やまゆり園・植松死刑囚が再審請求、別に不思議なことではない?

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2020年3月に死刑判決を受け、控訴取り下げによって確定した植松聖死刑囚ですが、2年後になる2022年4月末に再審請求を行っていたことが明らかとなりました。当然、遺族や関係者からは「何をいまさらと腹立たしく思う」「我々はもう前を向いて進んでいるのに、また振り出しに戻すつもりか」と憤慨の声が上がっております。

そもそも植松死刑囚は「疲れる裁判はもうしたくない」などの理由で控訴を取り下げていたはずですが、今になって再審請求をしたこととの辻褄が合わないように思えます。しかし、今までの死刑囚の傾向や植松自身の考えからすると、実は再審請求に出るのは別に不思議なことでもありません。

接見が減るほど元気もなくなる

私見を述べる前に、植松死刑囚を深く知る人間の見解を載せましょう。何度も面会を重ねた『創』編集長の篠田博之さんの意見です。

篠田編集長は再審請求について自分の所へ報道各社から問い合わせが殺到したとのべながらも「再審請求に必要な弁護士探しは行き詰っていた」「自分と無関係のルートからついた弁護士が再審請求を起こしたのではないか」としています。

2017年から3年間面会を続けた篠田編集長は、植松死刑囚についてある変化を見出していました。それは「面会の人が減るにつれ元気がなくなっていく」ということでした。誰とも面会のない日が続くと不安げな様子を見せ、面会があれば舌戦までしてくるほど元気が戻ってきます。接見禁止で面会が極端に減るのは、思想を説く機会を抜きにしても、植松死刑囚にとって耐えがたい環境でしょう。

幸い篠田編集長には「知人」として接見できる可能性が残されていますが、実際に接見できるかどうかは拘置所長の判断に委ねられています。篠田編集長の体感では「宮崎勤元死刑囚の頃よりも接見の希望が通りにくくなった」そうで、もうひとりの「知人」も接見が続けられず関連の連載を打ち切らされる格好となりました。

判決前は控訴どころか再審請求までもしない意思を固めていた植松死刑囚ですが、誰に何も説けない期間が長引いたことで意思が揺らいだのかもしれません。もっとも、再審請求まで駆り立てたのは「別ルートの弁護士」でしょうけれども。

延命策としてよくあること

ここで私見を挟みますが、植松死刑囚が再審請求に出たのはよくよく考えれば不思議なことでもありません。再審請求をしている間は死刑執行がされない傾向があり、冤罪を証明したいのでもない限り、再審請求は延命策としてしばしば用いられます。

実は再審請求も万能ではありません。再審請求中に死刑執行をしないのはあくまで「慣例」でしかなく、その間に死刑を執行するのは可能です。実際、死刑囚の一部は再審請求中に執行されており、1999年に執行を命じた臼井日出夫法相(当時)は「請求していても当然棄却が予想される場合は執行もやむを得ない」とのべています。

それでも死刑囚の7割は再審請求をするほどには信頼された手続きとなっており、歴任の法務大臣でも再審請求中の執行にまで踏み切らない方が多数派です。現に、1999年の臼井法相から2017年の金田法相・上川法相まで18年間、再審請求中の死刑執行はありませんでした。

では控訴取り下げは何だったのかといわれそうですが、あれは飽くまで「疲れる裁判」を続けないためであって、死刑判決に納得した訳ではないと思います。植松死刑囚が自らの間違いを認めたことなどただの一度もありません。死刑判決2日後、別の面会で「自分の主張は分かってもらえた」というむねの勝利宣言をしていたくらいです。

植松死刑囚は死刑判決を受け入れた訳ではなく、寧ろ「自分は死刑に値しない」と頑なに信じていました。死刑判決を覆すチャンスがあるなら利用もするでしょう。2年間も沈黙していた理由までは見当がつきませんが、「疲れる裁判」をもう一度やれるまで充電できたということなのでしょうか。

結局のところ、自らの死刑について微塵も納得していないのが再審請求に出た理由ではないかと思います。障害者差別の象徴が、死刑囚の7割が選ぶ延命策にすがる様子はある意味で情けなくも思ってしまいますが。

似た話がある

篠田編集長の話に戻します。彼は植松死刑囚が再審請求を決断した原因を、新たに接触した弁護士に求めています。2004年の奈良女児殺害事件の小林薫元死刑囚にも同じようなことがあったからだそうです。

小林元死刑囚は裁判当初から死刑を望み、検察の主張を全面的に認めていました。その一方で「実際の現場とは違う」と篠田編集長らには話しており、奈良地裁での裁判そのものについては「茶番だ」と納得していなかったそうです。控訴については逡巡こそしたものの、期限ギリギリになって取り下げました。

しかし後で小林死刑囚は新たな弁護士の説得を受け再審請求を起こしました。その弁護士は死刑廃止運動に関わっていたそうです。結局再審請求は却下され、間隙を突くように死刑は執行されました。

植松死刑囚もまた、今までと全く別の人権派弁護士に焚きつけられたのでしょうか。ヘイトクライムへ移った経緯などが本人の口から明かされるのであれば、少しくらい喋らせてもよさそうなものですが、万が一再審となれば処罰感情の面で巷の不満が噴出しそうです。

参考サイト

やまゆり園事件・植松死刑囚側再審請求 なぜ…被害者家族ら、驚きと怒り
https://news.yahoo.co.jp

相模原事件・植松聖死刑囚が死刑確定から2年を経て再審請求を起こした背景
https://news.yahoo.co.jp

再審請求中の死刑執行の現状と課題(PDFファイル)
https://www.ryukoku.ac.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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