沼津ホスピタルが突きつける、抗しがたきドクターハラスメントの構造

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Photo by Li Lin on Unsplash

静岡県沼津市にある精神科病院「ふれあい沼津ホスピタル」が、2022年9月に当時勤務していた看護師が患者を暴行していた問題がありました。12月21日に病院側が記者会見を開き、1分近く頭を下げ続けるなどしています。

ドクターハラスメントは医師だけでなく、看護師やカウンセラー等も責任を問われるものです。沼津の件から浮き彫りとなったのは、精神科におけるドクターハラスメントが依然起きやすいことと、患者を守る制度が圧倒的に足りてないことです。

20日で2件

暴行は2件、別々の日に別々の看護師2人(現在はどちらも退職)によって起きていました。2022年9月の8日と28日、この20日間で2件起こったことになります。明るみに出ただけでもこの頻度ならば、常態化を疑われるのも仕方ないでしょう。

1例目は、「車椅子の患者が他の患者へ危険行為をしようとしたので、看護師が制止しようとして軽い怪我を負わせてしまった」と病院側は説明しています。この例では能動的な暴力を認めていない感じです。運動部の体罰でしょうか。

2例目は、「食事を床に落としてから食べる患者に対し、看護師が暴力を振るった」と説明されています。1例目と違って、病院側が暴力の存在を完全に認めており、庇う余地のないことが窺えます。

というのも、記者会見の前日までに警察の捜査や県による立ち入り調査が為されており、暴行を収めた映像(恐らく防犯カメラ)をはじめとする多くの資料が押収されました。2例目は明白な証拠を押さえられているため、説明に差がついたのではないかと思われます。

暴行により退職した看護師のどちらかは、マスコミの取材に対し「指導の行き過ぎた面はあると思う」と答えています。運動部の体罰でしょうか。

患者を守る法律が少ない

あらゆるハラスメントの温床となるのはパワーバランスの偏りです。ドクターハラスメントの場合ですと、医師だけでなく看護師やカウンセラーなども含めた医療従事者全てが、患者よりも圧倒的に上の立場にいます。それにも関わらず、弱い立場の患者側を守る法律は少なく、法整備の面で大きく後れを取っている状況です。

被害者への法的救済手続きが確立されていないので、泣き寝入りや隠蔽も往々にしてあります。先日に判決の出た聖路加国際病院の性被害訴訟もその一例で、被害女性は大きな回り道を強いられました。

一方、医療従事者側への法的な保護は手厚く、患者による暴力から守る体制は整えられています。例えば、医師法19条で「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められている、いわゆる「応召義務」があるのですが、これの例外となる「正当な事由」が2019年12月に拡大されました。

医師の人権を守るための法改正ですが、「言葉が通じない」「無関係なクレームなど迷惑行為が多い」といった理由でも応召義務の例外となります。具体的に何が「迷惑行為」なのか定まっていない以上、解釈は医師ごとに違ってくるでしょう。ここで懸念されるのが、拡大解釈による制度の悪用、医師が患者を選り好みするリスクです。

極端に言えば、気に入らない患者を「迷惑行為」のもと追放するのも自由となります。そんな馬鹿なと思われるでしょうが、聖路加国際病院の件でも被害女性が本来必要とする難病治療をストップされかけていたので、決して突飛な話ではないのです。

悪賢い精神科医の存在は、入院するかどうかを本人に代わって決める「医療保護入院制度」が既に示唆しています。これを司る精神保健指定医の中には、患者家族を言いくるめる者、逆に患者家族の言いなりになる者、中には正義感や怨恨といった私情で判断する者さえいます。

そういった事情から患者の立場は極めて弱いと言えます。ハラスメントが起こったとしても、表に出ることは稀でしょう。立場の差を敢えて利用する悪辣な医師は全体のごく一部に過ぎませんが、その一部の為に多くの患者が犠牲になることにもまた目を向けねばなりません。

患者の声を形に

決して暴力を肯定するわけではありませんが、思い通りになる筈のない患者の相手を長期間続けていると、手をあげそうになるのを堪える場面は何度も出てきます。ドクターハラスメントは、医療従事者の過酷さに耐え切れなくなった結果とも言えるでしょう。精神科病院という場所はそういった意味で、被害者だけでなく加害者もドクターハラスメントに抗しがたいのかもしれません。決して暴力を肯定するわけではありませんが。

ドクターハラスメントの発生を防ぐには、患者の声を表出させていく必要があります。患者の意見を形にして、「越えてはいけないライン」を明確化することが、ハラスメントの予防や被害者救済に繋がるのではないでしょうか。

既に色々な所で、精神科についての患者(元患者)向けアンケートが実施され、結果も公表されています。精神科に通うきっかけや、主治医への印象、精神医療へ求めるものなど、自由記述で赤裸々に語られている調査もあります。普段我々が気にしていないだけで、患者側の考えや意見はそこかしこに転がっているのです。


参考サイト

精神病院で患者に暴行事件 ふれあい沼津ホスピタル会見
https://news.yahoo.co.jp

精神科病院で暴行が「指導が行き過ぎたかな」看護師が患者を殴る映像も
https://www.fnn.jp

医師法19条「応召義務」とは?応召義務を負わない「正当な理由」を解説
https://www.phchd.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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