5月12日はME/CFS世界啓発デー。指定難病に入っていない病気の話

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5月12日は、ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)の世界啓発デーです。看護の母フローレンス・ナイチンゲールの誕生日にちなんで制定され、世界各地で青いリボンとブルーライトアップが灯ります。日本にも推定8〜24万人の患者がいるとされるこの疾患は、しかし指定難病にも、障害者総合支援法の対象疾病にも入っていません。今日のこの記事は、世界啓発デーをいい話で終わらせないために書きます。

5月12日、ナイチンゲールの誕生日に灯る青いリボン

5月12日は、近代看護の礎を築いたフローレンス・ナイチンゲールの誕生日です。クリミア戦争での看護活動を経て帰国した彼女は、30代半ばでブルセラ病にかかり、その後の50年をほぼ寝たきりで過ごしたと伝えられています。後年、その病態がME/CFSであった可能性が指摘されるようになり、彼女の誕生日が世界啓発デーに選ばれました。

啓発デーが制定されたのは1992年。アメリカで患者運動を率いたトーマス・マイケル・ヘネシー・ジュニア氏の働きかけによるものでした。2013年、カナダの団体May12.orgがナイアガラの滝をブルーにライトアップしたのを皮切りに、世界規模のイベントへと広がります。

日本では2014年、ME/CFS支援ネットワークの前身団体が青森市のアスパムを青く灯し、日本の団体として初めて参加しました。以来、毎年5月12日の前後には全国各地でブルーライトアップや講演会、署名活動が続けられてきました。2026年は、金沢城・金沢駅鼓門・金沢クルーズターミナル、静岡市役所、神戸市内の著名建造物などが青と紫に染まる予定です。

10年以上にわたって患者団体が積み上げてきた啓発の灯りは、確かにここまで来ました。問題は、その灯りが届かない領域に、制度の死角が残されていることです。

ME/CFSとはどんな疾患か

ME/CFSは、健康に生活していた人がある日突然、激しい全身倦怠感に襲われ、その状態が長期にわたって続く疾患です。微熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、脱力感、思考力の低下、抑うつ症状などが重なり、就労や就学、家事、育児が困難になります。患者の約3割は寝たきりかそれに近い重症な状態で、介助を必要としています(2014年厚生労働省日常生活困難度調査)。

特徴的な症状の一つに、PEM(労作後の倦怠感、Post-Exertional Malaise)があります。短時間であれば日常活動はできても、その後に激しい疲労感に襲われ、1日以上横になって休息が必要になる状態です。ここでいう「活動」は身体的なものだけでなく、精神的なストレスや脳の疲労も含まれます。少し外出した翌日、何日も動けなくなる──そんな状態が繰り返されます。

睡眠をとっても回復しない疲労感、思考力や記憶力の低下、立ちくらみや起立時の動悸といった起立性調節障害も、診断基準に含まれます。これらの症状が6か月以上続いている場合、ME/CFSが疑われます。

厚生労働省研究班の調査では、日本における患者数は人口の約0.1〜0.3%、推定8〜24万人とされています。発症の引き金にはウイルス感染が多いとされ、近年は新型コロナウイルス感染症の後遺症との関連も注目されており、長期にわたる体調不良を抱える方の中にME/CFSの診断基準を満たすケースが報告されています。

注意したいのは、「慢性疲労症候群」という病名から連想される「ちょっと疲れが長く続く状態」とはまったく異なる疾患だ、という点です。仕事や育児の疲れが長引いている状態は「慢性疲労」であり、ME/CFSとは別物です。ME/CFSは、休息をとっても回復しない、日常生活が著しく困難になる、強烈な全身倦怠感を中核とする疾患です。

指定難病でも、対象疾病でもない

日本には、難病患者の医療費負担を軽減する「指定難病」の制度があります。指定難病に認定された疾患の患者は、医療費の自己負担に上限が設けられ、所得に応じて月額の負担額が抑えられる仕組みになっています。指定難病は2024年時点で約340疾病。

一方、障害者総合支援法には「対象疾病」というもう一つの制度の枠があります。こちらに含まれる疾患の患者は、障害者手帳がなくても、障害福祉サービス(ホームヘルプ、相談支援、補装具など)を利用できます。対象疾病は約370疾病が指定されています。
ME/CFSは、このどちらの枠にも入っていません。

NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会の公式サイトには、こう明記されています。「ME/CFSは、専門家も少なく、詳しい病態は未だ不明な病気です。一般の検査では異常が検出できず、指定難病や障害者総合支援法の対象疾患にもなっていません」。

これが何を意味するか。

ME/CFSの患者は、医療費助成の対象外です。専門医にかかろうにも、ME/CFSを診られる医療機関は全国に限られており、遠方への通院費を含めれば、医療費は積み上がる一方になります。障害者手帳の取得も難しい。症状が見た目に表れにくく、検査値にも異常が出にくいため、身体障害者手帳の認定基準にあてはめづらいからです。障害年金の申請も、初診日の特定が困難で、症状の変動を理由に却下されるケースが少なくありません。

働けない、家族の介助を受けながら生活する、医療費だけが積み上がる──これが、指定難病にも対象疾病にも入っていない、ということの経済的な意味です。

同じ5月12日が啓発デーになっている線維筋痛症、化学物質過敏症も、同様に指定難病にも障害者総合支援法の対象疾病にも入っていません。「見えにくい疾患」が制度の入口で止められ続けてきた歴史は、ME/CFSだけの問題ではないのです。

見えない疾患を、社会保障の地図に書き込む

これは認知度の問題ではなく、制度設計の問題です。

ライトアップは美しい。10年以上にわたって患者団体が積み上げてきた啓発活動の意義を否定する人は、誰もいないはずです。ただ、青いリボンを灯しても、患者の医療費は1円も下がりません。障害福祉サービスの利用が認められるわけでもありません。

障害者ドットコム代表の川田祐一は、相談支援の現場で「制度の入口にすら立てない人」を数多く見てきたと語ります。「指定難病に入っているかどうかで、当事者の生活は文字通り変わります。医療費の自己負担、障害福祉サービスの利用、障害年金の認定──制度の地図の上に名前があるかないかで、その人の毎日が決まる。ME/CFSは、その地図の外側に置かれ続けてきた病気です」。

もちろん、指定難病への追加は単純なものではありません。研究班での議論、客観的な診断基準の整備、患者数の推計、医療費の予算規模──いくつもの条件をクリアする必要があります。ME/CFSは検査値で異常が捉えにくく、診断が専門医の判断に委ねられる部分が大きいため、制度に組み込むハードルが高い、という事情もあります。

それでも、患者団体は動いています。NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会は、2010年の任意団体発足以来、国際的な診断基準の翻訳・普及、厚生労働省への要望、国会への請願を続けてきました。同会理事長の篠原三恵子さんは、メディアの取材に対して次のように語っています。

「ようやく治験が始まることを希望として、活動を続けていきたい。」

希望の灯は、たしかにあります。日本でME/CFSに対する治療薬の治験が動き始め、国際MECFS会議も毎年開催されるようになりました。研究の地平は、確実に広がっています。

問われているのは、その研究の進展が、目の前で寝たきりになっている患者の生活に届くまでの「制度の橋渡し」です。

青のリボンを灯す日に、私たちは何を問い直すか

5月12日は、看護の母の誕生日です。もしナイチンゲールが今の日本に生きていて、同じ病気で50年伏せることになったら──彼女は今の制度で救われたでしょうか。

指定難病に加えるか、障害者総合支援法の対象疾病に加えるか。議論の入口は、もう何年も前から開かれています。青のリボンを灯す日に、私たちは「見えない疾患」を社会保障の地図に書き込む議論を、もう一度始める必要があります。

参考記事

NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会
https://mecfsj.wordpress.com/

ME/CFS支援ネットワーク
https://mecfsnet.com/

ME/CFS info(医療・研究情報集約サイト)
https://mecfsinfo.net/

厚生労働省 ME/CFS研究班(国立精神・神経医療研究センター)
https://mecfs.ncnp.go.jp/

神戸市公式 ME/CFS解説ページ
https://www.city.kobe.lg.jp/a38966/kenko/health/promotion/sonota/cfs.html


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障害者ドットコムニュース編集部

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