反ワクチンと自閉症スペクトラム

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米ファイザー製の「新型コロナワクチン」が上陸した今、問題となっているのは「反ワクチン」派によるネガティブキャンペーンです。既に荒唐無稽な陰謀論を数多く展開しており、「DNAを改変し人間でなくしてしまう!」などと言い出す者まで現れました。

反ワクチンはWHOでも「世界的な健康に対する脅威」として挙げられるほど深刻な問題です。日本でもマスコミの過剰な反ワクチン報道によって「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)」の接種率が70%以上から1%未満にまで落ち込みました。この影響で子宮頸がんによる死者数が4,000人増えると推計されています。

反ワクチンの常套句は様々で、「医師や製薬業界の利権ズブズブだ!やめろ!」「DNAを書き換えられるぞ!」「マイクロチップを埋め込まれ国家に監視される!」と逞しい想像力を発揮し、言い出した自分たちさえ怯えています。その中でも反ワクチンが好む言い回しは「ワクチンのせいで自閉症になるぞ!」です。どうしてこのデマは根強く生き残っているのでしょうか。

(自閉症は現在、自閉スペクトラムやアスペルガー症候群と合併してASDと呼ばれていますが、本稿では自閉症で統一します。)

ウェイクフィールドの暴走

反ワクチンで目の敵にされた中に「MMRワクチン」というものがあります。MMRワクチンは麻疹・おたふく風邪・風疹を対象としたワクチンで、日本では未承認となっています。それでも、MMRワクチンへの冤罪は日本にも波及している訳ですから、反ワクチンのボーダーレス仕草には驚嘆を禁じ得ません。

反ワクチンが自閉症を引き合いに出し始めたのは、1998年のイギリスにおける不正論文からとされています。不正論文の主であるアンドリュー・ウェイクフィールド氏は、「異常行動をとる児童12人のうち8人がMMRワクチンを接種していた!」と書いていました。その裏でワクチン被害を訴える弁護士と金銭のやり取りをしていたことが判明し、論文自体の内容も科学的におかしいとして完全撤回を受けます。

論文の撤回に伴いウェイクフィールド氏は医師免許を剥奪されますが、そこに至るまで12年と決して早くありませんでした。そうしているうちにMMRワクチンへの忌避ムードは世界中へ波及し、麻疹を発症する児童が激増してしまいます。未承認国である日本も子宮頸がんワクチンで同じ轍を踏んでおり、対岸の火事とは言えません。

ちなみに、ウェイクフィールド氏は現在もなお反ワクチン活動を続けており、日本版Wikipediaの近影でも2019年の反ワクチン活動に出席した写真が使われています。

診断基準の変更、英雄の便乗

ウェイクフィールド氏の不正論文が市民権を得たのは、時の運でもありました。1994年に診断基準が「DSM-IV」として改定されるという出来事があったのです。自閉症の診断基準が出来上がったことで、当然ながら診断数は激増(1974年~2014年の間に20倍)しました。

「DSM-IV」の作成委員長だったアレン・フランセスさんに言わせれば、「変わったのは診断基準であって、児童がいきなり自閉症となった訳ではない」のですが、「診断数が増えたのは診断基準が変わったから」という因果関係に思い至る人はそう多くありません。ウェイクフィールド氏は「思い至らない人々」の心を掴み、「ワクチンが自閉症を増やした」と言いふらすことが出来ました。

さらにに反ワクチンを勢いづかせたのは、アメリカ自閉症協会の創始者であるバーナード・リムランド氏の参入です。リムランド氏は「冷蔵庫マザー」理論を打ち倒した「英雄」であり、自閉症の研究と啓発において偉大過ぎるほど偉大な存在でした。

リムランド氏はワクチンの保存料としても使われる有機水銀化合物に自閉症の原因を求めていました。そのため反ワクチンに迎合し、ウェイクフィールド氏を支持していたのです。しかもMMRワクチンには有機水銀化合物が入っていません。まさに「麒麟も老いては駑馬(どば)に劣る」有様でした。

ただ、見方を変えればリムランド氏は「親の教育が悪いから」に退化させないためにどうしても他の原因を捕まえる必要があったようにも思えます。反ワクチンの歴史などを「ブルーバックス」に寄稿した医師の大脇幸志郎さんは、「医学の無力さを認めたくないばかりに、母親と科学が交互に犠牲となっている」と評しています。

「科学的正しさ」だけでは納得されない

科学的に正しくないばかりか危険性さえ強く指摘されている反ワクチンですが、それでも勢力は衰えません。これを「馬鹿や情報弱者がろくに考えないで飛びつくからだ」で片付けていても、反ワクチンは考えを改めず感染症のリスクを高め続けていくことでしょう。

人は科学的根拠だけで物事を判断している訳ではありません。感情・信条・人間関係なども判断に影響を及ぼしているのです。「塩化ナトリウムを含まない塩を選びましょう!」などは最たる例です。過去に書いたコラムから幾つか抜粋しましょう。

「医師としては自閉症の原因は分からないし治療の概念がないというのが常識。しかし親としてはそんなものを受け入れられず、必死に原因や解決策を探ろうとする」(自閉症の子を持つ元総合診療医)
「確かに偽医療には300万円を騙し取られたし、他人にも絶対勧めない。しかし、小馬鹿にしてばかりの医者よりも、暖かく親身に接してくれた偽医療スタッフの方に感謝している」(夫を膵臓がんで亡くした女性)
「育児は文化・価値観・地域性などで違ってくるので、科学的なエビデンスを示しても(自閉症は)体の病気ほど浸透しない」(児童精神科医・医学博士)

ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院教授のハイジ・ラーソンさんは「反ワクチンを愚か者と切り捨てるのは簡単(だが無意味)。健康を守るには科学者が歩み寄り理解することが必要」と述べています。

ラーソン教授は反ワクチンの結束力や求心力についてこう語っています。「自分たちの疑問や心配事に科学が答えてくれず、抑圧を感じる人たちがいる。反ワクチン派はそうした人に寄り添って傾聴し、疑念を受容する」「『ワクチンを受けよう』と一律に同じ呼びかけをするだけでなく、一人ひとりの懸念や疑念に寄り添うことが重要になっていく」

デンマークで冤罪証明

一方、デンマークで長年行われていた研究では、MMRワクチンの無実を裏付ける結果が出され、アメリカの医学誌「内科年報」に掲載されました。なんと1999年から2010年の間に生まれた子ども65万7461人を1歳の誕生日から2013年まで追跡調査したという、サンプル数も期間も大規模な調査でした。

期間中で自閉症の診断が下りた対象は6517人でした。彼らについて、MMRワクチン接種の有無で差異は全く確認されなかったという結果が出たのです。

同様の研究が2002年に行われており、そちらも53万7303人という大人数の子どもを対象としていました。こちらはMMRワクチン以外の要素を排除したうえで行われた精度の高い調査で、同じくMMRワクチンが無関係という結果を出しています。

反ワクチンに対抗するには科学的正しさを持ったエビデンスを固めていくことが大切です。同時に、その正しさに胡坐をかかず一人ひとりの心配事に寄り添うことも並行させていかねばなりません。とはいえ頑固者を説得する手立てがないというのが現実なのですが。

参考サイト

インフルエンザワクチンと「ワクチンで自閉症」問題の正体(3ページ目)|ブルーバックス
https://gendai.ismedia.jp

なぜ「デマ」が絶えないのか。反ワクチン運動と「噂」の研究
https://forbesjapan.com

MMRワクチンは自閉症リスク?「反ワクチン」派が世界に及ぼす脅威
https://forbesjapan.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

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