映画の中の障害者(第5回)「さようならCP」

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Photo by Geoffrey Moffett on Unsplash

衝撃の前衛ドキュメンタリー

10月6日、「世界脳性まひの日」に因んで、原一男監督作品「さようならCP」(1972年)について考察します。脳性まひ者による障害者差別解消を目指した組織「青い芝の会」の横田弘さんがひたすら地べたを這いずり回り、ほぼ聞き取れない言葉を叫び続ける前衛映画と言ってもよいこの作品は、自主上映会を通じて、各地で青い芝の会支部が立ち上がり、世の中を少なからず動かしもしました。

私も脳性まひの芸人・醍醐(ダイゴ)さんと作品作りを重ねていて、身近ではあったのですが、ずっと未見でようやく今年配信で鑑賞することができました。車がビュンビュン交差する中、地べたをノロノロ這う嫌がらせみたいな衝撃の冒頭シーンから、ひたすら街を蛇のようにのたうち回るローアングルの横田さんの姿が脳裏に焼き付き、また焼き付けるためだけの作品と言っても過言でないでしょう(ちなみに配信だと字幕有りでも見れるそうです。字幕有りだと印象は変わるかもですが、2回字幕なしで鑑賞した感想です)。

障害者運動を変えた青い芝の会

さてそもそも青い芝の会とはどんな団体なのでしょう?有名なのは、介助者なしの車椅子利用者の乗車拒否に抗議するため、路線バスに乗り込み占拠した「川崎バス闘争」。また、寝たきりの障害児を殺した母親への世間の同情や減刑を求める声に対して、生存権の危機を訴える抗議活動。そのほか逸話は枚挙いとまありませんが、青い芝の会の行動要領に思想が集約しているので、ちょっと長いですが転記します。

行動要領
われらかく行動する
一. われらは自らがCP者である事を自覚する
  われらは、現代社会にあって「本来あってはならない存在」とされつつある自らの位置を認識し、そこに一切の運動の原点をおこなければならないと信じ、且、行動する.
一. われらは強烈な自己主張を行う
  われらがCP者である事を自覚したとき、そこに起こるのは自らを守ろうとする意志である。われらは強烈な自己主張こそそれを成しうる唯一の路であると信じ、且、行動する。
一. われらは愛と正義を否定する
  われらは愛と正義の持つエゴイズムを鋭く告発し、それを否定する事によって生じる人間凝視に伴う相互理解こそ真の福祉であると信じ、且、行動する。
一. われらは問題解決の路を選ばない
  われらは安易に問題の解決を図ろうとすることがいかに危険な妥協への出発であるか、身をもって知ってきた。
  われらは、次々と問題提起を行うことのみ我等の行いうる運動であると信じ、且、行動する。

これを読むと過激・好戦的でありながら抽象的であり、結局どうしたいのかよく分からない。今時のネット空間だったら「で、どうしたいの笑」に「いいね」ウン十万ついたろうと想像に難くありません。ただ、差別という人間と社会の本質的なものに争うためには、過激・好戦的かつ抽象的にならざるを得なかったのではなかったのではないかと考えさせられます。

ズルズルとアスファルトを這う横田さんを見ているとなぜ車椅子を使わないのか?と素朴に思われるのですが、

白衣の天使に付き添われてさ保護されるっていうスタイルなんだな

と語り、映画の最後は全裸の横田さんが路上で不敵な表情でカメラを見つめるショットで終わります。白衣の天使による「愛と正義の持つエゴイズム」に背を向けて、地べたで這いずり叫ぶ「強烈な自己主張」を通じて「自らを守ろうとする意志」を持ち続けること。保護という名の生殺与奪に対して、彼らは一貫して徹底的に抗い続けます。当然当時から「もっと社会と調和しろよ」「あいつらだけには近づくな」の声はあったのですが、与えたインパクトを考えると、青い芝の会は障害者運動を前進させるために、必要悪の役割を率先して引き受けていたように見えます。

街に繰り出す。あるいは慣れ

さて、ひたすら街に繰り出す彼らを見て、私は脳性まひの醍醐さんとの初めて二人でご飯を食べた時を思い出しました。今から6年前に映画オファーするために醍醐さん指定の焼肉屋でご飯を奢ったのですが、初めて脳性まひ当事者と数時間接した時のザラザラした違和感は鮮明に覚えています。告白すれば、醍醐さんが顔をテーブルに寄せてぎこちなく自分のフォークで食べる姿に異なる文化への居心地の悪さのようなものを感じてしまい、それはとても「レイシズム(人種差別)」的な感情だったと言えます。映画出演を快諾してくれたのですが、別れた後は、多様性をモチーフにした映画を作ると言いながら、この感情を持った自身の欺瞞性に罪悪感を持っていました。障害当事者の私ですらこれだから「いわんや…」と。
※醍醐さんに事前に本稿を見ていただいた上で掲載しています

しかし、意外とその問題は簡単に解決しました。単純にその後何度も打ち合わせ等で時間を過ごすうちに慣れて何も感じなくなってきたのです。ありきたりですが障害を「個性」として見れる。「慣れって大事だよね」というシンプルな話で、横田さんや青い芝の会が隔離された施設ではなく、街で暮らすことにこだわったのには「慣れこそ大事」という信念があったからでしょう。

醍醐さんの言葉は聞き取れないこともあるのですが、よくよく聞くと「あれとあれは付き合ってる」など結構鋭い洞察力・観察力に驚くことがあります。横田さんも相当な読書家で、その積み重ねから素晴らしい文章や詩の数々を残しています。ただそれも往々にして、身体的な要因以上に「障害者」という属性フィルターよって聞こえず、見えなくなりがちです。差別と言い換えてもいいでしょう。そのフィルターを取っ払って、一人一人の名前ある個人として向き合うには、まずは身近に接するというシンプルさ、「慣れこそ全て」だよねと作品を見て思い出しました。

血汗にじむバトンをつないで

今は建前としても「多様性」の時代であり、これはかなり画期的なタイミングに立ち合えてると素直にワクワクしているのですが、「さようならCP」を見ると、横田さんはじめ青い芝の会などの先人たちが血と汗と涙で掴み取ったものに乗っからせて頂いていると痛感します。今見ると「何もここまで…逆効果だろう」とすら思えるのですが、ここまでしなければ存在を認識してもらえなかった切実な時代だった…先人たちの積み重ねで今があると感謝しつつ、彼らの血汗にじむバトンを繋いでいかねばと右脳に刻まれるような映像体験になりました。未見の方はぜひご鑑賞ください!

参考リンク・図書
映画「さようならCP」
https://www.amazon.co.jp

書籍「差別されてる自覚はあるか-横田弘と青い芝の会「行動綱領」」(著:荒井裕樹)
https://www.amazon.co.jp

短編動画「CP食堂」(世界脳性まひの日に合わせて作成した、醍醐監督・主演作品)
https://youtu.be/uesLoB3vMRw

MXU

MXU

新潟県在住の映像作家。内部機能障害。代表作「BADDREAM」(2018年)。
多様性をモチーフにした映像制作プロジェクト「NICEDREAMnet」で毎月作品を発表しています。
https://www.youtube.com/channel/UCBtMFlHg3tJidPZTrjRLoew

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