社交不安障害はただの恥ずかしがり屋ではありません

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出典:Photo by Anthony Tran on Unsplash

これは社交不安障害の診断を受けたものの、治療を中断し放置したために症状が悪化し続け、最終的にはうつ病を併発してしまった私の体験談です。社交不安障害の症状をどうか無視しないで治療を受けてほしいという思いから書きました。

社交不安障害とは

皆さんは社交不安障害という病名を聞いたことはありますか?人との関わりに対して強い恐怖心があり、それに耐えたり、避けてしまうことで生活に支障をきたす病気です。雑談や面接、人前での発表など、人によって恐怖心を抱く場面は違います。震えや発汗など様々な身体症状が現れる人もいます。

原因はよく分かっておらず、脳内の神経伝達物質の不全や生育環境、遺伝要因など所説があります。日本における対人関係療法の第一人者である水島広子氏は著書の中で次の様にも指摘しています。「社交不安障害の人に多く見られるのは、とても批判的な人が身近なところにいた、というケースです。」(『対人関係療法でなおす 社交不安障害 自分の中の「社会恐怖」とどう向き合うか』55頁 水島広子著 株式会社創元社 初版 2010年)

繰り返される回避行動

  社交不安障害は思春期に発症することが多いと言われており、私自身も中学入学の頃から社交不安障害の症状が現れ始めたように思います。きっかけはハッキリとは分かりません。この頃から、自分は「ふさわしくない」という思いが常につきまとい、友達になろうと何度も声をかけてくれる同級生達に対しても、「自分の存在はこの人達に迷惑をかけている。本当は友達になんかなりたくないはずなのに無理をさせているに違いない」という思いを抱き、誘いを必死に拒むようになりました。今現在もこの「ふさわしくない」という考え方は払しょく出来ていません。

高校に入学してからも相変わらず、ごく少数の友達と付き合う程度でした。ただひとつ違ったことは、頻繁に学校から抜け出し、授業をサボるなどの「素行不良」が目立ち始めたのです。一見、「社交不安障害」と「素行不良」には何もつながりがないように思えるかもしれません。しかし、社交不安障害が「非行」につながるというケースもあるのです。私の場合、英会話の授業をサボることがとても多く、ただただ授業がだるいからサボっていると周囲からは思われていました。しかし本当の理由はクラスメイトとのコミュニケーションに不安があり、恐怖心から授業から抜け出していたのでした。しかしながら、もともと教師に対して反抗的な態度が多かったことも災いして、「社交に対する不安から授業を抜けている」ということを教師に気づいてもらえないまま、素行不良生徒として扱われていました。

このように、社交不安障害は「不安から回避行動を繰り返す」という症状が特徴的だそうです。私の場合は授業を「サボる」というカタチで回避行動が現れていたのだと思います。

これ以降、私の回避行動は悪化の一途をたどっていきました。

回避行動の悪化

    大学に入学してからは、人と交流を持つことで相手に嫌がられるのではないかという「自分なんかふさわしくない」という考えに支配されるあまり、回避行動が悪化していきました。サークル活動に参加することも、アルバイトをすることもありませんでした。人に対する態度が奇異に映ったのか、おちょくられたり、馬鹿にされることもありました。

大学在学時に海外の大学に留学する機会を得ました。しかし、留学先でも同じ大学から来ていた人達と交流を持つことはほとんどありませんでした。それどころか、本来なら彼らと同じ寮に入るところを、留学先の大学と交渉して私だけ別の寮に変更してもらうありさまでした。奇妙に思われるかもしれませんが、自ら大学と交渉するという労を費やしてでも彼らとの交流を回避したかったのです。「自分はきっと嫌がられる。その前に自ら交流を断ちたい」その一心でした。

変更先の寮では幸運なことに回避しきれないほど面倒見の良い寮友達に恵まれ、何とか留学期間を無事に終えることが出来ましたが、やはり授業での発表などでは最終的には回避することが出来ない(発表日が振り替えられるだけ)と分かっているにも関わらず、自分の発表日に授業を欠席するなどの回避行動を止めることが出来ませんでした。発表では全身の震えに襲われ、恐怖のあまり原稿から顔を上げることが出来ず、クラスメイトの顔を見ることは一度も出来ませんでした。

帰国後、新たに学びたいことを見つけました。それはアメリカの大学でしか学ぶことが出来なかったため、日本の大学を卒業後にアメリカの大学への学部留学の道を目指すことにしました。煩雑な手続きの末に入学許可がおりました。しかし、いざ入学許可がおりるととても恐ろしく思えてきました。

「周囲の人間とうまくやっていけないに違いない」「いじめられるかも」「また人種差別にあう」「授業の発表はどうするつもり?」「今度の留学では逃げることは絶対に許されない」・・・様々な予期不安による恐怖心に飲み込まれ、ついに私は入学辞退という人生を大きく左右するような回避行動を取ってしまったのでした。

社交不安障害の診断がおりるも・・・

    入学辞退後、私は精神状態がとても不安定になってしまい、訪れた精神科で「社交不安障害」と診断を受けました。しかし私は社交不安障害の症状を性格の問題と捉えてしまい、治療を受けることを中断してしまいました。このように社交不安障害という病気を性格と混同してしまうことはよくあることだそうです。

治療を中断した後私は就職し、社交不安障害と向き合う事もなくだましだまし生きてきました。そして症状が年々悪化し、回避行動や対人恐怖、震え以外にも様々な症状がどんどん増えていきました。動悸、発汗、赤面、息苦しさ、声が出ない、書痙、醜形恐怖、視線恐怖、会食恐怖、うつ状態・・・もう自分ではどうすることも出来なくなっていました。退職後、それまで張りつめていた糸がブツンと切れるように無気力になり、寝たまま動けなくなりました。

その後、私は前回とは別の病院で社交不安障害が原因の「うつ病」と診断されました。現在は就労移行支援事業所に通所しながら再就職を目指しています。

社交不安障害を軽くみないで

社交不安障害は人生にあらゆる制限をかけ、人生の可能性を狭めます。何度も回避行動を繰り返すうちに、消極的な生き方しか出来なくなっていきます。社交不安障害が自然に回復する率は低いといわれており、私のようにうつ病を併発する率も高いです。さらにやっかいなことに、周囲の人も本人自身も性格の問題と混同してしまい、社交不安障害の治療を求めて病院を訪れることはまだ少ないそうです。もし私のように対人場面において回避行動を繰り返してしまったり、不安が強い方がおりましたら、性格の問題と決めつけず、一度病院で相談されてみることをおすすめします。

参考文献

30,32,33,53,55,77ページ
『対人関係療法でなおす 社交不安障害 自分の中の「社会恐怖」とどう向き合うか』
水島広子著
株式会社創元社
第1版 2010年

【社交不安障害・社会不安障害(SAD)】
http://www.cocoro-support.com

【社会・社交不安障害】
http://www.n-ushicli.com

【社交不安障害】
https://www.tawara-clinic.com

【知られざる「視線の恐怖」 当事者たちの苦悩】
https://www.nhk.or.jp/heart-net

ヘラジカ

ヘラジカ

社交不安障害が原因の鬱病と診断を受け、現在移行支援事業所に通所し再就職を目指しています。趣味は音楽鑑賞、ライブに行くこと、寝ること、ショッピング。好きなものは動物(特に犬)と恐竜とポップコーン。

パニック障害・不安障害

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