞きます。算数障害については、数の概念とイメージ(数の大小、順序、暗算)が理解し辛いと言われます。

・学習障害の多くは、文字や数字の「見え方」が違うだけで、知的障害は伴いません。文字や数字を線やついたてで区切る、タブレットを使うなどの工夫をすれば、むしろ高い学力を発揮する方も多いです。映画監督のスピルバーグさん、俳優トム・クルーズさんもLDがあります。

・LDの心配としては、自分や周囲が困難に気付きにくい点や、いくら努力しても学力が実らない、叱責されるなど「自尊心を傷つける体験の積み重ね」から、抑うつや反抗、いじめや不登校などの「二次障害」に繋がりやすいところです。

以上で、個別に説明していくと各タイプの発達障害は理解しやすいと思います。しかし実際は、三つの内二つ、あるいは全てを同時に持つ人が多いです。私の周りも、純粋に自閉スペクトラム症だけ、ADHDだけの方はむしろ少なく、色々持っている(重複)友達と知り合いが圧倒的に多いです。発達障害のピアサポーターでフリーランスの精神保健福祉士の笹森理絵さんは、アスペルガー症候群とADHD、LD(算数障害)を重複しています。(どなたが言ったのか忘れて申し訳ありませんが、まさに発達障害のデパートだそうです)。異なるタイプの発達障害が同時に重なると、本人も周りも、支援者ですら、どの部分をどう具体的に理解し、対応していくのか混乱してきます。発達障害の専門に強い精神科医・本田秀夫さんは、発達障害が重複すると混乱し、一気に理解しづらくなることを述べています。その理由について、これから説明します。

自閉スペクトラム症とADHDの重複

まず自閉スペクトラム症とADHDの重複さん(ASD+ADHD)の特徴と困ることについて、紹介します。ASD+ADHDの重複さんの特徴の内、周囲が気になってしまうものに「不注意」があります。私の周りにもASD+ADHDさんが非常に多いですが、忘れものや遅刻が多い、整理整頓が苦手、集中力が続かないなどで、日常生活や勉学、仕事をギリギリでこましています。

私の場合は、自閉スペクトラム症の特徴のみが確認でき、ADHDの不注意は見られません。しかし、幼少期の私は周りの指示が耳に入らず、聞いたとしても次のやるべき行動に結びつかないため、先生や同級生によく注意されました。長くつまらない全校朝会では話を聞けない、運動会では指示が聞こえていない、今もボールペン字の誤字脱字を毎回必ずしてしまう等から、周りには「不注意過ぎる」、「集中力が足りない」、と言われてきました。さらに整理整頓が苦手なため、机や棚に本やものを次々と積み上げてしまう他、視野が狭いため探し物が目の前にあるのに気づかないこともしょっちゅうです。ここだけ聞くと、私には自閉スペクトラム症の他、ADHDの不注意が認められるでしょう。しかし、自閉スペクトラム症の「不注意」とADHD「不注意」は、背景が異なります。

自閉スペクトラム症の「不注意」は、自分にとって興味がないことには集中できない、「興味の限定」に由来するものです。私も昔から今も、自分にとって興味がない、大切なことではないものについては、話を集中して聞くことはできません。また、興味のある分野の授業を聞いていても、既に分かり切った話や前置きが長い時は、紙に落書きばかりしています。しかし、自分の好きな分野に取り組む時の私は、非常に高い集中力を発揮するようです。私はパソコンで文章や物語を書くことが好きです。最近私は、ほぼ毎日朝から晩まで一日中、ずっと座りっぱなしでパソコンをしていても、作業中はドライアイや肩こりを忘れて集中し続けます。しかも、それを私自身はまったく苦痛に感じないのです(精神的にはともかく、さすがに体がもたないので、いけそうでもあえて休憩を取るようにしています)。

