神出病院の患者虐待事件について~精神科病棟は二極化しつつあるのかもしれない

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神戸市西区の神出病院にて、精神疾患で入院していた患者3人を虐待していたとして看護師ら男性6人が逮捕されました。虐待の様子を撮影したうえに共有していたとのことで、それが逮捕の決め手にもなっています。

精神病院は特に入院ともなればピンキリと言われており、患者の回復に全精力を傾ける病院もあれば神出病院のように古来のイメージそのままの監獄じみた病院もあります。何にせよ、ただでさえ偏見が強く生きづらい精神疾患であるのに、最後の砦である病院が虐待三昧という体たらくでは困ります。

虐待が常態化するのはなぜ

精神科医の片田珠美さんは、「Business Journal」の連載でこの件に触れました。片田さんは研修医時代に神出病院で当直をしていた過去があり、「驚いた」と思われたそうですが、精神科の病棟で虐待が起きやすい理由も4つ挙げています。「密室性」「信憑性」「人手不足」「絶縁」です。

「密室性」は精神科病棟の特性上どうしても閉鎖的になってしまうことです。病識が無かったり暴れ出したりする患者もいるため、患者の外出や家族の面会などは制限せざるを得ません。それに伴い外部からの目が届かなくなり密室化します。特に夜間は悪事を簡単に隠し通せるほどで、今回の虐待も夜間を中心に固定メンバーで行われていました。

仮に患者の申し出があっても「信憑性」が問われてしまいます。精神科である都合上、患者が訴えても妄想・幻視・幻聴の類として聞き流される場合が多いのです。一応都道府県ごとに精神医療審査会が置かれており、職員の悪行を告発できるようにはなっている筈なのですが、形骸化していて役に立たないとの批判もあります。今回の事件が明るみになったのは、実は容疑者の1人が別件で逮捕されたのがきっかけだそうです。

精神科の看護師はなり手が少なく、「人手不足」は常に付きまとう課題です。一筋縄ではいかない患者と日頃から接するため心労などでの離職率が高く、人里離れた立地のせいで通勤もしづらく求人も敬遠されやすいのです。結果、採用活動で求めるレベルも低くなり適性の疑わしい職員を採用してしまいます。

片田さんが最大の要因と挙げているのは、精神科病棟が「絶縁」のために利用されている背景です。片田さん本人の言葉では「姥捨て山」と表現されており、病院によってはそういった状態になっている場合があるとのことです。長年悩まされた事情はあったにせよ家族から捨てられるように入院させられた患者も少なくありません。面会も外泊も退院もイヤという家族もおり、片田さんの経験では患者への面会をお願いすると「こっちは長いこと迷惑かけられてきたんだ!入院費払うだけでも有難いと思え!」と断られたケースがあります。患者としても逃げ場がないため、何かあっても対策のしようがないのです。

正当な治療とは

では、真っ当な精神科病院とは何なのかを、医療法人栄仁会の宇治おうばく病院が2016年に書いた記事を一例に挙げてご紹介しましょう。宇治おうばく病院の精神科救急病棟(A3病棟)について、看護師長の中村かおりさんが答えています。取材をしたのは栄仁会カウンセリングセンターの臨床心理士です。

A3病棟では入院から退院までを3つのフェーズに分けています。最初は患者の様々な不安を傾聴しながら静養させ、少しずつストレッチや座学といった治療プログラムに参加して、退院後に向けた話し合いや外泊を経て退院へと向かいます。その他、個室などの構造も壁の角度や高所の隙間などに注意しており、特に希死念慮への対策が入念になされています。

さらに中村さんは、身体拘束について「我々スタッフにとっては本来避けたいこと」と述べています。精神科病棟における身体拘束とは、「精神保健指定医の指示が絶対に必要で、明らかに自傷や他傷の可能性が高い患者へ一時的に行う医療処置」とされていますが、中村さんによれば体感1割は必要に迫られるのだそうです。

身体拘束には指定医だけでなく家族からも許可を要し、説得せねばならないことも多々あります。また、拘束中は食事や排泄や鬱血予防などの介護を付きっ切りで行わねばなりません。後遺症や治療の後退など想定されるリスクが多すぎるため、職員の間でも出来れば避けたい処置なのです。

精神科病棟は二極化しているのか

鉄格子の部屋で拘束されるという旧来のステレオタイプを打ち破るべく、近年の精神科は人も施設も鍛え続けています。その反面、旧態が抜けきっていない病院も決してゼロではありません。21世紀になってから壮絶な精神科での入院体験をしたという人もいるのです。

金銭面などの余裕があるかどうかで精神科病棟は二極化するのでしょうか。余裕があれば職員に高い給料を払って患者の心身へ最大限に配慮した治療プログラムを建てられますが、そうでなければ薄給激務で職員が辞めてしまい、穴埋めのために資質の低い者を採用して、いつしか問題を起こしてしまうのではと勘繰ってしまいます。

他の病棟よりも密室性が高く患者の告発も信用されにくい特性上、神出病院のような事例は他に幾つ隠れていても全く不思議ではありません。せめて風通しの改善だけでも議論されないものでしょうか。

参考サイト

患者同士にキス強制や水かけ、神出病院の看護師ら…精神科病院、暴行やまない構造的問題
https://biz-journal.jp

ドキュメント・ザ・舞台裏/精神科救急病棟のリアルな裏側をお見せします!
http://info.eijinkai.or.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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