「19のいのち」サイトレビュー④~サイト開設後、外部からの反応は

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◀過去の記事:「19のいのち」サイトレビュー③~一般から寄せられた様々な声

やまゆり園事件の半年後にNHKの特設サイトとして始動した「19のいのち」ですが、扱った事件の大きさなどもあって開設直後から多くの反響がありました。NHKでもサイトへの反応や寄せられたメッセージなどを基にした特番や企画が、事件の節目節目で放送されています。

ネット上の慰霊碑としてサイトを始めるにしても、実名非公表や遺族感情など難題は山積みだったように思います。犠牲となった19人の生きた証を伝える慰霊碑はどうにか形となりましたが、やはり匿名であるという点で残念がる声もあります。

コメントを寄せたり似顔絵のアイコンを許可したりするなど精神的に安定してきた遺族も増えてきた今は、それぞれの記述量に差が出ているという問題もあります。こうした動きだけでも様々なものが見えてくる「19のいのち」には、外部でどのような感想が記されているのでしょうか。

最も多いのはやはり死を悼む声

twitterを見渡しただけでも19人の死を悼む声が比率としては大きい印象でした。ネット上の慰霊碑なので当然と言えば当然ですね。「泣いた」とか結構多いです。ただSNSではなくブログ記事などきっちりした形で感想を残しているところは無かったです。京アニ放火事件の後は一つの「落としどころ」として再評価されることもありました。

Twitterなのでしょうがないと言えばそれまでですが、マスコミ批判・政権批判・NHKそのものに対する批判も結構ぶら下がっていました。中には「施設へ厄介払いしておいて殺されたらワンワン泣くなんて虫が良すぎる」などと遺族への批判もありました。中傷と見分けがつきませんね。

私見ですが、そうした遺族への批判は重度障害者と同居するために必要な体力・時間・財力・精神力を甘く見積もっているのが大半だと思います。在宅介護を貫くと家族全員が無職になるというケースも少なくないでしょう。

生きた証を残すことに意義がある

「19のいのち」開設を受け、2001年から4年間やまゆり園で働いていたという元職員の西角純志氏が月刊「創」の取材に答えました。西角氏は犠牲者19人の生きた証を言語化して残すことこそ、植松被告へのアンチテーゼとして意義があるとしています。

植松被告の「障害者など跡形もなく消えてしまえ」という願望や、語るに及ばない人生と見做してきた世間に対し、19人それぞれの生前の姿を焼き付けるエピソードなどを残していくことは意味のある抵抗と言えます。未曽有のヘイトクライムを忘却の彼方へ葬り去ろうとする潮流に楔(くさび)を打ち込むことにもなります。

サイト開設から年月が経つにつれて、心情的に落ち着いた遺族や元職員などから寄せられる「生きた証」も増えてきました。その一方、「永遠にそっとしておいてくれ」とばかりに沈黙を貫く遺族や、「生きた証」が未だ数行程度しかない犠牲者もいます。

遺族・家族会・地域・運営母体と様々な思惑があり、「生きた証」を残す動きは難航していました。特に「思い出したくもない。放っておいてくれ。」と言われてしまえばそれ以上の無理強いは出来ません。事件に関することが禁句となったり、事件のことを隠していたりする家庭もあります。

しかし、多くの障害当事者が献花台に訪れるほどの関心度から、障害者にとって見過ごしたり忘れ去ったりすることは“あってはならない”こととなっています。事件後まもなくして世間の関心がリオ五輪にシフトしたので尚更です。

匿名という制限の中で

追悼式などの様子から窺えるのは、匿名という制限の中で足掻きながらも犠牲者19人を悼もうとする苦悶と模索の風景です。特に事件後数か月は「名前を明かせない」とする遺族が多かった為、匿名や非公開は当たり前でした。中にはやまゆり園への入所を周囲に隠していたために、偽名で葬儀を行っていた遺族さえいたそうです。

事件から約3か月後に開かれた「お別れ会」は完全非公開で行われ、中の様子はICレコーダーを持参した参加者の記録でしか分かりませんでした。「お別れ会」では19人それぞれのエピソードを、遺影を掲げ名前を呼びながら振り返っていたそうです。しかし、うち3人は遺影も名前もありませんでした。

はじめはメディアスクラムや追い討ちを避けるため匿名に賛成したのかもしれませんが、来年の初公判ではそうも言っていられなくなるかと思います。被害者がすべて匿名として裁判を進めることがどのような変化をもたらすかは分かりませんが、検察側にとって不利とならないような落としどころを探る必要はあるのではないでしょうか。

最終的な判断は可能な限り遺族感情に委ねられるべきですが、沈黙を貫いてフェードアウトしていくことは植松被告にとって思うツボになるのではないかと個人的には思うのです。植松被告の望み通り「障害者ごと跡形もなく消えてやった」ことになりはしないでしょうか。

参考サイト

「殺された19人は記号」元職員が感じた相模原事件の生きた証
https://ironna.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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