みい山2巻に登場する「ニナちゃん」とは何者か

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アニメ化云々で賛成だの反対だの大騒ぎとなった「みいちゃんと山田さん」。その影響か講談社の過去動画や作者の過去インタビュー、そして旧バージョンにあたるKindleインディーズ版が非公開となっています。講談社の動画は兎も角、作者の考えが分かるインタビューや、現バージョンとの比較が出来るKindleインディーズ版は残しておいてほしかったですね。後に「みい山」を取る人が作者の意図から乖離した考察を押し通さない予防線にもなった筈ですし。

本来「みい山」は障害福祉を啓発する漫画ではありません。受け手がどのように消費するかがあまりにも自由すぎる作品で、「特性ある人々の物語」というのは数多の受け取り方の一つに過ぎない訳です。ある人は「福祉の限界と敗北を突きつけてくる」ある人は「読んでいて自分の醜い部分を浮き彫りにされるよう」ある人は「束の間のシスターフッド。事態悪化の原因はだいたい男」と評しました。私は、取っつきやすい絵柄とダークでつらい内容を両立する「連ちゃんパパ」の妹分的存在として消費しました。

だからといって、これ一作で障害福祉について知った気になるとか、優生思想の根拠にするとか、ろくでもない消費の仕方が認められるわけではないのですが。(そういうろくでもない消費者は他のどんな作品を与えても同じ反応をすると思います。単純そうなので)

今回は全部読んでいられないという人にも見てもらいたい「ニナちゃん回」を紹介したいと思います。単行本第2巻のネタバレを一部含みますが、ニナちゃん目的だけでも第2巻を購入する価値は大きいです。寧ろ、書き下ろしで救済ルートが用意されているぶん単行本で読むのがベストですらあります。

「ニナちゃん」って?

ニナちゃんは第7話「普通に生きてきた」にのみ登場するぽっと出のキャラクターです。そんな彼女が読者に存在感を残していったのは、ひとえに「特性」と「苦悩」によるところが大きいでしょう。サブタイトルもなかなか秀逸です。

ニナちゃんは端的に言えば「発達障害あるあるの詰め合わせ」です。たった1話のうちにADHD(一部ASD)によくあることをこれでもかと詰め込まれており、そこで職場と摩擦を起こして苦しむ様子がとても印象的です。

みい山のキャラクター造形は時々「障害特性のキメラ・パッチワーク」と非難されることがあります。よく槍玉に上がるツバサくんなんて、言語能力や遵法意識が乱高下しており雑にすら見えます。ところがニナちゃんは、発達障害によくあることを詰め込まれつつも、当事者などからの評価は良好な印象です。これは、発達障害の診断は「全部乗せ」が十分あり得ることも関係しているでしょう。

ニナちゃんの足跡

作中の年代は2012年、「ニナちゃんの特性を語る言葉が世間に広まるのはまだ少し先である」と語られる通り、所謂「大人の発達障害」が周知される直前のことです。

この回は、忘れ物をしたニナちゃんが店長に叱られている場面から始まります。大卒で昼職の経験もあるニナちゃんは、入ったばかりの頃は印象が良かったものの、このところ怒られっぱなしだと山田さんからも不思議がられていました。

ニナちゃんは山田さんへ幾つか悩みを打ち明けます。思ったことを口に出すことは、黙りこくるよりはマシとフォローされました。しかし美容院を予約してもドタキャンや度忘れですっぽかしてしまう話は、さすがに理解されません。地毛がせり上がることによる「プリン頭」を気にするのも、山田さんからは美容院の事情を先に案じるべきではと、二人の会話もかなりズレています。山田さんは、せめてプリン頭を隠せるようにとカチューシャを貸し与えました。

その日の勤務も、無神経な質問で客を凹ませ店長にまた怒られる、あちこちぶつけてアザになっているのをボーイに指摘されるなど散々。特に、よくぶつけると語るシーンはなかなか解像度が高いです。理由は色々ありますが、ADHDにしろASDにしろ油断が極まると体をどこかにぶつけてしまうんですよね。

昼職時代の回想も同じ流れ。最初は印象が良かったものの、ミスや物忘れを重ねることで段々周囲からの印象が悪くなっていき、3か月で「飛ぶ」つまり無断退職してしまいます。夜職のキャバクラを選んだのも、もし飛ぶことになってもしつこく連絡が来ないと見込んでのことでした。

「どの職場でも初めのうちは取り繕えるけど」「しばらくするとボロが出始めて『ダメ人間』の烙印が押される」
「頑張って頑張って頑張って頑張ってやっと人並み」「ギリギリ病名はもらえない」

散らかった自室で、ニナちゃんは悩み抜いた末にまた「飛ぼう」と決意。カチューシャを山田さんに返しそびれたまま物語から退場します。

翌8話ではキモオタ客代表のシゲオがみいちゃん以外の店員を心中でボロクソにけなすシーンがありますが、そこには既にニナちゃんの姿がありませんでした。「定型から見たハッタツ」の意見として、ニナちゃんがどう無理なのかシゲオくんには語って欲しかった気もします。

書き下ろしでの救済

単行本第2巻を勧めるのは、そこにしか載っていない巻末書き下ろしでニナちゃんが救済されているからです。そこでは36歳になったニナちゃんが、ようやく就職した一般職の正社員として働く姿が描かれています。本編の後も職を転々としており、今の職場に辿り着いてからは「もう転職活動はしたくない」と切実な思いを抱いているものの、正社員雇用で安定して働けている時点でかなりの成功者であることは分かると思います。

オープンかクローズドか、そもそも診断を受けたのかすら分かりません。しかし、時折ミスをしたりデスクを散らかしたりはするものの、温厚な上司によるフォローもあって、職場定着としては問題なく過ごしています。喋りすぎに気付くなど本編から成長した様子も見受けられます。

上司とのランチで、ニナちゃんは「20代のうちにちゃんと働けていれば」と後悔を吐露します。それに上司がどう返したのかは、実際に第2巻を買って読んでみてください。同じ巻に収録されている11話にはあの(?)須崎先生も登場しますよ。

正直スピンオフはニナちゃんで良かったと思う

アニメ化発表の少し前に「みい山」のスピンオフ作品が開始しています。スピンオフの主役に抜擢されたのは本編前半の舞台であるキャバクラの店長なのですが、その人選に対する疑問の声は少なくありません。勿論、純粋にスピンオフを楽しんでいる読者も居なくはないのですが。

本編ではレギュラー~準レギュラーの立ち位置で、朝礼(?)で呼びかけるなどそれなりに存在感をアピールしていました。しかし、好々爺かと思いきやとある悪事を主導していたことが後半で発覚し、それに対する報いも受けていません。インスパイア元とされる「ハンチョウ」「トネガワ」「イチジョウ」などは、いずれも本編で主人公に敗れ痛い目を見ているからこそ受け入れられる素地があった筈です。出演率だけでスピンオフの主役を決めるのは些か安直に過ぎたのではないでしょうか。

スピンオフの内容は「退勤後の贅沢」「サラリーマンのグルメ」だそうですが、それこそサラリーマンとして働けているニナちゃんでもよかったのではないかと今でも思います。作中行為よりも出演率だけでスピンオフの主役を決めるのは、「素直で可愛げがある」とは程遠い選択と言わざるを得ません。


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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