佐賀地裁の性犯罪者への判決が波紋!~減刑理由を知的障害とする悪手

知的障害

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今年2月、佐賀県で6歳の女児を商業施設のトイレに連れ込み乱暴した容疑で22歳の男が起訴されました。その判決が6月18日に佐賀地裁で出たのですが、検察の求刑5年に対し3年8か月の実刑判決となりました。問題は、佐賀地裁の今泉裕登裁判長が「被告には知的障害があり、衝動の抑制が困難だった」と発言していたことです。

今回のメインテーマは、「減刑の理由を“知的障害”だとハッキリ言ったせいで大騒ぎ!」という点です。「犯人は市中引き回しのうえ打ち首とせよ!」なとど被告への処罰感情に寄り添った話はしませんので、その辺りはご理解いただきたく思います。

強制性交等罪とは何か

安易な処罰感情に寄り添わない意思表示として、被告が問われた強制性交等罪について軽く触れておきます。

「強制性交等罪」とは、かつての「強姦罪」が2年前の改正でより柔軟かつ現代に合う進化のなされた法律です。男性加害者と女性被害者の構図から解き放たれ同性間などでも罪に問えるようになった点と、肛門性交と口腔性交も罪に問えるようになった点が目立った更新箇所となります。(非親告罪化もかなり大きい変更ですがそちらは割愛。)罰則は5年以上の懲役となりますが、佐賀地裁の判決では3年8か月となっています。こちらは後で詳しく話します。

実はその上に「強制性交等致死傷罪」というものがあり、刑罰は無期または6年以上の懲役と重くなります。しかもカスリ傷程度の軽傷でも立件できます。この点から察すると、被告は外傷を一切残さないよう犯行をしたのではないかと予想されます。なにしろ、罪状は「強制性交等罪」であって致死傷罪ではないのですから。一般的に考えられる強制性交等罪の手口ではまず大怪我になるので、外傷を残さない手口で致死傷罪を回避したという見方もできるでしょう。ちなみに、PTSDなど心的傷害に対して致死傷罪を適用するかどうかは判例によってバラバラで特に定まっておりません。

初犯だからと言えばよかったのに

さて、検察の求刑5年に対して判決は3年8か月と大きく下がりました。判決の理由として佐賀地裁の今泉裕登裁判長は「被告の知的障害」を挙げています。これは知的障害者のいる家庭などにとって非常にマズいです。そもそも強制性交等罪は5年以上の懲役とある中で3年8か月の判決が出るのも疑問に思われるでしょう。(とはいえ求刑通りになることは稀ですので、検察も5年と言わずもう少し強気に出られなかったのかとは思いますが。)

減刑となった本当の理由は、被告が初犯だからです。強制性交等罪の初犯はある程度減刑されて2年半から3年の懲役となる場合が多い(勿論、手口の悪質さや被害者の数によっては逆に重くなる)ので、今回の事件は寧ろ重めとも受け取れます。また、実刑であることから被害者側との示談が成立していないことが考えられます。隠蔽工作を考慮した結果が実刑判決とも解釈できるかもしれません。

「初犯だから」という理由を正直に述べたとしてもニュースを見た人は納得しないでしょう。それを考慮してもなお、減刑の理由に「知的障害」を挙げるのは稚拙と言わざるを得ません。このせいでYahoo!ニュースのコメント欄やTwitterの一部では「去勢しろ」だの「死刑に処せ」だの「やはり障害者は」だの物騒な文言が飛び交う祭り状態になりました。初犯が理由でも性犯罪であるからには「去勢」や「死刑」の単語くらいは出たのでしょうけれども。

遵法意識の有無と障害は切り離して考えたい

私に被告を庇う意図はありません。人通りの少ない所へ連れ込んで手袋を嵌めて犯行に及んでいた以上、抑えきれない衝動があったとは考えにくいでしょう。自分の快楽や優越感のために弱い子どもを脅かしてトラウマを植え付けるような行動は糾弾されて然るべきです。ただ、知的障害を理由に社会性や倫理観の習得を諦められていたのならば、それもまた不幸な事です。

知的障害者だから社会性・倫理観・コンプライアンスが欠けているという訳ではありません。ものを分別する知能がないからと端(はな)から遵法意識の定着を諦められた末の犯行かもしれないのです。健常者にも遵法意識に欠けた人間は数多くいますし、犯罪と無縁の暮らしをする知的障害者もまた多いです。そもそも遵法意識があるかどうかと障害者かどうかは別々ではないでしょうか。

もし周りの大人がしっかりと社会性やコンプライアンスについて教示し社会へ適合するよう教育したとしても、結局は遵法意識に欠けた大人へ育ってしまったケースはあるでしょう。これは知的障害者にも非知的障害者にも“平等に”起こり得る「可能性」です。人並みに療育したうえで遵法意識の希薄な大人に育っても、それは知的障害のせいでなく本人ひとりの問題です。知的障害者が犯罪を起こしたというより、遵法意識の薄い大人が犯罪を起こしたと表現するほうが適切だったように思うのです。

まとめ

本件における佐賀地裁の判決で迂闊だった点は、求刑通りにしなかった理由を知的障害に求めた裁判長の発言ただ一つです。初犯の判例に懲役3年程度が多かったのを大っぴらに理由と述べられなかったとはいえ、もう少し言葉を選べなかったのでしょうか。

遅ればせながらの療育が再犯防止には必要ですが、刑務所にそれが出来るとは考えにくいです。そうなると被告の出所後は気になりますね。既に成人した知的障害者の遵法意識を高める療育は難しく、加えて性犯罪は再犯率が高いとされています。

弱者への暴力に興じた被告が極度の「悪」であることに異論はありませんが、安易な処罰感情には疑問があったので、強制性交等罪の内容や判例といった切り口からこの事件について考察しました。目立った外傷がなくとも心的傷害の証拠となる診断書を出せばより重い致死傷罪が適用されたかもしれませんが、初犯なので5年以上の懲役刑は出づらいのではないでしょうか。

控訴するにせよしないにせよ、懲役後の社会復帰に向けた療育などの支援を万全に行わなければ再犯リスクは高まります。滅茶苦茶な厳罰を求める声も多いですが、処罰感情に従って生まれたミーガン法はあまり効果がないどころか受刑者の社会復帰を妨げたせいで却って再犯リスクを高めているという調査結果がありますよ。

参考文献

強制性交等罪とは|構成要件と強姦罪から改正されたポイント|刑事事件弁護士ナビ
https://keiji-pro.com

強制性交(旧強姦罪)初犯の量刑相場は?裁判事例と家族がすべきこと|刑事事件弁護士ナビ
https://keiji-pro.com

強制わいせつ致死傷罪、強制性交等致死傷罪とは?|強制わいせつ、強制性交等の致死傷罪について詳しく解説します|中村国際刑事の弁護士
https://www.t-nakamura-law.com

ミーガン法のまとめ:ミーガン法の現在
http://macska.org

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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