夏うたはなぜ心に効くのか〜感覚過敏・パニック障害の私と音楽の記憶〜発達障害のASDとADHDを併発しています!<vol.39>
暮らし 発達障害
出典:https://girlydrop.com/cafe/14532#
発達障害のASDとADHDを併発しています!vol.39 <毎月1日連載>
今年の夏、1998年の曲が大きな話題になりました。T.M.Revolutionの西川貴教さんの「HOT LIMIT」です。一発撮りのYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」で公開されると、わずか3日で1000万回再生されたそうです。夏うたの力は、すごいなと思いました。私にも夏うたはありますが、感覚過敏(音や光などの刺激を強く感じる特性)のある私にとって、夏は一年でいちばん音の多い季節でもあります。蝉の声、花火、お祭り、人混みのざわめき。それでも夏の音は嫌いじゃなく、夏は大好きな季節なのです。楽しかった想い出がたくさんあります。
私は、音楽に何度も助けられてきました。なぜ昔の曲は、こんなに心に効くのでしょうか。調べてみると、心が記憶と曲をセットでしまい込んでいるからなのだそうです。今日は、音に敏感な私にとっての夏うたの話を書きます。
曲を聴くと、その曲を聴いていた頃の場面や気持ちが、一緒に戻ってくることがあります。音楽と記憶の結びつきは心理学で研究されていて、10代から20代の出来事は特に思い出されやすいことが知られています。想起量のグラフにコブのような山ができることから、レミニセンス・バンプ(回想のこぶ)と呼ばれているそうです。
以前このコラムで、つらい時に励まされた曲をご紹介しました。あらためて並べてみて、気づいたことがあります。PTSD(心的外傷後ストレス障害)とパニック障害を発症した頃に、繰り返し聴いていたKinKi Kidsの「kissからはじまるミステリー」と、中谷美紀さんの「MIND CIRCUS」。どれも、私の20代の曲でした。「HOT LIMIT」も1998年ですから、同じ時代です。私は知らず知らずのうちに、回想のこぶの上を歩いていたようです。世代によって、曲はそれぞれ違うと思います。でも、イントロが流れた瞬間に当時へ戻る、あの感覚は同じではないでしょうか。最近知った乃紫さんの「1000日間」のように、新しい曲が高校時代へ連れて行ってくれることもあります。記憶の扉は、古い曲だけのものではないようです。
私の夏うたは、コブクロが歌う大阪・関西万博のテーマソング「この地球(ほし)の続きを」です。私にはパニック障害(突然、動悸や息苦しさなどの発作が起こる障害)があり、特に地下鉄が苦手で、何十年も乗れませんでした。それでも昨年、入場チケットの都合でタクシーが使えず、どうしても地下鉄で万博会場へ行く日がありました。すごい満員電車だとわかっていたので、緊張しました。ところが地下鉄の車内には、このテーマソングと「次はいよいよ夢洲です」という楽しいアナウンスが流れていて、今までの息苦しくて怖い地下鉄のイメージとは、全く違っていました。私はもともと、電車に乗る時は音楽を聴くなど工夫をしてきました。でもあの日は、向こうから楽しい音が流れてきたのです。あんなに嬉しい驚きは、はじめてでした。今この曲を聴くと、大屋根リングも、ミャクミャクも、あの夏の景色がまるごと戻ってきます。私にとって夏うたとは、一瞬で楽しかった頃へタイムスリップすることが自分で選べる音です。
調べていて、心に残ったことがあります。認知症で記憶障害が進んでも、昔に覚えた歌は覚えていることが多いそうです。懐かしい音楽を聴いたり歌ったりする音楽療法(薬を使わない治療法のひとつ)は、認知症ケアの現場でも使われています。歌は、記憶のいちばん深いところにしまわれるのかもしれません。それを知って、真っ先に母のことを想いました。私は早くに大好きな母を病気で亡くしました。母は歌うことが大好きな人でした。お店で歌う仕事もしていましたし、ママさんコーラスをしていた時にはテレビやラジオにも出演して、代表で話すのはいつも母でした。亡くなった後も、録音した母の声を聞くことができたので、本当に良かったと思っています。今も、母の歌う声は、私の中に残っています。姿はもう見えなくても、声と歌は、記憶のいちばん深いところで生きているのだと思います。だから私は、歌の力を信じています。
ここまで音楽の良い面を書いてきましたが、音は、痛みを連れてくることもあります。私はPTSDの症状で、救急車や消防車のサイレンが怖くなった時期がありました。人混みのざわめきで、消耗してしまう夏の日もあります。音に敏感であるということは、良い記憶も痛い記憶も、強く受け取ってしまうということなのだと思います。研究でも、落ち込みやすい傾向のある方の場合、懐かしい記憶がかえってつらい感情を引き出すことがあると報告されているそうです。だから、聴けない曲があっていいと思います。つらい記憶と結びついた曲を、無理に聴く必要はありません。
その一方で、不思議なこともあります。KinKi Kidsの「kissからはじまるミステリー」は、私がPTSDとパニック障害を発症した頃の曲です。当時のことをはっきりと想い出します。それなのに今は、聴くと励まされます。堂本剛さんがパニック障害を公表してくださったことも、同じ障害のある私の励みになっています。つらい時代の曲が、時間をかけて味方に変わることもあるようです。どちらもあっていいのだと思います。
私の夏うたの使い方
私なりの使い方を、3つ書いておきます。
❶苦手な場所には、選べる音を持っていく。電車や人混みなど苦手な場所へ行く時は、イヤホンで好きな曲を聴く工夫をしています。苦手な外の音を全部は消せなくても、自分の音がひとつあるだけで、行ける場所が増えます。
❷気分にぴったりの曲を選ぶ。落ち込んだ日に、無理に元気な曲は聴きません。その気分に寄り添ってくれる曲を選ぶと心が軽くなって、カウンセリングを受けているような気分になることもあります。
❸つらい記憶と結びついた曲は、無理に聴かない。避けている曲があってもいいと思っています。
音楽でどうにもならないしんどさが続く時は、主治医の先生や、身近な相談先を頼ってください。
懐かしい夏うたに浸る時間は、私にとって大切なストレス解消のひとつです。夏は、楽しそうな音であふれる季節です。でも、夏が得意ではない方もいらっしゃると思います。無理に盛り上がらなくても、イヤホンの中に味方の一曲があれば、それで十分だと思います。
あなたの夏の記憶には、どんな曲が流れていますか。日々の生きづらさを話せる相手がいないと感じた時は、障害者ドットコムのピアサポート(同じ立場の仲間による支え合い)の窓口もあります。私もこれからも焦らず気長に、大好きな音楽と一緒に歩んでいきたいです。
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注意欠陥多動性障害(ADHD) 自閉症スペクトラム障害(ASD)


