ろう者の物語を、ろう者が語るとき ── 映画『幸せの、忘れもの。』中嶋元美さんインタビュー
エンタメ 身体障害
© 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL,A Contracorriente Films SL, Diverso Films AIE
聴こえない世界で生きるとは、どういうことか。手話で愛を交わす夫婦のもとに、新しい命が宿ったとき、なぜ「幸せ」が「疎外」へと姿を変えるのか。映画『幸せの、忘れもの。』が5月1日(金)に公開されます。
聴こえない世界に生きるろう者アンヘラは、手話で心を通わせ寄り添う夫エクトルや陶芸工房の仲間たちと共に平穏な日々を過ごしていました。やがて、妊娠と出産という「幸せ」に恵まれるアンヘラ。皮肉にもそれは、彼女を再び「疎外の世界」へ連れ戻し、「本当の幸せ」を捕まえる試練の始まりとなります。
主演のミリアム・ガルロはろう者であり、監督エバ・リベルタの実妹でもあります。姉妹が長年経験してきた人生の全ては、作品にこれ以上ないリアリティを与えています。ろう者の世界と聴者の世界が違うこと、その違いの中でも親として夫婦としての在り方を模索する姿、これらを一緒に見守ってみませんか。
「この映画は聴覚障害についての論文ではありません。私はアンヘラをろう者全体の代表として考えたこともありません。アンヘラは母親になる過程を歩んでいる女性であり、パートナーとの関係に問題を抱え、両親との関係も複雑で、娘に自分のことを知ってもらい、また愛してもらいたいと願う女性です。そして何より、アンヘラはろう者です。アンヘラは世界を受け入れる準備ができているけれど、世界はアンヘラを受け入れる準備ができていないのです」(監督のメッセージより)

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「鏡を見るような感じでした」── 中嶋元美さんが語る、ろう者として観た『幸せの、忘れもの。』
公式サイトでは、ろう者向けに作品を紹介する手話解説動画が公開されています。担当したのは、俳優・手話パフォーマーとして活動する中嶋元美さん。ドラマ『silent』の手話監修も務めた、ろう者当事者です。当事者として、表現者として、彼女がこの映画から受け取ったものを聞きました。

中嶋元美さん
──手話解説動画を担当することになった経緯を教えてください
「今まで映画の紹介解説のような仕事は経験が無かったのですが、実際にお仕事として紹介されて是非やりたいとお返事したのがきっかけです」
──ろう者の当事者として映画にどのような感想を持たれましたか
「主演が実際にろう者の俳優さんだったので、どのシーンを見てもろう者として自然。自分の経験にも共通する部分がありました。補聴器のシーンひとつとっても、私は補聴器に意味がないと思って付けていないのですが、聴者の輪へ入るとき合わせるために付けている部分が自分と重なり、鏡を見るような感じでした」
──手話だからこそ出来ることについて説明してください
「私たちろう者が日常生活で使うのが手話なので、字幕を見て理解しても自分の言葉という感じはしなくて、情報の噛み合い方でいえばやはり手話の方がスムーズです。人によるとは思いますが、私の場合は実際にろう者が自分の手話で発言し伝えてくれるのが見えるのはやっぱりすごくいいなと思っていて、手話で紹介するという意味ではろう者がよく理解できますし、聴者にとっても手話の表情や違いなんかを考えるきっかけになると思います。日常で手話と接する機会のない方が多いので、こうした映画やエンタメを通して楽しみながら手話と接するきっかけになるならば、手話で紹介する動画というのは良い取り組みです」
「小さな壁が、ろう者と聴者の間にある」── 日常の孤独と、ラスト15分の無音