一方ADHDの場合、自分の「好きなことや趣味をしている時も、集中が持続しない」のが特徴です。例えば好きなゲームで遊んでいても、ゲームをしながらテレビも見て、音楽も流し、お菓子も食べ、また別のゲーム機があればそっちも同時並行で遊ぶなど、複数のことを同時にかなり短いスパンで行うのです。発達障害カウンセラーの吉濱ツトムさんの場合、勉強する時は複数の異なるジャンルの本を一冊「数分置きの短いスパンで」順番に読んでいく方法を実践しています。自閉スペクトラム症は、興味のあることにしか視野がなく、景色の「一点」のみに焦点を当てる「虫眼鏡型」な認知が強いです。他方ADHDは、一部の景色の「全体とそこにある刺激」をあちこち見渡せる「望遠鏡型」な認知が強いです。これは、整理整頓やもの探しにも当てはまると思います。自閉スペクトラム症の方は視野が限られているため標的を見つけられず、ADHDは逆に全ての刺激に目が行くため、ものの整理と分類が難しくなります。

ASD+ADHDの重複さんの場合、互いに異なる性質がぶつかり合います。結果、「こだわりが弱まり」、両方の特性を微妙に持つことが多くなるため、発達障害なのに努力不足かだらしないという印象を受けやすくなります。ピュアな自閉スペクトラム症では、人付き合いが苦手で融通はきかなくても、高い集中力と能力の高さで活躍し、周りの理解があれば学校や職場で適応できます。ピュアなADHDなら、忘れ物の多さや集中力などのハンディを抱えていても、ADHDのみに特化した工夫で何とか補えます。またADHDは、明るく人付き合いに積極的な方が多いため、仕事や勉強は苦手だけど憎めない愛されキャラとして人間関係を築いていきやすいです。しかし、ASD+ADHDの重複さんの困りごとは、どちらの特性も発揮しづらい、もしくは両方のハンディを抱えてしまうことです。仕事や勉強でのケアレスミスや忘れ物が多いなどの特性に、人付き合いが苦手で融通の利かない特性が加わることで、仕事と勉強、人間関係のつまずきという三重苦に直面してしまいます。

学習障害の重複も忘れないで

前述と同様に、自閉スペクトラム症にLDの特性が入る方は、「こだわりの部分が弱まり」、知的障害のない場合は柔軟な対応がある程度できると言われています。すると、前述にも当てはまりますが、それぞれの発達障害の特徴は見られるが、診断基準を満たすほどではない方が現れます。

私はピュアな自閉スペクトラム症だと考えていますが、それとは別に「数の概念が理解し辛い」特徴もあります。小学校から高校時代、私は海外を行き来した経験や、いじめと不登校、勉強に興味を抱けない特性などが重なり、一般教養の学習機会が抜けています。特に算数と数学は、昔から今も一番苦手な分野です。私は、簡単な計算ですら指折りやメモを使わないとできません。紙に筆算を書いて全体図を見渡せるようにしないと、正確に計算できません。さらに、聴き取りの弱さもあいまって、耳で聴いた計算式と数の情報を頭の中で理解し、暗算することができません。数の大小を理解することも難しく、アルバイトでレジをやった時は、値段が異様に高く、おつりが異様に少なかったらしい、にも関わらずお客さんに指摘されるまで気付けませんでした。一時、私はLD(算数障害)も疑いましたが、恐らく違います。計算能力も測るSPIができなければ専門学校に入学することも、SPIを合格基準とする企業への就労もできないため、私は色々なことを諦めてきた面も否めません。しかし、精神保健福祉士にどうしてもなりたかったので、専門学校の試験に合格するために、わざわざ家庭教師を呼びました。とても理解のある家庭教師に恵まれたため、四則演算や因数分解などを学び、無事合格できました(頭の中の計算と数の概念の理解が難しいのは相変わらずですが)。

