障害者は「年収200万時代」を生きている

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Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

ある週明け、Twitterトレンドに「日本一周」が載りました。バイク乗りの22歳男性がバイクで日本一周するというアカウントだったのですが、「最期」のツイートが注目されたのです。その内容は川治ダム(栃木県日光市)を見下ろす画像と8か月ほど前に受けたADHDの診断書、そして自殺を仄めかす文章でした。日本一周の旅はこの世で打ち上げる最後の花火だったのです。男性の知り合いはすぐさま通報や捜索をしましたが、迅速な行動も空しく男性は亡くなりました。

「発達障害の診断名を受けて安堵する」という筋書きは、もはや「大人の発達障害」における神話となりつつあるのかもしれません。自分が発達障害の診断を受けて尚更絶望するのもあり得るということです。その原因があるとしたら、障害者の「薄給」と「社会的信用のなさ」にあるのではないでしょうか。勿論、両者とも障害者だけでどうにかなるものではありません。

障害者の長い長い「年収200万時代」

少し前に「年収200万でも豊かに云々」が貧乏思考過ぎないかと物議を醸したようですが、それは昔から障害者が通ってきた道です。遥か昔から障害者のほとんどが年収200万以下の極貧生活に甘んじてきました。

2019年の国税庁のデータによれば、全国の平均年収は約436万円だそうです。単純計算で月に約36万3000円になりますね。これを障害者に限定すると、平均年収は約220万円と半分程度にまで落ち込みます。200万は下回っていませんが、「そんなに貰ってない」という当事者は多いでしょう。なにせ、障害者の平均年収は身体障害者によって盛られた数字に過ぎません。障害種別でみていくと、年収200万すら届かない障害者の姿が浮き彫りとなります。

さて、年収200万円を月収に換算すると、月に約16万7000円ずつが境界線となります。この数字をよく覚えていてください。まず身体障害者の平均月収は、約24万8000円です。年収200万ラインを余裕で越えていますが、他の障害種はどうでしょう。知的障害は約13万7000円、精神障害は約18万9000円、発達障害は約16万4000円と、知的と発達は年収200万ラインを割っています。加えて申し上げますと、これらは「週30時間以上」働いている障害者に限ったデータです。週30時間未満も含めると、年収200万ラインを越えるのは身体だけで、他は年収150万前後に落ち込みます。

ちなみに、細かい障害種別となると、身体障害でも特に内部障害が高収入となっています。また、同じ発達障害でも言語障害や協調運動障害は別格で、その収入は身体障害者をも上回ります。内部障害・言語障害・協調運動障害は、他の障害に比べて担当できる業務が幅広く、雇う側としても配慮事項が少なく人気が高いのでしょう。

前にこの話を書いたコラムでは障害者の正規雇用が少ないことだけに言及していましたが、実際はそれに加えて職種や障害者枠の問題も密接に絡んでいます。最後の砦となる障害年金も、障害種によっては就労しながら受けるのが難しく、障害者なら誰でもという訳にはいきません。生活保護と障害年金だけで働かずに食っていけるなどと吹聴する御仁が偶にいますが、とんでもない誤解です。

「全員が等しく貧乏になれ」とは言いませんし、その思想にはむしろ大反対なのですが、障害者の経済事情とはこのように寒々しいものだということを知ってもらいたいです。

信用が無ければ立ち上がりようもない生活

「障害者は能力が低いから収入も低い」というのは、時代遅れの個人モデルに則した固定観念です。社会モデルに即して考えれば、「社会が障害者を信頼しないから収入が低い」となります。言い換えれば、障害者という人種に対する社会的信頼が皆無ということです。

実際に障害者枠での募集を見れば分かりますが、雑用や軽作業など賃金の低い職種が圧倒的に多いです。東京都では就労率向上を目指し、都内の特別支援学校に就労向けカリキュラムを盛り込んだようですが、実態は障害者枠での単純作業だけ出来る人材をこしらえる場でしかありません。

企業によっては障害者枠が数合わせ目的の社内座敷牢でしかない所もありますし、そんな数合わせを助ける貸農園ビジネスも自治体によっては奨励すらされています。何なら応募者の障害特性を見抜くための「不適性検査」までもが採用の場で出回っています。体よく隔離するか拒否するかの方法ばかり成熟している社会が、障害者を信頼していると言い切れるでしょうか。

学力だけを求められていた受験と違い、就活では健康面やコミュニケーション能力が激しく求められます。そのため、一流大学卒ですら就活に失敗して作業所に甘んじる発達障害者が珍しくないわけです。大学生全体における障害者の数は、2006年からの10年で5000人程度から20000人超と4倍以上に増えていますが、その内訳は持病や発達障害や精神障害だけが増加し身体障害など他の障害はほとんど変わっていないといいます。

障害者というだけで社会的信頼を失うことはもはや疑いようもありません。口先でいくら否定しようとも、証明する材料はそこかしこに転がっています。それでも頑なに社会モデルを認めない自己責任論の信奉者が、未だ発言権を維持しているのはどうにかならないものでしょうか。

参考サイト

DIエージェント/障害者枠で雇用された場合の時給や最低賃金は?
https://di-agent.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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