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──後半15分ほど無音になる斬新な演出はどう思われましたか
「私が見ても全部無音なので、音のあるシーンとないシーンの区別がつきません。ただ最後の15分間に本当に無音となるシーンがあることは事前に教えていただきました。今まで音があったのが突然なくなるのは映像としては衝撃的で良かったと思います。聴者にとって、こういう音が無い、こういう音が違うという所で深く知らなかった世界を知ることが出来るという意味でのコミュニケーションが生まれていくと良いなと思います」
──動画を作るうえで苦労したことや良かったことはありますか
「自分の思うまま、ありのままの言葉でやらせて貰ったので苦労したことはないです。良かった点は、見てみたいきっかけとして実際にろう者が演じて紹介もろう者がして、こういう興味を持つ一歩になるかなというところです」
──ろう者と聴者の些細なすれ違いが度々描かれていましたが、ご自身も体験されていますか
「接客業をしており、職場の人間もお客様も聴者ばかりで基本的に声で会話するのが当たり前の世界です。一対一だと筆談や身振りで考えてくれるんですけども、話の輪に入っていくのは難しくて、何か盛り上がってることしか分かりません。それが悪いと言いたいわけではないのですが、そういう小さな壁がろう者と聴者の間に所々あります。別にどうこうしてほしい訳ではなく、そういう状況や孤独感もあるんだということだけ分かってもらえればと」
「諦めるって、意味分からないじゃないですか」── 制度はあっても、届かない現実

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──「世界はアンヘラを受け入れる準備が出来ていない」というメッセージをどう受け取られましたか
「バリアフリーとか多様性とかなんでも皆が生きやすく暮らしやすいと言っている割に、実際は当事者が本当に求めている部分は改善されておらず、求めたところで『えっ』みたいな反応もあります。ろう者も情報を求めれば何かしらのサポートが必要だと法律ベースでなってきてはいますが、それも知らない方が多い。どんなに言っても『今回は無いんで諦めてください』みたいに言われて、諦めるって意味分からないじゃないですか。生活面でも、手話自体が珍しいものを見たような反応をされて、未だに下に見られているというか可哀想とか、そういうまだまだな点は感じます」
──日本の映画館でろう者が楽しめる環境はどのくらい整っていると思いますか
「楽しめるかどうかは別として、情報保障としての制度を守れているのが30%くらいの体感です。邦画の字幕付きは公開3日間だけとか朝だけとか条件付きで、結局常に字幕がある洋画に流れてしまうんですよね。字幕メガネにしても、映画の大画面で見たいのにメガネだと視野が狭まってガラス越しの文字とちぐはぐで、しかも期間限定。映画をもっと楽しむには、字幕をもっと当たり前にしていく必要があります。1ヶ月2ヶ月経っても当たり前に公開できる場所があれば、もっと環境や幅は広がっていきます。制度としては存在しても、現状で選択肢に入る映画というのは少ないかもしれません」
「必要なのは社会がろう者を受け入れる準備を進めることです。実際に自分の目で、本当に何が起こっているのかを見てほしい。想像だけで制度を決めるのではなく、実際にろう者と会って意見交換をして、それを集めた結果として施策を進めてほしい」
──この映画をどんな方にどんな気持ちで見てもらいたいですか
「手話のことも知らない、ただの映画好きの方にも見に来て欲しいと思います。この作品をきっかけに、なるほどこういうリアルがあるのかと考えてもらえればいいなと」
「鏡を見るような感じ」と中嶋さんは語りました。映画『幸せの、忘れもの。』は、ろう者の物語であると同時に、誰もが自分の姿を映してしまう物語でもあるのかもしれません。劇場で、その鏡をのぞいてみてください。
中嶋元美 プロフィール
1994年、東京都生まれ。俳優・手話パフォーマー。生まれつき感音性難聴で、高校時代に聴覚を失う。「もっちー」の愛称で活動。自身のYouTubeチャンネル「ハピもちchannel」他、多様なフィールドで、手話を「伝達」にとどまらない芸術表現として発信している。ソロコンサート「The Voice in My HANDS」や、かんぽ生命TVCMにも出演。2021年のパラリンピック開会式では、ダンサーとして参加。また2022年放送の川口春奈、目黒蓮(Snow Man)出演テレビドラマ「silent」では手話監修・指導を担当した。
出演情報:ミュージカル 「ASURA」出演(7/1(水)〜7/5(日)ザムザ阿佐谷)

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映画『幸せの、忘れもの。』 公式サイト
https://shiawase-film.com
■公開日:5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座ほか全国公開
■配給: スターキャットアルバトロス・フィル
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