LDに伴う困難は、就学開始時に判明することが多いです。LDの特性が周囲の気付きや診断等で知ることができれば、読字障害の場合は文字の代わりに音声を、書字障害の場合はタブレットを導入するなどの「合理的配慮」が必要となります。しかし、LDの内、普通の子どもができることができない、わからないことを恥じ、それを誤魔化すために勉強不足や不真面目な態度を取る子どもがいます。周囲は、本人の誤魔化しの可能性を考慮し、「自尊心を傷つけない言葉がけ」を慎重に行ったほうがいいです。

ASDかADHDのどちらか、もしくはASD+ADHDにLDが加わることによって、生きづらさはさらに増します。しかも、勉強のつまずきがLDに由来するものだと本人も周囲も気づかない場合、本人の生きづらさはますます強まり、「二次障害」を起こすリスクが高まります。笹森さんのように三つの発達障害を重複する場合、知的障害がなければ普通学級に通う確率は高いです。しかし、例えば社会科などの記憶力は良く90点は取れているのに、算数だけは5点を取るなど、「できること、とできないことの差」が大きく出ます。特に日本では、五教科全てを平均的に取らなければ進級等に影響するなど、オールマイティーを良しとする風潮がいまだ支持されます。そんな中、LDを含む重複さんは苦手科目やできていないことにばかりに目を向けられ、否定的な評価を受けてしまうのです。発達障害の場合は、苦手なことやできていないことばかりに目を向けるのではなく、その人の「安心」と「得意分野」を伸ばしていくような関わりが大切です。苦手や失敗ばかりが続いていくと、自尊心の他、ますます意欲を失ってしまうことに繋がるからです。

まとめ

・発達障害は、複数種類の特性を同時に持つ「重複さん」が圧倒的に多いです。
・自閉スペクトラム症(ASD)+ADHDの重複さんの場合、互いに性質の異なる特性が混ざるため、その人の特性や困難を理解するのが難しくなります。
・ASD+ADHDの重複さんで「不注意」が見られる場合、ASDの特性(自分の興味にだけ注意が向いており、他のものが入ってこない)、とADHDの特性(好きな事をしている時ですら、あらゆる刺激に反応してしまう)どちらが背景にあるかを考えると理解しやすくなります。
・ASD+ADHDにLDも加わると、生活から仕事・勉学、人間関係などあらゆる面に困難や不便が生じやすいです。しかも、それぞれの特性が軽めに出ていると、発達障害だと気付かれ辛く、単なる努力不足やだらしなさとして不適切な評価と対応を受けるリスクがあります(二次障害)。
・苦手やできていないことばかりに目を向けずに、本人の「安心と自信」、「できること、できていること」を第一に考えることで、学習やチャレンジへの「意欲」と「自尊心」を守ることが大切です。

発達障害の重複さんを理解し、適切な支援ができる専門家はまだ少ないです。重複しているとなれば、発達障害の診断名や種類のあぶり出しに躍起になってもキリがありません。診断名と種類の有無ではなく、発達障害の重複さんが感じている「生活のしづらさ」や「困っていること」、それらに対する「想い」を丁寧に見て聞き、理解するほうが大切になります。今後は、発達障害の種類別というよりも、重複さんを含む「一人一人に合った支援」を本人と共に考え、「カスタマイズ(改良)」していく姿勢が求められるのではないか、と思います。

最期までご拝読ありがとうございました。

参考文献

・本田秀夫『発達障害、生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』SBクリエイティブ

・吉濱ツトム(2015)『アスペルガーとして楽しく生きる: ―発達障害はよくなります!』風雲舎

・笹森理絵・田中康雄(2015)『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく生かす』小学館

・星野仁彦(2012)『発達障害を見過ごされる子ども、認めない親』幻冬舎新書

・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書

・小野寺敦子(2012年)『ゼロから教えて発達障害』かんき出版

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

発達障害 注意欠陥多動性障害(ADHD) 学習障害(LD) 自閉症スペクトラム障害(ASD)

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