なにが「障害は個性」だろうか

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Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

グレタ・トゥーンベリ氏が「アスペルガーは自分の才能である」という旨の発言をしていることはご存知でしょうか。なんでも「全てが白か黒かで嘘の下手なアスペルガーだからこそ見えてくるものがある」とのことです。2年前の記事ですが、なぜか今年に入ってTwitterのトレンドに上がってきました。

「障害は個性だょ☆彡」などと言ってくるのは、健常者や定型発達からの言葉であれば正直「何様のつもりだお前」と反発したくなります。ただ、障害者自身が(何の障害であれ)自分の障害を個性と主張するのも珍しくないため、結構ややこしい文言になってきました。

「正しい環境と適応で、ASDはスーパーパワーになる」とグレタ氏はツイートしていましたが、何をもって「正しい環境と適応」と言えるのかは後々結果論として語られる以外出てこないと思います。

補償の有無が分かれ目

障害が個性となるか否かの分水嶺は、「補償の有無」ではないかと思います。「補償」とは単に障害年金が貰えるとか障害者手帳で福祉支援が受けられるといった意味ではありません。障害をきっかけに抜きん出た感覚や才能が身についていることや、障害のために何かしら「免除」されることが、ここでいう「補償」です。

1つ例を挙げましょう。以前見たネット番組で全盲の人が「いまさら『見えたらいいな』とは思わない。見えないからこそ、相手の表情をうかがわなくていいし、漢字も(点字にないから)覚えなくていい」とおっしゃっていました。目が見えれば不便からは解放されるでしょうが、それでも全盲だからこそ漢字の勉強も表情の忖度も「免除」されているというのです。ここまできて個性と言えるかどうかのレベルではないでしょうか。

発達障害は特に個性か否かを履き違えられやすい分野です。「凸凹」などと言って誤魔化されることもありますが、抜き出た才能が備わっている発達障害者は少なくほとんどが「凹(おう)」だけ押し付けられた状態です。「凸(とつ)」があってもそれで生計を立てられない、語弊を恐れず言うなら「どうでもいい」ことばかりです。

何にせよ、障害者である自身が人生で成功し、それにいたらずとも経済的自立は叶っている状態であれば、自身の障害を個性と捉えてもいいのではないでしょうか。逆に言えば、人生のレールから外れ生きづらさだけがのしかかっている状態で障害を個性と言い張るのは、かなり無理があるといえます。

「障害は個性」と言えるのは、「補償」のある人だけです。大した「補償」もなく不便と不都合と生きづらさを押し付けられただけの状態を個性的とは言いません。そして、十分な「補償」のない障害者が多数派なのです。

個人モデル⇒自己責任論

更に問題なのは健常者や定型発達者が「障害は個性だから~」などと言ってきた場合です。こういう時は高確率で無責任な逃げ口上であることを疑わねばなりません。ある時は障害から目を反らすため、またある時は合理的配慮をしない言い訳として「障害は個性」は使われます。

障害の障害たるゆえんを本人に帰属させるのは「障害の個人モデル」といい、障害は社会が課したものとする「社会モデル」とは対となっています。個人モデルの過剰な押し付けは、不便も不出来も不都合も全て本人の責任とする「自己責任論」でしかありません。

誰もが障害を「スーパーパワー」とやらに転化できる訳ではありませんし、それをもたらす「正しい環境と適応」とやらを享受しているのは圧倒的に少数です。大半の人間は自分のハンデをひっくり返すほど内も外も強くないということを、各々が自覚せねばなりません。

1%にも満たない「チャレンジド・ドリーム」の実現が出来なければ「自己責任」で切り捨てる考え方は非常に危険です。そのような考えが氾濫すれば恐らく福祉は崩壊するでしょう。「障害は個性」の危うさはそこにあります。

ハンディキャップの「補償」も「逆転」も大半の障害者にとっては無縁であることを、障害者自身も含め重々理解しておかねばなりません。「夢の大逆転が起こる」という前提で将来設計やフローチャートを組むのは愚の骨頂です。

参考サイト

「アスペルガーは才能」ノーベル平和賞にノミネートされた発達障害の少女が投げかける
https://www.huffingtonpost.jp

子どもの障害は「個性」と言う人への違和感 「障害」と認めることが配慮生む|オトナンサー
https://otonanswer.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

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